シンガーソングライターの天野朋美がお送りする「私とケルト音楽」。
このコーナーでは様々な世界で活躍している方に、ケルト音楽との出会いやその魅力についてお伺いしていきます。
さて、今回のゲストは引き続きフィドル奏者であり“音楽のある暮らし”をテーマにひとびとへワクワクする時間を届ける会社、Ode.Inc(オード インク)代表の小松大(こまつだい)さんです。
どうぞお楽しみください。
如何にクラシックの音色と離れられるか
――フィドルの音色や楽器へのこだわりはありますか?
小松:自分のフィドルの師匠であるパット・オコナーの音色が少しかすれたような独特の音色だったこともあり、最初の頃は如何にクラシックの音色と離れられるかという点にこだわっていました。
例えるなら長渕剛さんがわざと喉をつぶしたような感じでしょうか。
大体15万~20万くらいの価格帯のフィドルを3本程買って、「ああでもないこうでもない」と音を出していました。
ティンホイッスルやコンサーティーナと違って、「あのメーカーのあのモデル」とかそういった共通認識は無いのでフィドルに関しては楽器談義はあまり盛り上がらないですね。
弦は、これまでは芯がスチールで出来ているものが多かったのですが、今はナイロンなど化学繊維の芯がメインで、わりとまろやかな音がするんですね。
最近のアイルランドではどっちの弦がいいとかそういうことは無い印象で、どの弦であってもその人のテイストが出ればという感じですね。
今僕がメインで使っているフィドルは2本あって、それは日本で買ったものです。
仲良しのバイオリン職人さんがいて、彼は僕がアイルランド音楽が好きだと知っているので、音色のイメージを話して弦の提案を受けたりなど一緒に理想の音色を探していきます。
水墨画のような濃淡で音を表現するパット・オコナー
――フィドル演奏の師匠であるパット・オコナーさんについて教えてください。
小松:アイルランド音楽だと特定の先生について教えてもらうというか、色々な場所でワークショップを受けるカルチャーがあるのですが、その中で僕が一番お世話になったのがフィドル奏者のパット・オコナーです。
アイルランドに滞在していた時には毎週レッスンを受けていました。
彼は奥さんが日本人ということもあり2006年の春に来日していて、その時に演奏を聴いたのがきっかけで習う事になりました。
初めてパットの演奏を聴いたときにはかなりの衝撃を受けましたね。
著名なフィドル奏者のケヴィン・バークは技巧的なスタイルのトッププレイヤーですが、パットの場合はいわゆるローカルなミュージシャンで現地に行けないと聴けないような音色で、渋めな古いスタイルをリスペクトしながら芸術を作っていくタイプでした。
人によっては凄く好みだったり、「ちょっと変わってるよね」などと評価が分かれる演奏です。
パットの音色は一音聴いただけで鳴らし方が違っていて、それまで楽器はしっかり・はっきり鳴らすものだと思っていて、クラシックだと美しく響くようにというような…僕の中でそういうものが良いという先入観にあったのですが、霞のようなかすれた音を出して、リズムは軽やかだし、スタイルもユニークだし、写真とかカラフルな絵ではなく、水墨画のような濃淡で表現するようなアートを持っている人だったので、一気に好きになりましたね。
古いアイルランドの伝統にのっとったスタイルで、最初に渋いものを好きになっちゃいました(笑)。
――レッスンはどのように進んでいくのですか?
小松:曲を聴いてメロディを覚えてバリエーションを弾いてみたり、曲の背景を教えてもらいました。
友人が弾いているのを聴いて「それいいね!」というところから始まるような昔ながらの音楽の学び方で、譜面はもちろん無く装飾音なども具体的な指導は無かったですね。
彼は職人気質な先生で、装飾音の演奏の仕方を質問すると「できてるよ!」とはぐらかされたり…(笑)。
説明して理解するのではなくて、昔のミュージシャンの演奏を聴いて感覚をとらえたほうがいいんじゃないかという教え方でした。
「こういうミュージシャンの音源を聴いてるけどどうですか?」と聞くと「みんなアメリカに住んでいる人だね!」と皮肉交じりの冗談を言ったり…(笑)。
基本的に「このミュージシャンを聴いてみてもいいかもね」というような、強制ではなく提案のスタンスでした。
会社代表としての小松大
――では次に会社の代表としての小松さんの事を教えてください!
”音楽のある暮らし”をテーマにひとびとへワクワクする時間を届ける会社との事ですが、具体的にはどんなことをやられているのですか?
小松:マルシェなど屋外マーケットイベントにアイルランド音楽を取り入れるなど、主に制作をやっています。
ミュージシャンの派遣はもちろん、お客さんの導線や椅子や机の設置などレイアウトも考えます。
例えばジブリの市場のようなイメージでと依頼が来た時に、アイルランド音楽はインストルメンタルですし暮らしの中に溶け込んでおしゃれな感じがでます。
元々は出演者として関わっていたのが2018年位から音響を含めて制作を任せてもらう機会が増えて、そこから自治体絡みやアイルランド大使館関係のイベントも制作もやらせていただくようになり、会社を立ち上げたという流れです。
また、親子で楽しめるアイルランド音楽のレッスンも行っています。
それも毎週通うような教室ではなくて、レッスンでジグやポルカを2曲ぐらい覚えて、家に帰ってセッションをするという気軽なものです。
子どもをピアノやバイオリンに通わせてアンサンブルをすることを夢見ても実現しないという状況をたくさん見てきましたが、アイルランド音楽ならユニゾンも多いですし家族で休みの日にテーブルを囲んで演奏できますよね。
Ode Inc.(オード インク)という一つの団体を通じてより多くの人にこういう素敵な音楽があるという事を伝えて、身近に感じて欲しいと考えています。
自分のアートと会社の役割は分けて考える
――以前プランクトンのプロデューサーである是松さんより、アーティストと経営者では頭の使い所が違うので両立が大変とのことですがいかがでしょうか?
小松:自分のアートと会社の役割は違っているので、そこはしっかり分けています。
アーティストの時には好きな事をやり、会社の案件ではその空間を良いものにしたいという思いが強くあります。
きっとhataoさんもそう考えているのではないでしょうか。
マルシェでは音楽は一つの要素であって、お客さんが会話する事もイベントにとって大事なことなので音量が大きすぎないように気を付けたりなど、もともと裏方精神があるのかもしれないですが自分が主役になりたいとは思わないですし、みんながハッピーだと嬉しいですね。
特に僕の音楽の趣味ではダークでロックっぽくなってしまいますので、会社の案件で自分が演奏しない機会も多くあります(笑)。
(次回へつづく)
フィドル奏者でありOde Inc.(オード インク)代表の小松大さんをゲストにお迎えした第十一回「私とケルト音楽」いかがでしたか?
最終回では雇う側が求めるミュージシャン像や小松さんの今後の展望をお届けします。
どうぞお楽しみに!
【Profile】
- ゲスト:小松大(こまつだい)
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フィドルとヴィオラというふたつの楽器を手に音楽と人と場所をつなぐアーティスト。
“音楽のある暮らし”をテーマにひとびとへワクワクする時間を届ける会社、Ode Inc.(オード インク)代表。 - https://www.ode-inc.com/
- インタビュアー:天野朋美(あまのともみ)
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ケルトを愛するシンガーソングライター、やまなし大使。
株式会社カズテクニカCM出演中。 - https://twitter.com/ToMu_1234