【私とケルト音楽】第二回:ラジオ番組パーソナリティ 恩田裕之さん 後編


出典 amax-music.net

インタビュアー:天野朋美

様々な分野で活躍している方をゲストにお招きし、ケルトにまつわるお話を伺う「私とケルト」。

第二回のゲストは、前回に引き続き鎌倉エフエム「MCおんのおん☆しつ」などラジオ番組パーソナリティとして活躍している恩田裕之(おんだやすゆき)さんです。

前編では恩田さんのお仕事や音楽史、そしてケルト音楽との出会いとその魅力について語っていただきました。

https://celtnofue.com/blog/archives/4208

さて、ラジオ番組パーソナリティとケルトはどのように繋がるのでしょうか。

後編もどうぞお楽しみください。

インタビュアー:天野朋美(あまのともみ)

いざという時に役立つコミュニティFM

――恩田さんがMCを務めている鎌倉エフエムやかわさきFMはいわゆる「コミュニティFM」と呼ばれていますが、コミュニティFMについて教えてください。

恩田:コミュティFMのキーワードは地域密着です。

そこに住んでいる人へ地域のきめ細かい情報を伝えたり、災害時のライフラインとしての役割を担っています。

例えば、災害が起きた時の炊き出しや毛布を配る場所を伝えるなどですね。

コミュニティFMというのは実は賛否両論で、「他にメジャーなラジオ局やインターネットがあるんだからコミュニティFMなんていらない」という意見もあります。

けれど停電が起きて電気が使えないときに、電池で動くラジオで本当に必要な情報が得られるというのはとても重要なことだと思うんですよね。

他には「パーソナリティが自分の話ばかりしてクオリティが低いし面白くない」ということも言われています。

そこで僕はBGMの無いAMラジオで、パーソナリティのしゃべりを徹底的に学びました。

あとは音楽でリスナーに満足してもらえるように、ラジオで流す曲には特に力を入れています。

放送日の数日前から選曲することもありますね。

いざという時にとても役に立つコミュニティFMですから、普段から聞いてもらえるように試行錯誤しています。

ラジオで流す音楽へのこだわり

――ラジオ番組で流す音楽はどのような基準で選曲しているのですか?

恩田:以前担当していた朝の番組では、起きてくるリスナーの年代に合わせて曲のジャンルを変えていました。

最初は早起きが得意な年齢層向けにビートルズを、次は80年代洋楽ポップスというような感じですね。

若い子たちはゆっくり起きてくるだろうと思って、その後に流行りの J-POPを流します。

音楽には凄い力があって、「楽しい」「悲しい」など感情を揺さぶります。

僕はリスナーが元気になるように、誰もが知っていて懐かしいと感じる曲を選んでいました。

時刻を知るためにラジオを聴くリスナーも多いので、音楽のジャンルでも時間帯の雰囲気を出せるように考えていました。

まずはケルトの音色を知ってもらうことが大事

――ラジオ番組でケルト音楽を流すとしたらどのようなタイミングが良いでしょうか?

恩田:ケルト音楽のように空気に溶け込み癒しを与える音楽はほかには無いと思うので、積極的にリスナーに届けたいのですが、ラジオで流すにはみんなが知っている有名
な曲などキャッチーであることが求められます。

例えば琴でサザンオールスターズを演奏したものなど、まずは皆が知っている曲をケルトの楽器で演奏してこういう音色だという事をわかってもらう。

それから「ケルト音楽って何だろう、もっと知りたい」と思ってもらったときに初めて皆が知らない曲でも流すことが出来ます。

最初から全く知らないものを出されるよりも、すり合わせて興味を持ってもらってからの方がいいですね。

路上で歌っているミュージシャンも、最初からオリジナル曲を歌っていたらなかなか立ち止まらないけれど、知っている曲を歌ってしかも上手だったなら、次に「オリジナル曲を歌います」と言われた時にそのまま聴きたくなりますよね。

僕もそういう経験があって、前回お話しましたが様々なサウンドトラックを聴くうちに「映画音楽の原点はクラシック音楽!だよな?」と思い聴き始め、クラシック音楽の魅力に気づきました。

ドビュッシーの「月の光」なんかは聴いていると、山の上のまんまるなお月さんが湖を照らして、水面が揺れている。

そこに一匹の魚が顔を出して月を見ている。

そこから緩やかに波紋が広がって…なんて映像が浮かんでくるんです。

映画音楽は映像に音を付けるものだけれど、クラシックは音楽が映像を作り出すんですよね。

こんな風に、親しみやすい入口から別の世界に入っていく。

そこでどっぷりハマることが出来ればそれはとても幸せなことですよね。

ティンホイッスルは安いもので1000円台から手に入るし、この音色を知って吹いてみたいという人もたくさんいると思います。

それにはまず、皆が知っているキャッチ―な曲をケルト楽器で演奏することですね。

横浜とケルトの知られざる繋がり

――恩田さんが活躍する横浜にケルトとの繋がりがあると伺いましたが一体どんな事で
しょうか?

