フィドル・ワークショップ:松井ゆみ子

ライター:松井ゆみ子

今年第一弾のフィドル・ワークショップに参加してきました。

2月1日のセント・ブリジッドズデーが祝日に加えられた影響で、この時期にトラッドミュージックのイベント開催が少し増えた気がします。

ここの祝日は、バンクホリデーといって月曜日を休みにし、土曜日から三連休にするのが基本です。なので2月1日は今まで通り平日。そのあと2月3日から5日までが休日でした。

ブリジッドズデーは個人的に大好きな祝日です。

珍しい女性の聖人にちなんだお祭り。酪農の守護人といわれ、働き者でたくましいアイルランド女性の鏡的存在です。Rush (ラッシュ)とよばれるカヤのような草で作る十字架セント・ブリジッドズクロスを使って、キリスト教の布教につとめました。クロスのデザインが象徴するように、そこにはキリスト教以前の土着宗教がうまく取り入れられていて、アイルランドらしいお祭りだなと感じています。ミュージシャンをはじめ、アーティストたちもこの日をそんな風にとらえているらしく、ブリジッドズデーに合わせてのイベントは以前からありましたけれど、正規のホリデーになったことで拍車がかかったようです。

今回参加したのは、隣県ドニゴールのバリーシャノンで開催されるトラッドフェスのワークショップ。フィドルの他に、ホイッスルとフルート、アコーディオンとコンサーティーナ、バンジョー、歌のクラスがあり、朝11時半からランチをはさんで3時まで。”中・上級者クラス” しかないので、やや心配だったのですが、10人ほどのクラスは小学生と中学生ばかりなので、大丈夫かなと油断したのが大まちがい。マークの兄嫁を誘っておいてよかった。まずはひとりずつチューンのさわりを弾くことに。一種のレベルチェックです。小学4年生くらいの女子、なめらかな演奏! 兄嫁と顔を見合わせてショックを共有。そのあと次々と、小学生たちが緊張のかけらも見せずに装飾音も盛り込みながら演奏していきます。

この時点で、わたしと兄嫁は置いてけぼり……。

クラスの誰も知らないことを確認した上で選ばれたチューンを学ぶのですが、クラスメイトの覚えの早いことといったら! わたしもチューンの覚えは遅い方ではないと思っていたのですけど、次元がちがいました。彼らは反射神経で覚えていく感じ。一度弾くと、もう頭の中にメロディが入ってる。

あとで先生が「こどもたちはこわいものなしなのよ〜。大人は、ボウイングがどうかとか、ちゃんと弦をおさえられているかとか、いろいろ考えちゃうでしょう」となぐさめてくれましたけど。

そんな中で4パーツあるチューンを1時間で学ぶのですが、こどもたちはランチ前に全部弾けていた……。

30分のランチ休憩で、ホイッスル、アコーディオン、バンジョーのクラスに参加していたわが地元のセッション仲間たちと合流。「どうだった?」と聞いたら「消えたかった」の返答に深く同感。

午後の授業はさらに驚きが続きます。

先生から提案されたのが「みんなでチューンをひとつ作ってみない?」

1小節ずつ、こどもたちが次々にオリジナルなメロディをつなげていく光景に、なんとか追いすがろうと、こそこそ弾いてみるけれど、知っているメロディが浮かぶばかり。

先生がホワイトボードにABCを使った譜面(ご存知かな??)に書き留め、ときどき「ここは1音上げた方がつながりがいいかな」とか若干の手直しをするものの、最初の8小節2回のあとの8小節には高めの音符を選ぶ方がいいみたいなことも理解していて、着々とオリジナルチューンができあがっていくのをあっけにとられながら見ていました。おまけにすぐ弾けるし。聞いたことのないチューンを即座に演奏できるって、きみたち何者??

授業のあと、各クラスの生徒たちが集まって発表会。

フィドルクラスは、先生の自慢げな「みんなでオリジナルチューンを作ったので演奏しますね」のアナウンスに、一同「おお!」のどよめき。わたしはホイッスルクラスの友人のうしろにかくれ、兄嫁はすでに退散。

合同セッションのチューンはなんとか一緒に弾けましたけど、いやもうアイルランドのこどもたち、おそるべし。CCEのクラスで練習を積んだこどもばかりで、大半はコンペに挑むクラスに乱入してしまったのですが、衝撃的な体験でありました。

反面。今、ここで綴ると「負け犬の遠吠え」 にしかならないので、抑えて少しだけ触れますが・苦笑

この国には「上手な演奏者が多すぎる」 という贅沢すぎる悩みがあるのかも、と感じています。

フラーを頂点としたコンペが年間通してヒートアップしていて、チャンピオンとよばれるミュージシャンがたっくさん生まれ続けていますけれど、その先が見えにくくなっているのではないかしら。

昔のコンペは、町の名人たちが参加して戦い抜く図式でしたけれど、現代では十代を含むこどもたちが中心だと思います。正直、さほど詳しくはないので、この続きはまたいずれ。

とはいえ、伝統音楽が健在なのは事実ですし、次世代に受け継がれているのは素晴らしいことだと思っています。

今年は万年ビギナーのフィドルを若干でも向上させたいと思っているので、レッスンやワークショップのレポートをときどきお届けいたしますね。