アイルランドの楽器メーカーMcNeelaが公開しているブログ記事の中から、アイリッシュ・フルートの上達方法についてまとめた記事を当店でおなじみの翻訳家・村上亮子さんの翻訳でお届けします。
原文:Breathing Exercises for Irish Flute and Whistle Players
アイリッシュ・フルート上達のための練習とテクニック
アイリッシュ・フルートの達人の演奏を聞けば、ある共通点があることに気がつくでしょう。
それは肺の能力が優れていることです。
上手な息のコントロールはフルートやホイッスルの演奏の基本になります。
アイリッシュ・フルートやホイッスルを吹く人にとって、呼吸法をマスターすることは楽器に上達する最も大事なステップなのです。
私自身フルートやホイッスルを吹くので、スタミナの必要を実感しています。― アイリッシュのセッションではスタミナを維持しなくてはなりません。ここで紹介するコツを身につければ、何時間でも演奏できます!特にアイリッシュ・フルートは普通のベーム式フルートより息が必要なのです。
皆さんは特に何も考えないで一日中息をして動き回っています。しかし管楽器の演奏に必要な息のコントロールとなると、ちょっと違うのです。このブログでは上手な呼吸のための4つのコツと、それを自分の演奏にどう応用するかについて説明します。
また、簡単な呼吸の訓練を3つ紹介します。これをすれば呼吸のコントロールを向上し、肺の機能を高めるでしょう。これらの効果は実証済みで、自分の呼吸、楽器、演奏を十分コントロールできるようになるでしょう。
では、私の推薦するやり方に従ってください。そうすれば名人並みの肺の力を手にすることができます。
1. 今まで説明されてきた呼吸法:大いなる思い違い
歌手や管楽器奏者はよく「横隔膜で呼吸しなさい」と言われますが、これは全く意味のないことです。
横隔膜は呼吸に関わる筋肉です。その通りですが、横隔膜はあなたが望んでも望まなくても呼吸に関わってきます。上の指示の意味は肺がいっぱいにする深い息をしなさい。ということです。
自分の肺を2つの風船だと思ってください。息を吸うと風船はふくらみます。ふくらむための十分な場所を作るために、2つのことが起こります。
- 肋骨が上がり広がる。
- 横隔膜が収縮し下がる。
言い換えると、肺がふくらむための空間を体の動きで作るのです。
正しく呼吸していることをチェックするには(呼吸には間違った呼吸もあるのです)、おなかにそっと手を置いてください。息を吸うとおなかがふくらんで広がります。
反対におなかが引っ込むようであれば、肺がふくらむための場所を減らしていることになります。つまり、十分な息が吸えないことになります。浅い息とか、鎖骨呼吸とか呼ばれるものです。
息が浅いということは、肺に十分な空気が入っていないということです。その結果、長時間演奏すると疲れてふらふらしてきます。健康に悪いことも科学的に証明されています。
2. アイリッシュ・フルートを吹くための良い呼吸
- 口で呼吸する。鼻呼吸は循環呼吸のためにとっておいてください。これについてはまた別の機会にお話しします。
- 良い姿勢。座る場合は背筋を伸ばしてください。前かがみになってはいけません。たとえ誰か優れたフルート奏者がやっているのを見たとしても、フルートを肩に乗せて演奏してはいけません。ホイッスルを吹く人は、あごを落としたり、肘を閉じたりしないように気を付けてください。
- 息を吸う時、肩を上げないでください。
- お腹いっぱい食べたときのように、おなかをふくらませてください。おなかがへこんでいると、肺は十分な空気を吸い込めません。
3. 3つの効果的な呼吸訓練
では、どうすれば息のコントロールを改善し、肺の容量を増やすことができるでしょうか。訓練です。いいえ、ランニングをすればいいというものではありません。有酸素運動は肺にいいものですが、私がここで言っているのはそれではありません。
