【最新号:クラン・コラ】Issue No.317

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クラン・コラ Cran Coille:ケルト・北欧音楽の森 Issue No.317

Editor : hatao
October 2020
ケルトの笛屋さん発行

【私とケルト音楽】第14回: 楽器工房ダルシクラフト 井口敦さん 中編:天野朋美

https://celtnofue.com/blog/archives/6546

Colleen Raney アメリカで伝統をうたう試み・その29:大島ゆたか

アメリカのケルト系シンガー、コリーン・レイニィの録音を聴くシリーズ。

5枚め最新作《Standing In Doorways》の第5回。

4.Red Dirt Girl {Emmylou Harris} 4:33
《Red Dirt Girl》より

エミルー・ハリスのオリジナル。2000年の同題のアルバム収録。1995年の《Wrecking Ball》で見事に変身、カントリーの枠を破って現代世界における最前衛のうたい手となったエミルーが、ソングライターとしても出発したアルバム。収録曲は共作も含めて全曲エミルーのオリジナル。これ以前に彼女が作った曲は2曲しかなかった。グラミー賞の Best Contemporary Folk Album を受賞。チャートとしてはビルボードのアルバム・チャートで最高54位。ここでは曲によってブルース・スプリングスティーン、パティ・グリフィン、ケイト・マクガリグル、デイヴ・マシューズなど豪華なゲストをコーラスに迎えているが、この曲は独りで歌っている。

Emmylou Harris: Acoustic guitar
Malcolm Burn: Bass, electric guitar, drum box programming
Ethan Johns: Omnichord
Darryl Johnson: Percussion, bass pedals
Buddy Miller: Electric guitar

https://amzn.to/34fFQL7

アメリカ、深南部の田舎で生まれ育った女性の、出口がみつからないままに顛落する様を描く。兄はヴェトナムに消え、両親も頼りにならない。まっとうな敎育も受けられず、スキルを磨くチャンスもない。赤土の町に育った赤土の娘。閉鎖された炭坑の町に生まれた娘よりも、さらに閉塞感が強い。結婚し、30にならずして、5人の子どもを生み、そして救われないままに死ぬ。彼女にとって故郷は、アメリカン・ドリームはマイナスに作用する。

語り手は墜ちた女性の親友なのだが、ではこの語り手はどうなのかは一切語られない。一緒に墜ちたのではどうやら無いにしても、語り手もまた自分の夢に近づいたのかどうか。ひょっとすると、墜ちた女性本人が親友の声を借りていることもありうる。辛すぎて、一人称では語れぬ。死んだというのも虚構ではないか。故郷は遠きにありて想うどころか、呪いでしかない。

それにしても、陰々滅々、まったく何の救いもない、絶望のどん底に叩きこまれる歌だ。一方で、こういう、どこにも救いのない絶望の状態を曇りの無い眼で正面から見つめる視線に、安易な共感や同情ではなく、しかし相手に寄り添う姿勢も浮かびあがる。彼女について歌うこと、救いのないままの状態について歌うこと、できることはそれしかないが、ならばそれに徹しよう。

血も涙もない悲劇をひたすら坦々と歌うことでカタルシスを生むのはイングランド、スコットランドのバラッドの定石で、エミルーはそれを見事に自家薬籠中のものにしている、と言うべきだろう。こういう歌は様々な解釈を聞くことで、ようやくその真の姿を現わす。

この歌は名曲としてその後、様々な形で数多くカヴァーされ、それぞれの聞き手に届けられている。今のところ、録音として聴けているのはアメリカ人アーティストばかりではあるが、どれも力のこもった演唱だ。

Adrian, Boots And Pearls, 2009, 3:52

パンキッシュとも言える女声リードのミドル・テンポのカントリー・ロック仕立て。名前は男性だが本人は女性。2番から男声がずっとハーモニーを合わせるが、どうかするとこちらの方が大きい。アコーディオンとエレクトリック・ギターが短かいがいいソロをとる。アコーディオンはベース・ドローンも合わせ、かなり活躍する。

Adiran Brannan は1991年アメリカ生まれだが、スコットランド、ウクライナ、スイスにも暮らしたことがあるらしい。14歳でカントリー・シンガーとしてデビュー。これまでに4枚のアルバムがある。これはセカンドでプロデュースはTom Russell で、さすがの仕事。ラッセルはまず声に惚れたようだが、確かに耳をそばだてさせる声ではある。

https://buckaroogirl.com/

Anderson-Gram, On This Ride, 2011, 4:14

男女のデュオ。女声のリード、男声がコーラス。シンプルなギターのストローク。キーボードの音を散らす。コーラスはいわゆるコーラスではなく、ここぞという単語、フレーズに重ねてアクセントとする。

