トラッドの曲を覚えるテクニックを伝授します


出典 https://blog.mcneelamusic.com/

アイルランドの楽器メーカーMcNeelaが公開しているブログの中から「アイルランドの伝統音楽を覚えるコツ」についての解説記事を許可を得て翻訳しました。

原文:Top Tips for Trad Musicians: How to Memorise Music

トラッドの曲を覚えるテクニックを伝授します

ご存知のように、アイルランド伝統音楽は、長い間、楽譜を介さずに耳から耳へと次の世代に受け継がれてきたものです。アイリッシュミュージックのセッションに参加すると、楽譜を持たずに演奏しているミュージシャンを見かけます。

トラッドミュージシャンは、何度も演奏される曲を聴き、聴いたとおりにメロディーを繰り返すことで曲を覚えていくのが一般的です。もちろん、この技術を身につけるには時間がかかりますが、伝統にどっぷりと浸かっていれば自然と身につきます。そのため、アイルランド民謡の世界に入ったばかりの人によく聞かれるのが、「どうやってこんなたくさんの曲を全部覚えればいいのですか」という質問です。

簡単な答えはありませんが、いくつかの試行錯誤を経たテクニックがありますので、今日はそれを紹介したいと思います。もしあなたが、記憶して演奏する技術をマスターしたいのなら、そして最終的には耳で演奏したいのなら、このまま読み進めて、そのコツを学んでください。

法則1:ただの繰り返しはやめる

賛否両論あるようですが、説明させてください。今まで、ベテランのミュージシャンに曲を早く簡単に覚えるためのアドバイスを求めたら、単に「何回か通して弾け」と言われたことがあるのではないでしょうか。しかし、残念ながらこの方法はすべての人に通用するものではありません。もし、そんなに簡単なら、誰もこの曲を暗譜するという課題を達成する困難に直面することはないでしょう!
練習において大事なことは、「変化することは良いこと」ということです。学習プロセスにおいてはパターンを破ることが良いのです。この文脈ではどういう意味かって? すべての音楽家に驚くほどに役に立つ、私が見つけた練習の例を挙げましょう。

リズミック・バリエーション

曲の小さな部分(4小節以下)を取って、譜面通りにメロディーを演奏します。

楽譜のリズムを無視して、代わりに「長-短-長-短」のリズムパターンにあてはめてメロディーを演奏してください。元々のメロディとリズムのどこに音があてはまるかは気にしないでください。この部分を、今度は先ほどとは逆に「短-長-短-長」と交互に演奏します(そう、変えるのです)。元のリズムに戻り、譜面通りに曲を演奏します。

練習過程において小さな変化を加えることで、脳はメロディーの様々な要素に注目するようになるのです。指の「運動学習(指が勝手に動くこと)」はまだ途中ですが、脳は全く新しい方法で活動しているのです。そして何より、単純な繰り返しに飽きないということが重要です。

また、メトロノームを使って、あるいは使わずに、速いテンポ、遅いテンポ、緩やかなテンポなど、さまざまなテンポで練習すると効果的です。

法則2:メロディーを理解する

メロディの形、意図、ユニークなフレーズとともに曲の流れや方向性などメロディーを理解することで、単にページ上の音符を弾くよりもはるかに多くのことを達成することができます。どのようにしてこの理解を深めるのでしょうか? それは、物事を少し変化させることです。この試行錯誤のエクササイズは、年齢や能力を問わず、音楽家にとって完璧なものです。

積み木を組み立てて、メロディーを構成する

まずはメロディーを書かれた通りにゆっくり演奏します(ここではメトロノームを使用するのがベストです)。
次にもう一度曲を演奏しますが、今度は各小節の最初の音だけを演奏します。小節の最初の音を、その小節の長さ分保持します(例えば、ジグを演奏する場合、小節の最初の音を6拍分保持します)。このやり方で曲全体を演奏してください。終わったら最初に戻って、今度は小節の2番目の強拍の音を加えます。ジグでもリールでも場合、これは2つ目のグループの最初の音になります。詳しくは、以下の図をご覧ください。

JIG – MELODIC BUILDING BLOCKS EXERCISE – THE KESH


出典 https://blog.mcneelamusic.com/

REEL – MELODIC BUILDING BLOCKS EXERCISE – THE RED HAIRED LASS


出典 https://blog.mcneelamusic.com/

ボーナス・ステップ

上のステップ2または3を自分で演奏して録音します。録音したら曲の冒頭から、録音した持続音と一緒にメロディーを演奏してください。これにより、あなたの脳は曲の中の重要な音を識別し、メロディーを構成する積み木をつなぎ合わせ、その形と方向を識別することができます。また、フレーズの中にある「特別な飛び抜けた」音を脳が認識するのにも役立ちます。

法則3:内なる声

音楽の先生なら誰でも、学生時代にできるだけ多くの音楽を聴くことの重要性を強調します。この一見単純な作業の最も重要な利点の1つは、内なる声、つまり頭の中で音楽を聴く能力を開発することです。

「無音練習」は、この内なる耳の能力を開発しながら、指に運動学習をさせるのに非常に有用な方法です。では、どのように行うのでしょうか? アコーディオンやコンサーティーナを演奏する場合は、空気ボタンを押しながらキーを押します。空気ボタンを押したままでは、音は鳴りません。バイオリンや弦楽器なら、ボウイングやかき鳴らさずに指板上で指を動かし、フルートやホイッスルなら息を吹き込まずに指孔を開けたり閉じたりします。

無音で練習している間にも、頭の中で音楽が鳴っていることが大切です。つまり、「黙々と」歌いながら演奏するのです。それは、次の4番目の法則へと続きます。

法則4:思い切り歌う

どんな楽器であろうと、また自分が歌手であろうとなかろうと、大きな声で歌うことは、曲を記憶する上で非常に有用な手段です。ハミング、歌、口笛、口三味線など、曲の最初から最後までできれば、すでに全曲を記憶していることになります。「無音練習」が終わったら、今度は自分の声を出して、音符を弾きながら一緒に歌いましょう。そうすることで、メロディーを内面化することができるのです。

法則5: 噛めないものは、噛まない

繰り返しの退屈さを解消したいのであれば、一度に全曲をだらだらと弾くのは直感に反しています。一度に全てを暗記しようと無理をすることはありません。小さな部分ごとに切り分けたり、難しいフレーズを先に覚えたりしてください。必要であれば一日を「ひとくちサイズ」に区切って学習することもできます。長い時間、漫然と練習して途中で集中力が切れてしまうよりも、短時間で集中して練習する方がはるかに生産的です。脳は常に活性化された状態でありたいものです。最も重要なことは、途中で自分に厳しくなりすぎないことです。練習は楽しく、やりがいのあるものであるべきで、ストレスの原因になるものではありません。