【熊本明夫さん編】日本のフルート/ホイッスル奏者へのインタビュー

2020年6月27日に開催された日本のフルート/ホイッスル奏者のオンライン・ミーティングでは、参加者に事前に質問事項を送り、インタビューを行いました。
第二回目は、CELTSITTOLKEなどで活躍されている熊本明夫さんのインタビューです。

フルートについて

――現在吹いているフルートについて教えてください(職人、材質、モデル、キーの数、購入年など)

熊本:Patrick Olwell Keyless D(Cocus wood / Nicholson / 中古のため製造年不明)
頭部管は Pol Jezequel のコーカスウッド製です。

――その素材を選んだ理由は何でしょうか、また他の素材と比べたときの特色はなんだと感じますか?

熊本:コーカスは色と木目がいいです。

ブラックウッドとの音の違いはほぼないと思います。

――デザイン的な好みはありますか?(キーの取り付け方、キーの形、リングの形など)

熊本:キーレスを好んで使っています。響きがよいので。

――足部管の低音キーは使用しますか?またその理由や使用する状況について教えてください

熊本:伝統音楽以外の録音で最低音Cを指定されることがあるため、必要なら使います。

基本的には低音キー付きフットはBottom Dの音色を悪くすると思うので、不要な状況であればキーレスや6キーを使います。

――第3オクターブを演奏しますか?またそれはどのような時ですか?

熊本:Eくらいまではバリエーションに混ぜてよく使います。

――あなたにとってフルートの「良い音色」とはどのような音色ですか?

熊本:倍音の乗った固い音。

演奏を聴いてもらって、「木製ならではの柔らかい音ですね」とか言われると自分の修業が足りないなと感じます。

――D管以外のフルートは演奏しますか?またどのようなときに演奏しますか?

熊本:F /Eb /C /Bbをアレンジ等に応じて。

――あなたにとって理想のフルートとは、どんな楽器ですか?

熊本:アイリッシュのセッションで演奏するのが主用途なので、2オクターブの範囲内で音色と音量に特化した楽器が理想。

それらの要素とトレードオフになる3オクターブ目の出しやすさや全体の音程の良さは、比較的重視していません。

――現在の楽器まで、どんな楽器を経てきましたか?

熊本:
Desi Seeryの樹脂製
→Hammy Hamilton
→Patrick Olwell
→Sam Murray
→現在の楽器

メインのキーレスD管のほか、Michael Grinter 8key D, Pol Jezequel 6 key D, Pol Jezequel keyless Eb & F, Carbony C, Gilles Lehart Bb, Rudall Carte Radcliff Systemなどを使っています。

――現在のフルートについて、気に入っている点・不満な点を教えてください

熊本:ほぼ不満はないですが、最近アイルランドに行ったとき蛇腹の多いセッションで音量不足を感じたので、音量特化の笛があればもう1本ほしいです。

――今気になっている楽器職人はいますか?

熊本:Windward

ホイッスルについて

――現在吹いているホイッスルについて教えてください

熊本:Cillian O’Briain D

――第3オクターブを演奏しますか?それはどのようなときですか?

熊本:ホイッスルでは使いません。

――あなたにとってホイッスルの「いい音色」とはどのような音色ですか?

熊本:方向性が複数あると思うので、一意には絞れません。

――D管以外のホイッスルは演奏しますか?また、どのようなときに演奏しますか?

熊本:Eb / E / F / A / Bb / Cなどをアレンジに応じて。

――あなたにとって理想のホイッスルとは、どんな楽器ですか?

熊本:安ホイッスル系のかすれた音が基本だと思うので、その系統で演奏性の良い楽器がよいと思います。

――現在の楽器まで、どんな楽器を経てきましたか?

熊本:
Overton(Colin Godie’s) D
Jonathan Swayne Blackwood D
Michael Burke Aluminum D
John Sindt D など

――ロー・ホイッスルは演奏しますか?どのようなときに演奏しますか?