女声は感情をまじえず、ストレートに歌う。メロディはわずかに変えている。

Gayle Anderson-Gram と Bob Gram の夫婦デュオ。ゲイルはマサチューセッツ州グロセスター、ボブがボストンの出身。1990年にあるオープン・マイク・イベントで出会い、1991年からデュオとして活動。2003年に北カリフォルニアに移る。これまでに5枚のアルバムをリリース。

https://andersongram.com/

Ray Rolen, Desperately Seeking Lodi Again, 2011, 4:38

おそらくは自身のギターをバックに独りで歌う中年男声。ホームメイド録音のような音。巧いとはいえないが、妙に耳を惹きつける歌唱。脳天気にも聞えるが、再び妙な浮遊感があり、おちつくべきところにおちつかない。

まったく情報が無い。

Tiger Maple String Band, Coming Home, 2012, 3:21

女声二人のハーモニーでアップテンポの、オールドタイム風の組立てであっけらかんと歌う。バンジョー、フィドル、ギター、ベース。まるでダンスの伴奏。

こういうやり方もある。

ペンシルヴァニヤ州北部を拠点とする5人組。1999年結成。

Lori Burke: vocals, guitar
Justine Parker: fiddle
Alison Parker:fiddle
Barry Smith: banjo, vocals
Fred Parker: guitar, vocals
https://www.tigermaplestringband.com/

Wade Baynham, New Heaven, New Earth, 2013, 4:45

すべてエレクトリック楽器の普通のバンド。エミルーのオリジナルにバックの音の組立ては最も近い。一方でリード・シンガーの女声はやや線が細く、バックの厚みに埋もれるときがある。他のヴァージョンよりもわずかにテンポが速いのが、早く歌いおえてしまいたいようでもある。

ノース・カロライナ州ダラムを拠点とするシンガー・ソング・ライター。出身はサンフランシスコのベイ・エリアらしい。2010年に《We》でアルバム・デビュー。これは3枚目。

ベイナム本人はプロデューサーでエンジニアが本業のようだが、歌もつくる。

https://wadebaynham.bandcamp.com/album/new-heaven-new-earth

Ashleigh Flynn, To Emmylou, 2016, 3:53

ギター、ドブロ、バンジョーをバックにした女声ヴォーカル。わずかにかすれた声で、これも感情を込めない。ドブロのリフが感情を帯びる。

エミルーへのトリビュート・アルバムの1曲。歌っているアシュリー・フリンはケンタッキー出身のシンガー・ソング・ライターで、ローカルで活動した後、2008年にサード《American Dream》で全米に知られる。2018年に全員女声のカントリー・ロック・バンド The Riveters を結成。

Wild Carrot, Between The Darkness & The Light, 2018, 5:10

ギターのストロークとマンドリンの間で、ダブル・ベースとフィドルがドローンを奏でるのをバックとした女声ヴォーカルと女声のコーラス。リードはやや鼻にかけたシャープな声で、明瞭な発音。途中からベースはビートに移る。基本的にはゆったりしたブルーグラスの趣で、フィドルとギターがとぼけた短かいソロをとる。

ベスト・トラックの一つ。

シンシナティを拠点とする Pam Temple と Spencer Funk のデュオ。トリオやカルテットでも活動する。中心の夫婦は2000年に結婚してデュオとして活動を始める。アルバムはこれまでに5枚。これは最新作。

https://wildcarrot.net/home

Shealee, Head To The Stone, 2019, 4:05

力のある女声ヴォーカル。一語ずつ、明瞭に発音する。ギター2本、フィドル、
ベース、パーカッション、途中からドラムス。

ミシガン出身で、ノース・カロライナに住む。音楽一家の出で、歌、ギター、フィドルをよくする。ブルーグラス/ルーツ・バンド Henry River Honey を3年間やった後、このソロ・アルバムをマッスルショールズで録音。

https://www.shealeemusic.com/

Jack Clark Band, single, 2019, 4:12

ギター・ストロークとアンビエントのバックで男声がソロで歌う。全てにリヴァーブをかけている。いかにもアメリカンの声とスタイルで裏声も使うが、どうやっても明るくならないのに苛だっているようでもあり、歌われている絶望の深さに魅入られているようでもある。

http://jackclarksonband.com/

おそらくこの人だろうが、確証が無い。これだとするとサン・アントニオのバンド。カントリーとゴスペルを融合した音楽をやっているらしい。

Tidal にはシングル盤しかない。

Deathbarrel, Merciless Winds, 2020, 3:20

ドラムス、ベース、バンジョー、ギター、マンドリンのやや速めのミドル・テンポ。カントリー・ロック仕立て。男声のリードとコーラス。シンガーは世の中こんなもんだ、それ以上を望むのは思い上がりとでも言いたげなのだが、かすかにユーモラスでもある。バンジョーのソロがいい。

ノルウェイのバンドで、メインはブルーズ。これもひょっとするとブルーズのつもりか。

https://www.facebook.com/pg/deathbarrel/

Double-Barrel Music, Poor Man’s Dream, 2020, 3:48

アコースティック・ギターのストロークとエレクトリック・ギターのリード、それにハーモニカをバックに女声のリード、男声がコーラス。わずかに速めのテンポ。時に歌の後ろでもリードを弾くエレクトリック・ギターがすばらしい。

