出典 https://blog.mcneelamusic.com/
アイルランドの楽器メーカーMcNeelaが公開しているブログの中から、アイルランド伝統音楽の学び方について解説している記事を許可を得て翻訳しました。
原文:Expert Advice on Learning to Play Traditional Irish Music
コンサーティーナ奏者Caitlín Nic Gabhannによるアイルランド音楽習得についてのアドバイス
三度のオール・アイルランド・コンサーティーナ・チャンピオンであり、アイルランドの伝統音楽の奏者・指導者でもあるCaitlín Nic Gabhannが、アイルランド伝統音楽の学び方について専門的なアドバイスをお届けします。
執筆:McNeela Instruments ゲストブロガー – Caitlín Nic Gabhann
たくさん聴いてください
できる限りたくさん、アイルランドの伝統音楽を聴くようにしてください。車の中でも、歩いているときでも、家にいるときでも構いません。これは本当に何度でも強調したい、大切なことです。アイルランド伝統音楽を学び、理解する上で、欠かせない部分になります。この音楽は、感じることが大事です。スウィング感、フレージング、流れ、スタイル――こういったものは、譜面では正確に表すことができません。
ですので、できる限りたくさん聴いてください。アイルランド伝統音楽のCD、レコード、ダウンロード、オンラインアーカイブなど、あなたが楽しめる形で聴いてみてください。さまざまな楽器、さまざまなスタイル、そして時代の異なる音源を聴くことができれば、なお良いでしょう。たとえば、50年前のアイルランドの伝統音楽やフォーク音楽も聴いてみてください。
あなたの音楽的なアイドルたちは、誰から学んだのでしょう?誰の演奏を聴いて育ったのでしょう?そうした人物の音源を探して、聴いてみてください。原点に立ち返るのです。いろいろなアイルランドの伝統楽器の音を聴いてみてください。
私は子どもの頃、コンサーティーナの録音を聴いてはいましたが、おそらくそれ以上にアコーディオンやフルート、フィドルのCDをたくさん聴いていたと思います。音楽が頭の中にしっかり入れば入るほど、指から自然にあふれ出てくる音楽も良くなります。
この音楽は、楽譜を読み取って演奏するものではなく、感じて演奏するものです。頭と心にこの音楽がしっかり入っていればいるほど、自然に、スムーズに、自分の中から湧き上がってくるようになります。
私の新しいウェブサイトでは、「Concertina Listening」というページで、私がおすすめするアイルランド伝統音楽のアルバムと、それらを購入できる場所を紹介していますので、ぜひご覧になってください。
出典 https://blog.mcneelamusic.com/
メロディーを歌ってみましょう
新しいアイルランド伝統音楽の曲を学ぶときは、まずメロディーを歌えるかどうかを確認することがとても良い出発点になります。頭の中でその曲を歌うことができますか?私のアドバイスは、楽器で演奏を始める前に、まず頭の中でメロディーをしっかり覚えておくことです。私はコンサーティーナの初心者クラスでも、まずメロディーを何度か聴いてから、一緒に歌ってみるということを勧めています。
こうして進めることで、フレージング(メロディーの区切りや流れ)を理解しやすくなり、いざ楽器を手に取ったときにメロディーを覚えるのがずっと簡単になります。頭の中でその曲をハミングできる状態になっていれば、演奏への良いスタートが切れているということです。ですので、もう一度「聴くこと」に戻りましょう。メロディーの録音を何度も何度も繰り返し聴いて、一緒に歌えるようになるまで聴き込みましょう。ある程度ハミングできるようになったら、いよいよ楽器で演奏を始めてください。
反復練習
楽器でアイルランド伝統音楽のメロディーの音を学び始めたら、私のアドバイスはただ一つ、「繰り返し、繰り返し、繰り返す」ことです。繰り返し練習することで、音に対する自信が生まれ、メロディーが自然で安定した流れになります。たとえ最初にすぐ覚えられたとしても、大切なのはその後にかける練習時間です。
ある曲の音だけなら6分で覚えられるかもしれません。でも本当に「弾ける」ようになるには、6か月かかることもあるのです。それは、繰り返しの練習と、メロディーとの自分なりの向き合い方や流れを見つけるプロセス、そしてもちろん、たくさんの「聴くこと」によって育まれるのです。
音楽的エクササイズ