熊本:音量の小さい他楽器と合わせるとき、歌の伴奏に入るときなど。

主張しない音色の楽器なので、サブに回る用途に向いていると思います。

――同じキーの複数のティン・ホイッスルを使い分けますか?使い分ける方は、その使い分けについてどのように考えていますか?

熊本:木製/薄い金属製/厚い金属製/プラ系で明確にキャラクターが違うので、ほしい音色によって使い分けます。

――フルートとホイッスルで同じ曲を吹くとき、演奏技術面において変えていることはありますか?

熊本:基本的に同じですが、楽器の構造上出しやすい技法を多めに使います。

フルート→疑似フリッキングトリプレット、3オクターブ目を使ったバリエーションなど

ホイッスル→トリプルタンギング、high D のクランなど

音楽家として

――影響を受けた伝統音楽のフルート・ホイッスル奏者を挙げてください(5名まで)

熊本:
Matt Molloy Black Albumはmp3が擦り切れるほど聴いた

Conal O’Grada 細かくグロッタルストップを入れるスタイル

Isaac Alderson バウンスするノリ

Deirdre Havlin 目指したい音色
https://youtu.be/UXU819aE9hk

――管楽器奏者以外の影響を受けた音楽家を挙げてください

熊本:Tommy Peoples / Michelle O’Brien / Tomofumi Inoue

フィドルの井上智史氏とデュオユニット(猫モーダル)をやっている関係で、井上氏をはじめ、彼が参考にしていると思われるフィドラーの演奏スタイルから間接的に影響を受けています。

――フルートやホイッスルを学ぶ人が聴くべきCDを教えてください

熊本:Wooden Flute Obsession

フルート奏者1人につき1トラックのオムニバスで、演奏スタイルを聴き比べるのに参考になります。

各奏者が使っているフルートメーカーが記載されていて、メーカー選びの参考になるのもよいです。

――初期の頃の練習方法や日課はありましたか?

熊本:レパートリーを増やすことを目指していたので、できる曲のリストを作っていました。(1年やって300曲を超えたあたりでやめました。)

――フルート・ホイッスル以外に取り組んでいる楽器はありますか?

熊本:イーリアンパイプス

――どのような音楽家でありたい(または、~になりたい)と思いますか?

熊本:学生時代に初めてアイルランドに行ったとき、セッションの輪に入らず酒を飲んでいたその辺の仕事帰り?のおじさんがおもむろに笛を取って吹き始めたのですが、それまで見聞きしていたどんなプレイヤーよりも上手く味わいのある演奏をしていた場面を目の当たりにしたのが衝撃的で、以来ずっとああいうものになりたいと思っています。

音楽講師として

――初心者が練習において気をつけるべきことはなんですか?

熊本:フルートに関しては、小さくまとまらないこと。

音作りに継続的に取り組むこと。

フルートは「音が出て曲が吹ける」ところまでは到達しやすいですが、そこからアイリッシュフルート特有の固く鋭い音を出せるようになるまでが長いです。

セッションで会うフルート初心者の方々を見ていると、「曲が吹ける程度に音が出せる」段階で満足してしまっている人は演奏の破綻がないのですが、その後音色もよくなっていかない印象があります。

一方、良い音を出そうとして試行錯誤している人はアンブシュアが崩れたり息が足りなくなったりして演奏が破綻していることも多いですが、長い目で見て良い音を出せるようになる率が高いと思います。

演奏に必要な要素は音色だけではないですが、比率としてとても大きいので、目先の自分の演奏を崩すことをいとわずに音色の向上につとめるのが大事だと思います。

――伝統音楽は完全に独学でも習得ができると思いますか?

熊本:非常に厳しいと思いますが、一方で長期間にわたって付きっ切りで誰かに師事する必要もないと思います。

楽器を手にしてから勘所をつかめるまでの間だけ、先生について習うのが良いのではないでしょうか。

――今後、日本のケルト音楽・アイルランド音楽シーンに望むことがあれば教えてください

熊本:セッションプレイヤーとしては、セッションの選択の幅が広がるとうれしいです。

アイルランドの主要都市のように、一晩に複数個所のセッションがあって、レベルや演奏スタイルによって行き先を選べるようになると良いなと思います。