呼吸訓練は呼吸法をマスターする助けになり、演奏の質を高めます。ホイッスルでもフルートでも管楽器を使いこなしている人は自分の呼吸も十分にコントロールしています。
呼吸訓練のいい点はどこでもできるということです。楽器を持っていなくても練習できます。しかしフルートかホイッスルを手にして練習すると、音色や指使い、イントネーションや演奏のあらゆる面を向上させてくれます。
(1)拍を数える
自分でも好きなシンプルな練習です。息のコントロールが改善できることは確実です。また拍とリズムの感覚も高めてくれます。メトロノームを使うことをお勧めします。60BPM(1分60拍)を選んでください。
・頭の中で4つ数えながらゆっくり口から吸いこんでください。
・4拍でゆっくり息を吐いてください。「ス―」(“sss”)というような感じです。
・再び4拍で吸い込んでください。
・8拍で、「スー」と言いながらゆっくり吐き出してください。
・これを続けてください。吸うときは4拍で、吐き出す時は、4拍ずつ増やして、12拍、16拍…としていきます。
・どこまでできるか、息のコントロールがどこまでできるか見てください。
これができるようになったら、「ス―」という音を「シー」(“ssh”)に置き換えてください。かなり難しくなります。
最後にフルートを持って、1つの音(B(シ)が適していています。)で、クリアーでブレない音を意識してやってみてください。空気を震わしているのではなく、ブレないしっかりした空気の流れを作ることに気を配ってしてください。
(2)オクターブの練習
息の訓練は音色の改善にもつながっています。様々な選択肢や組み合わせがあります。
次の訓練は、フルートやホイッスルで高低どちらの音域でもバランスの取れた揺らぎのない音を得るためのものです。メトロノームを78BPMに合わせて、小節ごとに素早く息継ぎをします。
上昇:
このオクターブの練習はD メジャー・スケールで行います。
いちばん下の音から始めて、低いDを吹き、続いて高いDを吹き、また低いDに戻ります。このようにオクターブ間を行き来して、それぞれの音で交互に吹きます。
一息でこの3つの音を吹きます。息がまっすぐで、揺らぎがなくて、1つ1つの音を区切っていないことを確認してください。
オクターブ間をきれいにスムーズに移動し、タンギング、声門閉鎖、カットなどのアーティキュレーションで音を区切らないようにしてください。
高音域でクリアー音色と正確な音高を得るために、アンブシュアを調整する必要があります。
下降:
高いDまで来たら、今度は順番に下がっていきます。強い、クリアーな音を出すことに注意を向けてください。あいまいな音や息の混じった音にならないようにしてください。
呼吸が乱れないように気を付けてください。素早く肺を満たす効果的な呼吸法を身につけることが大切です。
(3)上級のエクササイズ
オクターブ間の移動がうまくいったら、もう一段階レベルを上げましょう。
注意:このエクササイズは気分が悪くならないように、速いテンポでする必要があります。
メトロノームを120BPMに合わせてください。
上昇:
このエクササイズでは息継ぎを入れないで、一息で吹いてください。
上昇スケールは大きく息を吸って一息で、下降スケールも一息で吹いてください。
下降:
この練習では低い音に戻った時に息継ぎが必要ないので、4/4ではなくて3/4で吹いてください。
これが完璧にできるようになったら、テンポを落として肺に負荷を与えてください。
進歩するにつれてスピードを落とす必要があります。
メトロノームのBPM を10ずつ下げてください。
これは大切なことですが、長時間練習した後で気分が悪くなるようなら(初心者にはよくあることです)中断して休んでください。
4. どのくらい練習すれば上達するか。
最初の簡単な練習だけでも毎日続けたら、3か月もすれば肺の能力は素晴らしく改善するでしょう。
3つ全部したら、どれ程上達するか想像してみてください。
この新しいスキルを身に着けると、あなたの演奏は加速的に上達するし、最高の状態に保つことができます。