リズ・キャロル作品のおすすめの6曲


出典 https://blog.mcneelamusic.com/

アイルランドの楽器メーカーMcNeelaが公開しているブログの中から「フィドル奏者リズ・キャロルのおすすめ楽曲」についての記事を許可を得て翻訳しました。

原文:The Best of Liz Carroll – Six Irish Tunes to Learn

リズ・キャロル作品のおすすめの6曲

新しい曲を学ぶことほど楽しいことはない。メロディーがどのように形作られているかを探る。指で曲の感触を確かめる。時間をかけて練習し、完璧にしてから、自分だけのタッチを加える。

お勧めの曲を教えてほしいというリクエストの多さから判断すると、私の顧客もそう思っているようだ。
幸運なことに、アイルランド音楽の伝統の中で、学ぶべき曲には事欠かない。私たちの豊かな音楽的伝統は、世代から世代へと受け継がれてきた豊富なレパートリーに恵まれている。このレパートリーは、伝統の中にある多くの偉大な作曲家たちの作品のおかげで、日々増え続けている。

アイルランドの伝統音楽の作曲家という考え方はいささか矛盾しているが、作曲家がいなければ、そもそもこのような素晴らしい音楽は存在しない。音楽はどこかで生まれなければならないのだから。

古い伝統の中に違和感なく溶け込みながら、新しいものを生み出すというのは、なかなか難しいラインだ。今日のアイルランド伝統音楽の世界では、作曲家には事欠かないが、ある作曲家はその難しいことを軽々とこなしてしまう。偉大なリズ・キャロルは、伝統を壊すことなく、その境界線を押し広げるメロディーを作ることに成功した人だ。彼女の曲の多くは、アイリッシュ・ミュージックのカタログにシームレスに浸透している。実際、あなたがまだ少なくとも彼女の曲を1つも知らないとしたら驚くほどだ。新しい曲に挑戦したい人も、ただ単に素晴らしいアイリッシュ・ミュージックを聴きたい人も、私と一緒にアイリッシュ・ミュージックの偉大な作曲家のお気に入りの曲を探してみよう。

著名な作曲家

シカゴ生まれのアイルランド系アメリカ人フィドル奏者、リズ・キャロル Liz Carrollは、今日の伝統的アイルランド音楽の世界で最もエキサイティングなミュージシャンの一人であり、アイリッシュ・フィドルの名手でもある。

リズはフィドル演奏だけでなく、彼女が作曲した曲の膨大なレパートリーでも高く評価されている。彼女はアイルランド音楽の伝統の中で最も有名な作曲家のひとりであり、それは当然のことである。

1994年、米国芸術基金(National Endowment for the Arts)より、演奏家および作曲家としての功績を称えられ、ナショナル・ヘリテージ・フェローシップ(National Heritage Fellowship)を授与された。2010年には、伝説的なギタリスト、ジョン・ドイルJohn Doyleと録音したアイリッシュ・フィドルとギターのデュエット・アルバム『Double Play』がグラミー賞にノミネートされた。その同じ年にオバマ大統領(当時)に向けて演奏をするためホワイトハウスに招待された。2011年にはTG4 Gradam CeoilでGradam an Chumadóra(作曲家賞)を受賞した。リズ・キャロルの音楽は広く知られるようになり、定期的にセッションで演奏され、多くのアーティストによってレコーディングされている。彼女は何百もの曲を書いており、アイルランド音楽の伝統にシームレスに浸透している。

これらの曲のほとんどは、リズのアルバムに収録されていたり(他にもたくさんある!)、彼女の曲集CollectedCollected IIに掲載されている。

リズ・キャロルの作品はなぜこれほど人気があるのか

リズ・キャロルの曲は生命力に溢れている。どのメロディーも、あなたを意外な展開に満ちた音楽の冒険に連れて行ってくれる。しかし同時に、心地よい親しみやすさも含んでいる。

彼女の高揚感溢れるアイリッシュ・ダンス・チューンは、喜びと興奮に満ち溢れ、同時に絶大な音楽性が詰まっている。

リズの作るメロディーはユニークで個性にあふれている。どの曲も、演奏するのも聴くのも楽しい。
― ウィニフレッド・ホーランWinifred Horan(Solasのフィドル奏者)

リズの曲は何よりも演奏性が高い。彼女のメロディーはユニークでありながら、記憶に残る。これは、レパートリーの学習と伝達の大部分が聴覚的なものである音楽の伝統の中で、どの曲にとっても重要な特徴である。

フィドル・フレンドリー

リズ・キャロル自身が非常に熟練したフィドル奏者であるため、リズ・キャロルの曲がアイリッシュ・フィドルによく合うのは当然だ。他のミュージシャンが、彼女の曲をフィドル専用に書かれたものと見なすのも無理はないが、それは間違いだろう。

リズのリールの中には、例えばティン・ホイッスルやキーのないウッド・フルートでは演奏する勇気がないものも1、2曲は確かにあるが(主にフィドルの低音G弦を好んで使うため)、他にどんな楽器でも簡単にアクセスできる数百もの曲がある。以下に私のお気に入りをリストにした。

明らかに象徴的なアイリッシュフィドルのリールはリストから抜けていることに気付くだろう。それについては、私はフィドルの演奏者ではないからだと言っておく。しかし、これらの選曲は本当に素晴らしいものだと約束する。そして、何よりも大切なことは、どの伝統的なアイリッシュ楽器でも演奏しやすいということだ。

