アイリッシュ・ミュージック、ケルティック・ミュージックを中心としたヨーロッパのルーツ音楽についての情報、記事、読物、レビューをお届けする月2回発行のメールマガジン「クラン・コラ」。
当ブログにて、不定期にバックナンバーをお届けします!
クラン・コラ Cran Coille:ケルト・北欧音楽の森 Issue No.296
- アイリッシュ・ミュージック・メールマガジン 読み物編
- June 2019
私とケルト音楽 恩田裕之さん後編:天野朋美
Colleen Raney——アメリカで伝統をうたう試み・その21:大島 豊
アメリカのケルト系シンガー、コリーン・レイニィの録音を聴くシリーズ。
4枚めのアルバム《Here This Is Home》の第8回。
10. The Nightingale 04:53
コリーンは Frank Harte の歌唱を聴いて、そのメランコリックで美しいメロ
ディに惹きつけられたという。別れと希望を同時にうたう歌とする。
このタイトルの歌には伝統歌だけでもいくつか、まったく異なるものがある。アイルランドで最も有名なのは、賜暇で帰ってきた兵士が束の間の浮気を楽しむ気楽でユーモラスな内容。ダブリナーズが有名にし、アイルランド録音はほとんどがこれ。最近だと、John Carty の娘の Maggie が父親との共演盤でうたっている。Jacqui McShee’s Pentangle もこれをとりあげ、サックスも使った、洒落てクールな演奏を聞かせる。
ここでコリーンが唄っているのは、やはり兵士が主人公。だが、アントリムの青年が大陸での戦争に駆りだされ、愛しいナンシィと別れて、大陸に渡る船がビスケー湾で沈むが、九死に一生を得る。しかし、故郷には帰れないとうたう。歌詞だけでなく、メロディも異なる。モチーフ、題材は同じだが、向いている方向は正反対。こちらの録音はそう多くはないが、どれも水際だった演奏で、
01. Dan Milner, Irish Ballads & Songs Of The Sea, 1998
アメリカのアイルランド系シンガー。アカペラ。下記フランク・ハートの歌唱をベースにしているが、アーティキュレーションを変え、アクセントも移動して、メロディを歌いやすくアレンジしている。結果、歌唱に無理がない。ただ、ちょっとそつが無さすぎ、滑らかすぎるところも無きにしもあらず。シンガーとしても一級だが、研究者でもあり、最近もニューヨークのアイルランド移民の歴史の本を出している。
02. Frank Harte & Donal Lunny, My Name Is Napoleon Bonaparte, 2001
フランク・ハートがドーナル・ラニィとともに作ったアルバムはどれも傑作だが、これはその中でも出色の1枚。ナポレオンにまつわる歌を集めたCD2枚組。
この歌はアカペラ。この歌のメロディはかなり起伏に富み、伝統歌としては異例に音域が広い。ハートも声域いっぱいのようだが、歌の巧さで、むしろ声の出しにくいところが悲劇性を訴える。
03. Mark Dunlop, Islands On The Moon, 2008
スコットランド在住のアイリッシュ・シンガーのソロ・デビュー・アルバムから。Malinky のメンバー。芯の通った、丸みのある、しかもパワフルで、声域の広い声と抜群の歌の巧さ、それに大胆なフィドル、タブラまで使う意表を突いたアレンジで、これは群を抜いてすばらしい演奏。
04. Colleen Raney, 2013
ギター伴奏のみ。コリーンはむしろ無伴奏に近く、拍を整えずに、隣の人間に語りかけるように、テンポを落として唄う。エイダン・ブレナンが歌に合わせ、ほとんどフリーリズムの味わい深い演奏を聞かせる。マーク・ダンロップとは対照的にストイックでミニマルな演奏で、優るとも劣らぬ名演。
名曲に凡庸な録音無し。
あと1曲。スコットランドの伝統歌〈Craigie Hill〉は録音も多いので次回。
メルマガにできること:hatao
先日のライブ情報号では、読者のみなさんに今後のライブ情報号の今後を問いかける形で発信しました。これまで一度も読者からメールをいただいたことがなかったのですが、初めて、ご意見、お気遣い、感謝の言葉を、おそらく10名程度の方からいただきました。ありがとうございました。
クラン・コラがまた廃刊すると思った方もいらっしゃったようで、ご心配をおかけしました。
ライブ情報編の今後についての結論を申しますと、ライブ情報を掲載してほしい人が毎月私まで情報を送り、私がコピペするだけの作業で済むようにして、発行を継続することになりました。これまで「日本のケルト音楽シーンに良いことをしている」という気持ちが先走ってしまい、それをアーティストが、そして読者が望んでいるのかどうかも分からず突っ走って、そして勝手に疲れていたのかもしれません。
送ってくれたものを載せると言っても、音楽家は多忙なので几帳面に毎月送ってくれる人はいないでしょうから、今までのように国内のアーティスト全体を網羅するのは不可能になります。ご了承ください。
