【続スライゴー・ミュージック】アイリッシュ・フルート編

ライター:松井ゆみ子

アイリッシュ・フルートと、クラシックミュージックのフルートの違いをつい最近知ったような、門外漢のわたしに記事が書けるだろうか? と不安ではあったのですが、hataoさんの関わるこのメルマガ(クラン・コラ)で、笛にふれないわけにはいきません。加えて、スライゴーはアイリッシュ・フルートのメッカのひとつ。猛勉強いたしました。へー! と思っていただける箇所があれば嬉しいです。

前回「スライゴー・ミュージック」と書きましたが、伝統音楽のメッカは特に南スライゴーSouth Sligo。フィドルのマイケル・コールマンMichael Colemanやジェイムス・モリソンJames Morrisonの時代から音楽がさかんな地域でした。コールマンの出身地に近いガーティーンGurteen(Gorteenと表記される場合あり)にはマイケル・コールマン・センターThe Coleman Traditional Irish Music Centreという文化施設があり、レッスンやイベントが頻繁に行われ、音楽人口を増やし続けています。サマースクールもタバカリーTubbercurryで開催されサウス・スライゴー・サマースクールSouth Sligo Summer Schoolと命名されている理由を理解したのは最近のことです。

スライゴーらしい組み合わせが「フルートとフィドル」であることを知ったのも実は近年のことです。そういえば。今の借家の、前の住人も高校生の息子がフルートを習っていて、なかなかの腕前。学業の合間は家業の羊の世話をしている立派な青年です。趣味でサイダー(シードル、りんごの発泡酒)を作っているご近所さんもフルートプレイヤーで、小学生のお嬢さんがフィドルを合わせています。

アイリッシュ・フルートのさかんな地域は、スライゴーの他にロスコモンRoscommon、リートリムLeitrim、ファーマナFermanagh、少し南下してゴールウエイGalway、クレアClare。

日本でたぶんいちばん有名なアイリッシュフルートプレイヤーのマット・モロイMatt Molloyはロスコモン出身。ウエストポートWestportでパブを経営しているので、てっきりその近くの出身かと思っていました。彼が、ロンドン生まれながら両親の影響でスライゴー・スタイルを踏襲しているフィドラー、ケヴィン・バークKevin Burkeとザ・ボシーバンドThe Bothy Band で一緒に演奏しているのは興味深いことです。ある意味、典型的というか、いかにも伝統にのっとったコンビネーション。

ボシーバンドは結成当時、革新的なグループで、伝統音楽に関心の薄いアイルランド人が増える中、伝統音楽を「かっこいい!」ものに変えた功績の大きさは計り知れません。今聴いても斬新ですが、彼らをお手本にして追従するミュージシャンは多く、革新だった部分はひとつのカテゴリーとなって定着している感じもします。

さて。アイリッシュ・フルート界でのマイケル・コールマン的な存在なのが、ジョン・マッケナJohn McKenna ( 1880 ~1947)リートリム出身で、コールマン同様ニューヨークに移り住みました。

彼の影響を受けたパッキー・ダイグナンPackie Duignan(1922~1992)は同じくリートリム出身で、ホイッスルのメアリー・バーギンMary Berginに影響を与えました。これこそが伝統ですよね。受け継ぐもの、受け継がれるもの。フルートからホイッスルへ。フィドルがイーリアンパイプスから影響を受けるのと同じ、豊かな感性の響き合い。これこそが、アイルランドの音楽の魅力だとわたしは思います。

コールマンの出身地キラヴィルKillavilで生まれたフルート奏者ピーター・ホーランPeter Horan (1926~2010)は、同郷のフィドラー、フレッド・フィンFred Finn(1919~1986)とコンビを組んで演奏活動をしていました。ピーターはフィドルも演奏でき、あるインタビューで「多くのことはフィドルから学んだ」と答えています。自らの演奏と、合わせる相方から学ぶもの。

現役でスライゴー・スタイルをばりばり演奏しているのが、Gurteen 生まれのシェイマス・タンジーSeamus Tansey。“King of the Flute”の異名あり。

hataoさんに、日本でよく知られているアイリッシュフルートプレイヤーを事前に聞いてみたときに、コラム・オドネルColm O’Donnellの名前が挙がって嬉しくなりました。彼は歌も素晴らしく、それも次回ご紹介したいと思います。

hataoさんから教えていただいたジョシー・マクダーモットJosie McDermottのことはまったく知らず。スライゴーのミュージシャンで、視力を失くした後、ハープのオキャロランに興味を持つようになったというのがまた、この国らしくて素晴らしい。

ジューン・マッコーマックJune McCormack の名前が挙げられていたのも少し驚きました。ハープ奏者で作曲家のマイケル・ルーニーMichael Rooney とのコラボレーションが多く、ここでは親しみのある奏者です。

ある本の中で「フルートプレイヤーはなかなかにイタズラで、セシューンの最中に少しずつ演奏を速めていくことがある」と記しています(笑)。

スライゴーの音楽家については、大島豊さんがご自身のブログで紹介されている書籍In Nearly Every Houseがとても素晴らしく、大島さんの解説がまた懇切丁寧なので、ぜひ読んでみてください。スライゴーの南と北のことを含め、大切なポイントがたくさん書かれています。

大島さんのブログ
http://blog.livedoor.jp/yosoys/archives/55019343.html

Gregory Daly “Nearly Every House – Irish Traditional Musicians of North Connacht”
https://liber.ie/product/in-nearly-every-house-irish-traditional-musicians-of-north-connacht/

先に書いたフィドラーFred Finnの妹で同じくフィドラーのティリー・フィンTilly Finnも登場しています。この本のことはまったく知らず、わー、欲しいなと思いながらブログを読んでいるうちに、ふと気づいたのです。著者の名前に心当たりが……。うそ、昨日紹介されたフルートプレイヤーだ!

グレゴリー・デイリーGregory Daly。グレゴリーという名前の人に会ったのは初めてで、名前を覚えるのが苦手なわたしですが、さすがに忘れ難かったのです。

彼に会ったのはわが地元クリフォニーヴィレッジで開催されるガラクタ市。パンデミックで使用者が激減しているコミュニティホールの資金集めで開催されているのですが、そこにぶらっと現れた小柄な男性がグレゴリーでした。紹介してくれたのは、わたしのフィドルの先生マーガレット。「素晴らしいフルート奏者なのよ」と教えてくれ、さっそくYouTubeなどで検索。スウィートな演奏もすてきでしたが、20年近く前の映像なのに今もほぼまったく同じファッションなのが印象的でした。

最後に、出身はドニゴールですが、日本ではすっかりおなじみになったグループ、アルタンの前身というか核というか、アルタン結成前に作られたアルバム“Ceol Aduaidh”は、まさしく「フルート&フィドル」の息のあったコラボレーションを聴くことができます。

と、えらそうに書いていますが、CCE公認フィドル講師takaさんから教えてもらいました。マレードの夫で今は亡きフランキー・ケネディの、ある意味とても濃厚なアルバムです。takaさんの解説ですが、なんとデビュー以前のエンヤも参加しています。歌でなく、シンセサイザーで!

YouTubeは賛否両論ありますし、わたしもそうそう利用しませんが、アイルランドの伝統音楽に関しては貴重な機会を得られることが多く、あまり否定できないでいます。

*文中で「フルート」とはしょっていますが、すべてアイリッシュ・フルートのことです。”プレイヤー”と”奏者”とふた通り出てきますが、筆者の気分での使い分けなので悪しからずご了承くださいませ!

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