【店長の少し偏ったケルト話】映画「リベンジャー・スクワッド」はジャガイモ飢饉の時代が舞台

ライター:オンラインショップ 店長:上岡

とっても珍しいアイルランドの「ジャガイモ飢饉」時代を描いた映画の紹介です。

「リベンジャー・スクワッド 宿命の荒野」と、すごくB級感溢れるタイトルがついてしまっていますが、原題は「Black ’47」と、シンプルかつかっこいいかんじのものです。ちなみに「Black 47」は、飢饉の被害がひどかった1847年を指す言葉であり、その語源はジャガイモが育たなくなった土が黒くなった、茎が黒くなったなどと言われてるそうです。

「宿命の荒野」に関しては、なんでこのサブタイトルを付け足したのか店長的には謎でしかありませんが、西部劇的なジャンルとして売り出したかったのかもしれません。(腑には落ちてない)

ちなみにこの映画は見る人を選ぶバイオレンス・アクションというタイプのやつで、やたらめったら登場人物がまあまあ独創的な方法でお亡くなりになられます。(世界で愛される殺し屋キャラ、ジョン・ウィックを楽しめる方は余裕だと思います)

さて、先にも書いたようにアイルランドの「ジャガイモ飢饉」の時代を描いた作品なのですが、ジャガイモ飢饉について、簡単に紹介します。

アイルランドの歴史を語る上では絶対に外せない出来事であり、近代ヨーロッパ最後の飢饉とも言われています。

起こったのは1845年(日本でいうと明治になる20年ほど前)、アイルランドでも広く食べられていたジャガイモを枯らしてしまう疫病が流行ってしまいます。

ちなみにお伝えしておくと、アイルランド人がそれ以前からジャガイモしか食べない、ジャガイモしか育ててないというのはステレオタイプなネタとして使われるぐらいで、現実はもちろんそんなことはありません。色々な作物を育てていましたが、英国支配下の時代、地代という名目で育てた作物・穀物は地主・領主の元へ送らないといけません。

気の毒な話ですが、自分たちが作っていい作物は全部取られちゃうけど、最悪ジャガイモだけは痩せた土地でも育つから、なんとか生きていけますね、という状況でした。

その頼みの綱のジャガイモが疫病でやられてしまい、どうしようもないじゃないか!ということになったのが1845年。しかも1年限りの問題ではなく、そんな状況が4年も続いたんです。

いち人間として考えると、さすがにその期間は地主・領主さん(ちなみにこういう人はほとんどアイルランド島には住んでない)が手持ちに余裕があるなら、多少献上させる量を減らして(あとから取り立てるでもなんでもすればいいじゃん)、せめてアイルランドで取れたものは、自分たちで食べて生き残んなさい、と言いたくなりそうなものですが、むしろその反対で、自分たちの取り分が減るじゃないか!と、変わらず厳しく収めさせました。また英国の支配下ということは英国にとっては自国の民が飢饉で苦しんでいるわけですので、救済措置を取ろうとはしたのですが、予算が膨らむことに躊躇して、異次元の飢饉救済対策はできないなあと、一番苦しんでいる人に支援の手が届かない、中途半端な政策しか打ち出せませんでした。(1997年に英国首相が公式に謝罪をされています)

そんな気の毒すぎる状況が続いた結果、アイルランドの人口は20〜25%が減ってしまいました。現在日本で換算すると、ここから4年で人口が3000万人以上減る計算ですから、どれだけ異常な事態かはわかってもらえるかと思います。

そんな辛すぎる時代、飢饉が始まった2年目の冬、主人公の軍人さんが久しぶりに帰郷したところから映画ははじまります。

軍人さんはもちろん職業ですが、この時代に軍服を着るということは、つまり英国女王陛下のために戦うということになり、アイルランド人からは裏切り者として疎まれる存在でした。

そんな主人公(英国の第88歩兵連隊に所属してインドやアフガニスタンに赴いていた)は故郷の変わり果てた姿を見て愕然とします。自分の家は屋根も窓も取り払われ豚小屋になっており、母は病死、弟は絞首刑に処されたことを知ります。弟の亡き奥さんに会うことができ、兵役についている間に何が起こったのかを、彼女と3人の子どもたちに聞くことになります。

それでも久しぶりの家族との再会に、暖炉の炎を囲い、歌をうたって過ごし、この土地ではもう生きていけないから、一緒にアメリカに渡ろう、と計画を話し合います。

映画の中の風景には、いくつかの家の石組みが映されますが、それらにはすべて屋根がありません。これは地代を払えない人たちを追い出すために、アイルランド警察が焼き払ってしまったからなんです。骨組みがあるなら、とりあえずそこに住まわせてあげたらいいのに、と思わずにはいられませんが、それらはすべて地主さん、領主さんが決めたこと。警察は言われた通りに法を犯している人たちを退去させるしかないのです。

その後、さらなる悲劇に見舞われた主人公は、懐かしい故郷の悲惨な状況を目の当たりにし、疫病というただでさえ悪い状況をさらに悪化させている権力者たちに復讐を誓い、静かに武器を手に取り、闇の中へと消えていきます。

そこからの展開は、まあわかりますよね!

実際にこういう実力行使で悪人をぶった斬っていく必殺仕事人的な人がいたかどうかはわかりませんが、当時の人がこの映画を見られたとしたら、きっとすごく胸がすく思いをしたんじゃないかと思います。たとえフィクションでも、絵空事でも、こういったストーリーを考えて想像することで生きる力になったかもしれません。

また、この映画で主人公や家族、村人たちはゲール語(アイルランド人の元の言語)を話します。英語が話せる人もいますが、英国の手下っぽい人には頑なにゲール語で話し、会話を成立させません。

そのうち、お尋ね者となった主人公を追跡する将校は「不作の原因は人々の性質に見出せる」「ジャガイモは甘えた労働者の作物だ」という謎理論で武装して、自分たちの行いを正当化しながら、貧しく生きる術を持たない人たちを平常心でスルーしていきます。そんな将校の姿に人間として間違ってるんじゃねえのかい?と疑問を呈する人たちもちゃんと出てきますので、安心してください。

展開としては気の毒&バイオレントな感じですが、店長的に非常にいいなと思ったところをひとつだけあげさせてください。

それは、照明です!

映画の中では、基本的には見えやすいように、例えば部屋の電気を消しても外の月明かりがほとんど全てを照らしてくれて、それなりに見やすくなります。(どんだけ月がでかいんでしょうか)

そうすることで、観客は今画面上で何が起こってるかを知ることができるわけですが、この映画は当時の暗さ、そして昼夜問わず屋内の暗さをしっかりと描こうとしている感じがします。なので、上記のような謎の便利な光源はなく、そこにあるものから発せられた光だけで物事を映しているので、結構暗いシーンが多いです。その暗さは当時の生活感と、また重苦しい人々の心情をうまく表現しているように思いました。

そういったわけで、こちらの作品はアイルランドのジャガイモ飢饉という歴史的な時代を舞台にしたバイオレンス・リベンジ・アクションとでもいう、なかなかに良くできた良作です!