バウロン職人シェイマス・オケインのストーリー


出典 Mulroy Music

アイルランドの楽器メーカーMcNeelaが公開しているブログの中から、アイルランドの伝統音楽の世界で最も影響力のあるバウロン職人の一人である「シェイマス・オケイン」についての記事を許可を得て翻訳しました。

原文:Meet The Maker: Irish Bodhran Maker Seamus O’Kane

バウロン職人シェイマス・オケインのストーリー

私たちが愛してやまない楽器を支える才能豊かな職人たちを紹介する、新しいシリーズ「Meet the Maker」の第2回をお届けします。今回は、アイルランドを代表するバウロン職人、Seamus O’Kaneシェイマス・オケインをご紹介します。

アイルランドのミュージシャンなら誰でも、シェイマス・オケインの名前を知っていることでしょう。その理由は、シェイマスがアイルランドの伝統音楽の世界で最も影響力のあるバウロン職人の一人だからです。

アイルランドのバウロン職人、シェイマス・オケイン

彼はバウロンの世界では大物ですが、それには十分な理由があります。彼のドラムは音も良く、洗練されており、他の職人やモデルにはない歴史があります。– Shallibodhran


出典 http://www.tradcentre.com/

シェイマス・オケインはモダン・アイリッシュ・バウロンの父です。今日、マーケットで最も人気のあるバウロンのスタイルは、オケインの楽器の影響が広範囲に及んでいるために存在しています。

北アイルランドのDerry出身であるシェイマスは、若い頃から音楽に強い関心を持っていました。パーカッションへの愛情は、父親から楽器を贈られたことがきっかけでした。

父がダブリンに行って、私たちみんなにプレゼントを持って帰ってきたことがあるんです。私は6歳で、2本のスティックがついた小さなブリキのドラムをプレゼントされました。それは、父が犯した悪い“過ち”でした。私は丸1日それを演奏した後、両親が私を寝かしつけると、それっきり姿を消してしまったのです。
― シェイマス・オケイン

シェイマスはもの作りへの情熱に目覚め、12歳の時には、ブリキの各種自作ドラムと、ハンマーで叩いて伸ばした鉄の波板でできたシンバルで、即席のドラムキットを完成させました。

一目惚れ

1960年代後半、シェイマスは大学最終学年の教育実習中にレコードで初めてバウロンの演奏を聴き、こうしてアイルランドを代表するフレームドラムとの生涯をかけたつきあいが始まりました。友人から渡されたバウロンの説明だけを頼りに、自分だけのバウロンを作ろうとしました。荒削りではありましたが、この試みはバウロン職人としてのシェイマスの歩みの第一歩となりました。

伝説的なバンド、ザ・チーフタンズThe Chieftainsパダー・マーシアPeadar Mercierがシェイマスをさらに励まし、彼独自のバウロンの製作方法を教えてくれたのです。パダーはシェイマスに、正しくできるまで指示を繰り返すよう指導しました。この努力は実を結び、アイルランドのフレームドラムの運命を変えました。

この時のことを、シェイマスは懐かしく思い出しています。

彼はとても親切で、永遠に感謝しています。彼は、人生にこれほど豊かな経験と喜びを与えてくれる道を示してくれたのです。
― シェイマス・オケイン

シェイマス・オケイン:アイリッシュドラムの革新者

シェイマスはそのキャリアを通じて、伝統的なバウロン製造に数々の革命的な変化をもたらしました。

アイリッシュバウロンのチューニングと張り方

1975年、ドニゴール州のGaoth Dobhairで休暇を過ごしていたシェイマスは、Hiúdaí’s Barで毎夜行われていたセッションに参加していました。しかし、彼はある問題に直面していました。湿度が高いため、バウロンの皮がたるんでしまい、演奏ができなくなってしまったのです。帰宅後、彼はこの問題を解決しようとしました。

数ヵ月後、別のセッションで、旧友のジョー・ダイアモンドJoe Diamondが自作のバンジョーを演奏しているところに遭遇しました。その楽器を調べているうちに、シェイマスはバウロンの皮の問題を解決するヒントを得ました。

その解決策とは?それは、内部にネジで動く可動式のトーンリングを追加することでした。これが現在のバウロンのチューニングシステムの原型となりました。

アイリッシュテナーバンジョーのトーンリングは外側から引っ張る仕組みですが、O’Kaneのものは内側から押すので、演奏者は必要に応じてドラムの皮の張りを強くしたり弱くしたりすることができるのです。このシンプルかつ革新的なアイデアは、バウロンの製作と演奏の世界を永遠に変えることになります。環境によってドラムヘッドのテンションが変化する恐れをなくし、バウロンをチューナブルにすることができました。

他のバウロン職人がシェイマスの革新性に注目するまでには時間がかかりましたが、その可能性に気付くと、この新しいスタイルのバウロン製作法を採用しました。この流れは、ヨーロッパ中のフレームドラムの製作でも真似され、今では世界中で見ることができるようになりました。

自分のアイディアが真似されることに、大きな誇りを感じました。当初は、このような民族的なドラムのデザインに手を加えるということにより他の大手職人を困らせました。しかし進歩には抗えませんでした。
― シェイマス・オケイン

ランベック・スキン

シェイマスは、ランベック・スキンを使用したパイオニアです。この薄い山羊革は、バウロンの音域を広げ、クリアで鮮明な音色を生み出し、奏者がドラムの可能性をさらに追求することを可能にしました。

バウロンのテーピング

テーピングバウロンは、ドラムのリムの周りの皮に黒い絶縁テープを貼る技術です。テーピングはバウロンの音を減衰させ、不要な倍音を減らし、倍音を改善し、より豊かな音色を作り出します。今日、この方法は最良の方法として広く受け入れられています。

シェイマス・オケインは、バウロンの象徴的な奏者であるジョニー・リンゴ・マクドナーJohnny Ringo McDonaghから方法を学び、バウロンにテーピングを最初に始めた職人の一人です。シェイマスは1970年代以降、ドラムのリムの周りにテーピングを施し始め、この新しいテクニックを彼のバウロンのデザインに取り入れました。

テープを貼ったドラムヘッドは、やがてバウロン職人とプレイヤーの両方にとって当たり前のものになりました。音域が広がり、倍音が改善されたことで、アイルランドのミュージシャンはバウロンの能力を十分に発揮できるようになりました。

アイルランド伝統音楽への永続的な影響力

シェイマスは世界中のバウロン製作に革命を起こしました。彼の楽器を所有することは、歴史の一片を所有するようなものです。伝統音楽の世界で象徴的な存在であるシェイマス・オケインは、間違いなくその伝説的なステータスを獲得しています。彼とそのドラムについてもっと知りたい方は、彼の公式ウェブサイトをご覧ください:
www.tradcentre.com/seamus


出典 https://blog.mcneelamusic.com/