女声シンガーはところどころアクセントを変える。

Hayden Whittington & DeeDee Kelly のデュオとのことだが、サイトにはCDの購入リンクしか無い。

https://double-barrelmusic.com/

以上、いずれも Tidal で聴ける。どうやらこの歌はアメリカン・トラディションの一角に組込まれてきているらしい。

さてコリーンはエミルーのオリジナルをかなりなまでにエミュレートする。アルバム内の他のトラックよりもやや力が抜けた歌唱。ことさらに感情を抜こうとしない分、緊張がとれたか。コーラスで力を込めることはあっても、七分ほどの力。

バックは厚めのサウンド・デザインで、ヴォーカルが特に前面に出ることもないが、沈みこむこともない。バックからわずかだが決定的に浮いている。バックはいずれもこの曲の象徴的な3音からなるリフを除いてメロディは奏でず、ドローン的に空間を埋める。その重ねられる様子、個々の音に、どこか祈りの気持ちを感じることがある。祈ることでも救われはしないと承知しながらも、なお祈らずにはいられないという気持ちが滲み出たとも聞える。(ゆ)

新しいセッション様式!?:field 洲崎一彦

さて、先月はこのコロナの世の中で如何に我がアイリッシュパブフィールドがセッションを再開するか!という困難をくどくどと愚痴ったわけですが、1ヶ月経って何か変わったか?というお話しです。

ここ京都では、9月のシルバーウィークの異常とも思える急激な人出を目の当たりにして、これは、2週間ぐらい経つと京都はクラスターだらけになるのではないか?と危惧しつつ様子を見ておったのですが、ちょうどその時期にあたる10月を迎えるころになってもそれほどの事は無かたようですね。むしろ、観光客の方々が地元にお帰りになったその地元で少々感染者数の上昇が見られたというような観察もあるみたいです。まあしかし、こんな言い方をすると、何か自粛警察ならぬクラスター警察のような雰囲気がかもし出されて、こういうのをあれこれ検討するのも我ながら嫌な気分にもなるんですが。

シルバーウィーク人出に由来するクラスター騒ぎが無かった!とは言っても、世間の雰囲気がそれだけでガラリとは変わるものでもないなあと思っていると、今度はGo To Eat キャンペーンが京都では10月20日から開始されますね。Go To Eat のチケットは売り出されるとあっという間に売り切れるとのことですからそれはそれで期待もできるのですが、ウワサによると、それでクラスターが一件でも発生すれば、このキャンペーン自体が終わるという話もあるわけで、これもまあどこかでハラハラしなければならないわけです。

結局、私達のような不特定多数の皆様に対してサービス業を行う立場を思うと、このコロナの現状では何がどうなって何をどうしても何らかハラハラしなければいけないということになるんですね。

学習の遅い私もそろそろ学習して来ました。ハラハラするのは同じならセッション再開してしまえ!ということですね。

では、このセッション。コロナ下の新しい生活様式ではどのように執り行えば良いのか。。。。実は1番気になるのがホイッスルとフルートなんです。

少し前ですがTVでモダンフルートを吹いている時の演奏者の息がどのように飛び散るかを特殊なカメラで撮影して視覚化していたのを見たのです。吹き口と先端からはかなりの勢いで息が噴き出してかなり遠くまで拡散します。また、指穴からもまんべんなく噴き出してフルート全体が霧に囲まれたようになるのです。

TVでやってたぐらいですから、この映像を見た人も多いでしょう。この映像を見た後で例えばセッションの光景を見たとすれば、それはまあかなり恐ろしい光景に映るのは間違いないと思います。まして、音楽に特別な興味を持っていない普通の人からすれば衝撃でしょう。

先日、どこかのメーカーから管楽器用のマスクが発売されたと聞いて調べてみました。すると、それはただマスクの真ん中に窓が作ってあって管楽器の吹き口をそこにあてがって直接口にくわえることが出来るというものなのですが、管楽器の内部に吹き込まれた息は楽器の先端から勢いよく噴き出すのですから、これでは、まったく飛沫防止効果は期待できません。

少なくとも、吹き口のまわりと楽器の先端にはガードが必要です。これって、アクリルフィルムなどを使ってなんとかうまく作ることが出来るようにも思うのですが。。。

あ、そうか! ケルトの笛屋さんでこのようなフルート用とホイッスル用の飛沫防止ガードを作ってしまえばええのか!オリジナル商品として!

これは、灯台もと暗しでした。

今回は、ちょっと短くなってしまいましたが、さっそく、今からハタオ君に相談してみます!

さて、どうなることにあいなりまするやら?(す)

バウロン奏者クレイグ・バクスターへのインタビュー:メリッサ・ウェイト 村上亮子翻訳

https://celtnofue.com/blog/archives/6618

編集後記

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