コンサーティーナアイリッシュ・ボタン・アコーディオンティン・ホイッスル、あるいはアイリッシュ・テナー・バンジョーなど、どんな楽器でも演奏できる。

さあ、始めよう。

お気に入りのリズ・キャロルの曲

1 – セッション・セット

ちょっとズルをしちゃおう。この曲は2つで1つ分の値段なのだから。というのも、これらのジグはペアとして定着しており、セッションで「アウト・オン・ザ・ロードOut on the Road」が演奏された後に「プリンセス・ナンシーPrincess Nancy」が演奏されないことはことはまれだろう。これらの美しいジグは、きっとあなたの地元のセッションでも演奏されたことがあるはずだ。あるいは、すでに覚えてしまっているかもしれない。そうでなくても、知っておいて損はない。
この2曲はリズの比較的「伝統的」な曲だ。あまりに一般的に演奏される曲なので、単純な曲として片付けられてしまう危険性を私は恐れているが、そうすることは、この魅力的なメロディーに大きな損害を与えることになる。

とはいえ、リズの膨大な音楽カタログに飛び込もうとする人にとって、これらの曲は素晴らしい出発点となる。適切に学べば、これらのジグは簡単に習得でき、初心者にも最適だ。両方とも学ぶことを強くお勧めする!



2 – The Air Tuneエア・チューン

The Air Tuneは、リズが作曲した美しいスロー・リールだ。おそらく彼女の最もよく知られた曲のひとつだろう。リズは、リールのような軽快なダンス・チューンを、メロディが引き立つようなスロー・テンポで演奏するのが得意だ。この曲でも彼女はそのアイデアを踏襲し、あまり速いペースで演奏すると音楽性がまったく失われてしまうようなリールを書いている。

この曲の私のお気に入りの録音のひとつは、アイルランドのバンジョー奏者、エンダ・スカヒルEnda Scahillによるものだ。エアとバンジョーという言葉はあまり一緒に使われることはないが(バンジョーでスロー・エアを演奏してみてほしい!)、信じてほしい。エンダはテンポを少し上げているが、この曲はゆったりとしたペースで演奏するのが一番だと理解している。このハーモニーを聴いてほしい(2分49秒から)。


3 – Barbra Streisand’s Trip To Saginaw

リールといえば、リズはグルーヴィーなダンス・チューンで有名だ。この曲は伝統的なものでありながら、少しパンチが効いている。Barbra Streisand’s Trip to Saginaw(そう、読んで字のごとく)も例外ではない。

この曲は、どんなミュージシャンにも挑戦しがいのあるエキサイティングな曲だが、フィドルだけでなく、どんな楽器でも演奏できる。チャレンジ精神が旺盛な人なら、フルートで演奏するのも楽しいだろう。


4 – The Fruit And The Snoot

前回の曲ではチャレンジが足りず、もう少しエキサイティングな曲をお探しなら、この曲がお薦めだ。「フルーツとスヌート」は7/8拍子のハイブリッド曲で、少しバルカン風味がある。ジグとリールに赤ちゃんが生まれ、東欧の民族音楽を聴いて育ったようなイメージだ。

多くのミュージシャンは7/8で演奏することに抵抗を感じるが、実際には何の問題もない。ジグより1拍多く、リールより1拍少ない。ただ、3拍子と4拍子が交互に繰り返されると考えればいい。

この特別な曲の場合、リズはこれらのグループ分けを交互に行うことで、私たちを飽きさせないようにしている。つまり、このようにリズムパターンが変化するのだ。

1 2 3 – 1 2 3 4 | 1 2 3 4 – 1 2 3

最初は少し難しく感じるかもしれないが、演奏するのはとても楽しいし、タイミングが試される!

この曲の本当の難しさは、臨時記号(シャープとフラット)、つまり半音にある。この半音階的なパッセージをマスターすることは、あなたの演奏に素晴らしい効果をもたらし、楽器の可能性を最大限に引き出す助けとなるだろう。


5 – Never Far Away

リズ・キャロルは甘く表情豊かなメロディーを書くのが得意で、Never Far Awayは私のお気に入りの例のひとつだ。トレヴァー・ハッチンソンTrevor Hutchinsononのギター伴奏による、リズ自身によるこの魅力的な演奏を聴いてみよう。

この曲はよくスロー・リールと呼ばれる。この美しいリズ・キャロル・ナンバーに込められた意図を誤解して、時速100マイルで弾き始める人がいるかもしれないからだ。

メロディーは一見単純に見えるが、適切な奏者の手にかかれば、本当に感動的な演奏になる。

この曲はそれだけで完成された演奏になり得るが、聴き手を驚かせたいなら(あるいは感傷的に思われたくないなら)、次のムーディーなナンバーに続くこともできる。




この曲はそれだけで完成された演奏になり得る、聴き手驚かせるなら(あるいは感傷的に思われたくないなら)、次のムーディーなナンバーに続けてさらに盛り上げたり逆に落としたりすることもできる。

6 – See It There

どんなテンポでも使えるスロー・リールだ。

上記のテンポで演奏してもいいし、指を飛ばしつま先でタッピングしながら猛スピードで演奏してもいい。

可能性は無限だ。


それがリズ・キャロルの音楽のポイントだ。

彼女はあなたの音楽の旅に連れて行くが、あなた自身が自分の道を探検し見つけることを勧める。 曲を記譜するときでさえ、彼女の解釈の余地を多く残している。伝統の真のマスターである彼女は、それがアイルランド音楽の本質であることを理解している。 リズ・キャロルがアイリッシュ音楽の世界にもたらしたように、どのミュージシャンもリズ・キャロルの音楽に新たな息吹を吹き込み、演奏に新しい何かをもたらすだろう。


【画像出典:https://blog.mcneelamusic.com/