Foggy Dew:松井ゆみ子

ライター:松井ゆみ子

みなさんよくご存知の曲だと思います。

が、同じタイトルでまったく異なる曲があと2つあることは、あまり知られていないのでは? まずはここで、よく知られているヴァージョンをあらためてお聴きください。


▲ダブリナーズ

1916年のイースター蜂起にちなんで作られた歌ですが、これにも元曲がありました。知らなかった。「The Moorlough Shore」というラヴソングです。けっこういろんな人が歌っていて、知らなかったのは自分だけか?


▲Matt Keane

ドロレス・キーンの兄弟。有名なシンガーであり、おばであるリタとサラに教わったとコメントしています。

さて。Ye Vagabondsの歌う「The Foggy Dew」。わたしの知っている曲とはメロディも歌詞も異なり、あれ?っと驚きました。


▲ye Vagabonds

こちらはイギリスのフォークソングで、ノーフォークの労働者でありシンガーでもあるハリー・コックス(Harry Cox)のレパートリー。彼はダブリナーズやスティーライ・スパンなどに影響を与えたといわれています。強烈なので彼のヴァージョンもぜひ。


▲Harry Cox

そして、本題ともいうべき衝撃の「Foggy Dew」は、ゲール語で「Drucht an Cheo」(発音は聞かないでくださいね!でも直訳は”Foggy Dew”)。

エドワード・バンティング(Edward Bunting/ 1772-1843)のコレクションに収められています。わたしが参加している地元セッション練習会では、リード楽器がハープなのでバンティング・コレクションからチョイスされたチューンを学ぶことが多いのです。ちなみにハープはナイロン弦ではなく、アイリッシュハープの原型でメタル弦。音の響きがナイロン弦とはまったく異なります。バンティング・コレクションは1792年に開催されたベルファースト・ハープフェスティバルのためにアイルランド各地からチューンを集めたのだそう。フェスに参加したハーパーたちも同時に各地から召集されたそうですが、ほとんどがメタル弦のハープを演奏。今は希少な楽器になっていて、演奏者も限られているのは残念なことです。

そんな稀有な楽器で習った「Drucht an Cheo」。あれ?このチューン、知ってる!? それはフォークソングの「Building up and tearing England down」ではないですか!


▲ワーロッパーズ

余談ですが、バンティング・コレクションには「夏の名残のバラ」の原曲も収録されています。タイトルは「Groves of Blarney(邦題/ブラーニーの森」)。

トーマス・ムーアが詩をつけるずっと前のこと。

タイトルを変え、スタイルを変えながら伝承されるアイルランドのチューンたち。ふと「出世魚」という言葉が頭をよぎりました。

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