ひとつの曲を何度も何度も演奏してください。ゆっくり演奏してみましょう。足でリズムを取りながら弾いてみてください。逆に、足を動かさずに弾いてみるのも良い練習です。拍の「オンビート」にある音に注目して、そこに重みをつけてみましょう。今度は「オフビート」の音に注目して、そちらにアクセントを置いてみましょう。装飾音をいっさい加えずに弾いてみるのも大事です。ときどき長い音を入れてみるのも効果的です。こうしたエクササイズを通して、曲の構造を自分なりに把握し、自分だけのリズム感、スウィング、そして自然な流れを見つけていくことができるのです。
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テンポを保ちましょう
先ほどもお話ししたように、メロディー自体は6分で覚えられるかもしれません。それは素晴らしいことです。でも、そのメロディーを「弾ける」ようになるには、おそらく6週間、もしくはもっと長い時間がかかるでしょう。曲にはたくさんの要素があります。たとえば、内側にあるスウィングやリズムなどです。どんな方法で学んでいたとしても、自分にとって心地よいテンポで演奏してください。
どうか、自分にとって無理のある速さで演奏しようとしないでください。焦って先に進もうとすると、流れやリズムが崩れてしまう可能性が高いです。これは、まだ準備ができていないうちにスピードを求めてしまうときに起こる典型的な失敗です。アイルランド伝統音楽の学習者や初心者によく見られる間違いです。スピードよりも、良い「流れ」をつかむことの方がずっと大事です。
リラックスしましょう
音楽を演奏するときには、リラックスしていることがとても大切です。速く弾くことを目的にしてしまうと、演奏が急ぎすぎているように聞こえてしまうことがあります。それよりも、一定のテンポを保ち、フレージング(メロディーの流れ)、リズム、音の流れに意識を向ける方がずっと重要です。
速く演奏している人たちは、何年も何十年もこの音楽に取り組んできた人たちです。中には非常に速く演奏する伝統音楽の奏者もいますが、彼らの演奏は速く感じられず、せかせかして聞こえません。それは彼らにとってその速さが自然だからであり、長年かけて身につけたものだからです。
ですので、焦らず、一定のテンポを保ちましょう。音に寄り添って、どこにアクセントを置くか、リズムはどこにあるか、そういったことを考えながら演奏してください。フレージングを磨くことに集中してください。こうしたことには時間も努力もかかります。メロディーを覚えたからといって、すぐにできるものではありません。メロディーを覚えたその後にこそ、「音楽」としての練習が必要なのです。
譜面から離れてみましょう
譜面は必要なときの補助として使う程度にとどめてください。それは「杖」のようなものだと思ってください。できるだけ、自分自身の耳で覚えることを目指してください。最初にしっかり時間をかけて耳で覚える努力をすれば、その努力は必ず報われます。耳で覚えた曲のほうが、譜面で覚えた曲よりもずっと長く記憶に残るものです。私はこの現象を何度も目の当たりにしてきました。
譜面に頼って伝統音楽を学ぶことに慣れている人にとっては、耳で覚えるという方法に切り替えるのは難しいかもしれません。音と音の間の距離(音程)を耳で感じ取ることがとても難しく感じられるかもしれません。でも、挑戦してみてください。やがて慣れてきます。そして、やってみる価値はあります。
この方法をとることで、譜面には書き表せない「音楽の感覚」も自然と吸収できます。繰り返しますが、この音楽は「感じる」ものです。「読む」ものではありません。
音にしっかり命を吹き込みましょう
次の音に間に合わせるために、今の音を短く切ってしまわないようにしてください。これは初心者によく見られることで、結果として演奏がぎこちなく、急かされているように聞こえてしまいます。ひとつひとつの音に、その音本来の長さをきちんと与えてあげましょう。音と音の間をしっかり満たして、意図的でない限り、不自然な「間(ま)」が生まれないように意識してください。
ある生徒はこう表現しました。「音に寄り添う(lean in)」と。音を最後までしっかり弾くこと。これは演奏の中で簡単に取り入れられる変化ですが、その効果はとても大きいのです。
出典 https://blog.mcneelamusic.com/
ゲストブロガー Caitlín Nic Gabhannについて
Caitlín Nic Gabhannは、アイルランド伝統音楽のコンサーティーナ奏者で、全アイルランド選手権で3度の優勝歴を誇ります。また、彼女はダンサーとしても活躍しており、力強く躍動感あふれるパーカッシブなスタイルが、彼女のコンサーティーナ演奏にも刺激的な魅力を加えています。