恩田:たまたまテレビ朝日の「じゅん散歩」を観て知ったんですけどね、横浜は日本の国歌「君が代」の発祥の地なんですって。

調べてみると、この曲の生みの親はアイルランド出身のジョン・ウイリアム・フェントンというイギリス軍人でした。

残念ながらフェントンが作曲した君が代は、歌詞が合わないという事で今の君が代のメロディーに改訂されましたが…。

彼は吹奏楽の父でもあり、横浜の妙香寺*1というお寺で日本第一号の吹奏楽隊を指導しました。

妙香寺には「国家君が代発祥の地」「日本吹奏楽発祥の地」という記念碑があって、今でも年に一度、フェントン作曲の君が代が演奏されるそうです。

日本の歴史の中で横浜がアイルランドと繋がっていたことに驚きましたね。

今はインターネットがあるから簡単に調べられますね。

――君が代だけでなく、日本の吹奏楽発祥もアイルランドと繋がっていたのですね!

恩田:横浜は床屋にアイス、ビールなど何でも初めての街なんです。

開港していたので色々なものを受け入れていました。

「キング」「クイーン」「ジャック」という愛称で呼ばれている県庁や税関など、古くからの洋風建築もあります。

今では多くの建物に囲まれていますが、その当時は横浜港にやってきた船の入港の目印となっていたそうです。

鎌倉も歴史があって魅力的な場所です。

鎌倉には細い路地がたくさんあるんですよ。

それは敵が馬に乗って攻めてきた時に通れないようにするためです。

横浜や鎌倉に遊びに来る時には、車ではなく交通機関を使って、ぜひ街の中をゆっくり歩いて歴史や異文化に触れてみてほしいですね。

探してみれば他にもケルトとの繋がりがあるかもしれません。

もっとこの声を使って人々に楽しんでもらいたい

――恩田さんの活動の今後の展望を聞かせてください。

恩田:映画の寅さんに憧れて始めた的屋、結婚式や葬儀の司会、ケーブルテレビの番組キャスター、そしてラジオ番組パーソナリティなど、今まで就いた声の仕事はどれも知人の紹介やそこから広がったもので、仕事を続けていくにも原稿のアドバイスなど教えてくれる人が周りにいて…本当に人に恵まれてきたと思います。

これからはこの声を使ってもっと皆様に楽しんでもらいたいですね。

日本国内だけじゃなく、世界に発信していきたいというのが僕の野望です。

ディズニー映画の声優なんかやってみたいですね。

――ウォルト・ディズニーもアイルランド系の血が流れていますよね!

恩田:そうでしたね。

いろいろなアニメ映画がありますが、エンターテイメント性が一番高いのはディズニー映画ですね。

ピノキオのジミニー・クリケットやアナと雪の女王のオラフのようなキャラクターを演じたいです。

ジミニー・クリケットは昔の恋人に、似ていると言われたことがあります(笑)。

もうひとつ夢がありまして、いつか自分で映画を撮りたいと考えているんです。

一人の主人公の人生の中で起こるドラマを、映像にしてみたいです。

それが実現する時には、ケルト音楽の力を借りたいですね。

ケルト音楽は聴いていると頭に映像が浮かんでくるので、エンディングやクライマックスにとても合うと思います。

――恩田さんがラジオでオリジナル番組を持つとしたらどんな番組を作りますか?

恩田:僕は映画が好きだから、毎週テーマを決めてそれに沿ったゲストを招いて、映画音楽を流しながら作品について語りたいですね。

例えば「ファッション」がテーマなら洋服のデザイナーをゲストに、ヘンリー・マッシーニ*2を流しながらオードリー・ヘッ
プバーンとジバンシーのデザインについて話す。

「食」がテーマならシェフを招いて「ゴッドファーザー」の中に出てくる食事やお菓子の話をしたいですね。

小さな気づきを入口に充実した日々を

――最後に読者の方へメッセージをお願いします。

恩田:初めは知らなかったケルトですが、人との出会いを通じて知ることとなり調べてみると様々な発見がありました。

日々生きている中で誰にでも何かしらの気づきがあるかと思います。

ちょっとした引っかかりがあってもそのままにしがちですが、調べると面白い歴史や違う世界が見え自分の知識にもなります。

最近引退した野球選手のイチローも、熱心になれることを見つけるべきだと言葉を残しています。

そうなると人生は短いと思うようになります。

読者の皆様にもぜひその感覚を味わっていただきたいですね。

(おわり)

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*1:横浜市中区にある日蓮宗の寺http://myokohji.jp/index.shtml
*2:アメリカ合衆国の作曲家。オードリー・ヘプバーン作品、「刑事コロンボ」、「ピンクパンサー」のテーマなどがよく知られている。

【Profile】

ゲスト:恩田裕之(おんだやすゆき)
神奈川県出身。ラジオ番組パーソナリティからクレイジーケンバンドライヴMCまで、声のお仕事のスペシャリスト。
インタビュアー:天野朋美(あまのともみ)
山梨県出身。ケルトの魅力にハマってしまったシンガーソングライター、ティンホイッスル奏者。ケルトの妖精と日本の妖怪が好き。
https://twitter.com/ToMu_1234