ガリシア滞在記 ~お祭り好きな人々~:茶谷春奈

ライター:茶谷春奈

¡Bos días a todos! みなさんこんにちは!

ケルトの故郷、スペイン・ガリシア地方の伝統音楽を演奏している、茶谷春奈です。

前回は、わたしがガリシアで伝統音楽を学んでいたときのお話を書かせていただきました。

今回は、ガリシアのお祭りについてお話します。

スペインというと、お祭りが盛んな国で有名だと思いますが、ガリシアの人々も例外ではなく、大のお祭り好きです。とはいえ、現地で暮らしてみると、毎月開かれるそのお祭りの多さにはさすがに驚きました。

夏は皆、仕事もそっちのけでほとんど毎日がお祭りで忙しく、秋や冬になると、人々が「ああ、もうお祭りの時期は終わった。」と寂しがるので、何もないのかと思いきや、それでも月に1〜2度は何かしらのイベントが開かれ、2月にはカルナバルという、多くの人が仮装をしてパフォーマンスを繰り広げる盛大なお祭りまで開かれていました。もしかすると、ガリシアではお祭りでない日のほうが少ないのではないかと思います。

人々は皆、「人生の中ですることと言ったら、食べることと寝ることと働くこと、そしてお祭りを楽しむことだ!」と言わんばかりで、お祭りが日常の話題のほとんどを占め、生活の一部にはいつもお祭りがありました。

ちなみに、わたしが住んでいた村「カマリ―ニャス」とその付近の村々で、一年を通して開かれるお祭りを思い出せる限り書き出してみると、次のようになります。

1月:新年のお祝い、レジェス・マゴスの日(子どもたちがプレゼントをもらえる日)
2月:エナモラ−ドス(バレンタイン)
3月:カルナバル(カーニバル)、モストラ・デ・エンカヘのお祭り
4月:セマナ・サンタ(イースター)、ビルシェン・ド・モンテのお祭り、サン・ショルシェのお祭り
5月:「フォリアダ」という夏の始まりを祝うお祭りが様々な場所で開かれ始める、ディア・デ・ラ・レトラス・ガレガスのお祭り
6月:サン・ペドロのお祭り、「サルディニャーダ」というイワシを食べるお祭りが様々な場所で開かれ始める、夏至のお祝い(「ケイマダ」という火のついたお酒を飲む)、サン・フアンの火祭り(火を飛び越えて健康を祝う)
7月:伝統料理「カジョス」をみんなで食べるお祭り、フェスタ・ド・カルメン、ガリシアのお祭り、 ア・サルト・アル・カスティージョのお祭り
8月:サン・バルトロのお祭り、フェリア・デ・マリネラのお祭り
9月:フィエスタ・ダ・バルカのお祭り
10月:ハロウィン
11月:村ごとにクリスマスの盛大な飾り付けが始まるに伴って、プチクリスマスパーティが開かれ始める
12月:クリスマス(リアルなサンタクロースが子どもたちにプレゼントを持ってくる)
※これ以外にも、小さな名もなきお祭りが随時開かれています。

おそらくこれを見ただけでは、なじみのない言葉が多く、それぞれがどのようなお祭りなのか、その場がどんな様子なのかが想像もつかない方もいらっしゃると思いますが、今回は「とにかくたくさんのお祭りがあるんだな」ということだけ感じていただけたらと思います。一つ一つのお祭りの説明は今回は省略させていただきますが、また機会があれば別の回でさせていただきたいと思います。

さて、このようにガリシアにはさまざまなお祭りがあり、一つ一つ、内容や意味は違いますが、どのお祭りでも共通して行われることがあり、それが「音楽の演奏」と、たくさん食べて、たくさんお酒を飲んで、たくさん踊ることでした。

わたしは現地で滞在中、村の2つの音楽グループに所属させていただいていましたが、お祭りの度によくグループでおそろいの伝統衣装を着て、演奏に行かせていただきました。ときには、一つのお祭りに近隣のさまざまな村から何十グループもが集まって順番に演奏をすることもありました。

カラフルな伝統衣装を身にまとったたくさんの人があつまり、賑やかに音楽を演奏する、というのは一見日本のお祭りとも形は似ているように思われるかもしれませんが、ガリシア音楽のリズムやメロディーは日本のものとは全然違うので、雰囲気が全く違いました。

そして、何十人もの人が息を合わせて奏でる伝統音楽は見ていて圧倒され、技術的に「上手」とか「下手」とかいう言葉では計りきれない…何かもっと別の種類の美しさを感じました。

(余談ですが…正直に言うと、現地では、どれだけ下手でも音痴でもおかまいなく、楽しそうに大声で歌ったり、演奏したりする音楽仲間が多々いました(笑)。わたし自身、小さいころから音楽は好きでしたが、歌や演奏の上手さには自信がなく、人前で披露できるほどの才能はないと思っていました。「音楽は上手じゃないと人前では演奏できない」という思い込みがあったように思います。なので、そんな彼らの姿を見たとき、最初はすごく衝撃を受けました。そして、「ああ、これでいいんだ」と、自分の心を縛っていた鎖がほどかれ、上手い下手にこだわらず、人前でも純粋に音楽が楽しめるようになりました。ガリシアの人々がいつも口癖のようにわたしにかけてくれていた言葉があります。「Lo que más importante es pasarlo bien!」”一番大切なことは、楽しむことだ!” わたしは、そんな彼らの考え方と、音楽に対する向き合い方が大好きになりました。)

自分がお祭りの演奏の輪の中に入れてもらったときの感覚は、見ているだけのときとはまた違いました。同じリズムやメロディーを繰り返すうちに、知らず知らずのうちに音楽に深く引き込まれていき、まるで自分がその音楽そのものであるかのような一体感を感じ、トランス状態のような感覚に陥ることもたびたびありました。

何より仲間たちと顔を見合わせ、息を合わせ、同じ曲を一緒に演奏したり歌ったりするときには、今までに感じたことのない喜びを感じ、いつも心が温かくなりました。

このように、ガリシア滞在中は現地の人々に交じってお祭りを目いっぱい楽しませていただきましたが、実は、ガリシアのお祭りで演奏されるのは伝統音楽だけではありませんでした。毎回、夜が更けてくると村のひらけた場所に大きなステージが設置され、キラキラの衣装を身にまとった人たちが、目がチカチカしそうなカラフルな光に照らされ、鼓膜が破れそうなくらいの大音量でディスコミュージックのようなものを演奏し、踊り始めます。その音楽のことを、現地の人たちは「チュンダ・チュンダ」と呼んでいました。(しかし、おそらくそれは、現地の人たちがスペイン語が乏しかったわたしにわかりやすいように表現してくれた言葉であって、一般的に言われる言い方ではなかったように感じます。)

実は、その「チュンダ・チュンダ」のほうがお祭りでは人気があり、それが始まるといつもより一層多くの人々が集まってきました。特に若者は、お祭りの日は必ず「チュンダ・チュンダ」に行って踊り明かし、毎回帰宅するのが明け方になるというのがお決まりで、いかに遅くまで家に帰らなかったかをよく自慢し合っていました(笑)。

ガリシアでも伝統音楽を受け継ぐ人は年々減っているそうです。お祭りの在り方も、今後、時代の変化とともに変わっていくのでしょうか。

ただ、ガリシアの人々の「お祭りが大好きな気持ち」だけは、いつまでも変わることはなさそうです。