それから今回改めて気づいたのですが、メルマガというメディアが宿命的に持っている情報の検索性の悪さも問題です。テキスト形式でアーティストごとにだーっと情報が並んでいると、自分の住んでいる地域のライブがあるかどうかを毎回確認しなくてはいけないので大変不便です。それに、最後の方のアーティストはどうしても読まれる確率は下がってしまい、不公平感もあります。
今の時代、場所や日付やアーティスト別でクロス検索をかけられるようなシステムができそうなものですが、私自身は開発する手段がないのと、業者に依頼する場合はその投資が価格に見合うものなのかどうかを見分けなくてはいけません。
この読み物編にしても、私は読者として大島さんや洲崎さんのコラムが面白くて毎号が届くのを楽しみにしていたのですが、大島さんによると、読者から反応があったことはめったに無く、一方通行の形で発行され続けていたようです。ですから、読者のために書いているというよりも、ライター陣が書きたいことを書くものとして続けられてきました。(たとえば大島さんは、1枚のアルバムをテーマにもう2年近くも連載を続けていますね。)
趣味の音楽としてのメルマガですから、各自がオタク的に好きなことに対して誰かが共感してくれたら良いな……という気持ちで、私はボイジャー号にメッセージを書き綴って宇宙空間に飛ばしているような感覚で書いていますが、今回はその先にこうして読者がいることを初めて実感することができて、それだけでも読者に語りかけた意味があったと思いました。
今の時代、情報の伝達手段が増えて便利になった一方で、届けたい人に届けるのが、より難しくなっていませんか。身の回りに情報が多すぎるので、人は見たいもの、自分が正しいと思うものしか見なくなりました。それが、思考や習慣のパターンを固定化して社会の分断をより深刻なものにしていると感じます。
テレビやラジオや雑誌や新聞であれば、編集者やプロデューサーが厳選した広い範囲の情報を取得できるので、知らなかったことに出会う機会がありました。リアル社会にしても、書店やCD店に行くと流行や売れ筋商品ではないものも多く陳列してあり、面白そうな本やCDに出会うことができました。パブや喫茶店に行けば、マスターや常連客と会話して未知の世界に出会うこともありました。
一方でAmazonではこれまで自分が買ったことのある本の関連書しかオススメに表示されませんし、SNSでは自分の知的関心がある狭い範囲のことしか知ることができず、そこでは予定調和的な、いつも同じような人の同じような話を見聞きすることになります。
話がそれましたが、メルマガは、あの女子大生編集者が言っていたように「おっさんしか読まない時代遅れなもの」なのでしょうか。そうかもしれませんが、私はメルマガには、雑誌的な面白さがあると思っています。
私はアイルランド音楽の日本語版の雑誌のようなメディアを、紙媒体であれ、ウェブであれ、いつか作りたいと思っていたのですが、このメルマガを運営した経験からも、商業ベースで採算が取れるとは到底思えません。しかし愛好家がお金を出し合う同人誌であっても、何かできればという思いが、今でもあります。
ぜひ、読者のみなさんも「好きなもの」「考えていること」をクラン・コラでシェアしませんか。ライターご希望の方は私までご連絡ください。
なお、ケルト音楽全般についての情報は「ケルトの笛屋さん」のブログで
毎日発信していますので、こちらもご覧ください。
編集後記
原稿が不足しがちな本誌に、寄稿してやっても良いぞという愛読者の方はぜひご連絡ください。
ケルト音楽に関係する話題、例えばライブ&CDレビュー、日本人演奏家の紹介、音楽家や職人へのインタビュー、音楽旅行記などで、1000文字程度までで一本記事をお書きください。
頻度については、一度にまとめてお送りくださっても構いませんし、毎月の連載形式でも結構です。
ご相談の上で、「ケルトの笛屋さん」に掲載させていただく場合は、1文字あたり1円で買い取りいたします。
ご応募は info@celtnofue.com までどうぞ。
★全国のセッション情報はこちら
★全国の音楽教室情報はこちら
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
クラン・コラ:アイルランド音楽の森(月1回刊)
発行元:ケルトの笛屋さん
Editor :hatao
*掲載された内容を許可無く転載することはご遠慮ください。
*著作権はそれぞれの記事の執筆者が有します。
*ご意見・ご質問・ご投稿は info@celtnofue.com へどうぞ。
*ウェブ・サイトは http://www.celtnofue.com/
*バックナンバーは最新号のみ、下記URLで閲覧できます。それ以前の号をご希望の方は編集部までご連絡下さい。
まぐまぐ http://www.mag2.com/m/0000063978.htm
=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-