【店長の少し偏ったケルト話】映画「ベルファスト71」は時代を体験できる映画!

ライター:オンラインショップ 店長:上岡

今回は「ベルファスト71」という映画を紹介したいと思います!

こちら、ごく最近アカデミー賞にもノミネートされたモノクロ映画「ベルファスト」とは別の映画ですので、ご注意ください。その「ベルファスト」についてもコラムを書きたいと思っていますが、今日はこっちです。

さて、こちらの映画、原題はとってもシンプルに「71」と言います。

これは1971年の意味なので、1971年のベルファスト(北アイルランド)を舞台にした映画、ということですね。

ちなみにその年に日本では何があったかというと、日清カップヌードルが発売開始され、仮面ライダーが一斉を風靡、もみあげと声量が魅力的な尾崎 紀世彦さんの「また逢う日まで」が大ヒットした年だったんですね。(名曲です)

さて、そんな71年のベルファストを舞台にするとどんな映画になるんだい?と思われるかもしれませんが、実はこちらの映画、まあまあハードな描写の多いアクションスリラーです。

筋書きはとってもシンプルです。

北アイルランドのベルファストに派遣された英国の新米兵くんが、現地のお巡りさんの家宅捜索の協力に出動したんだけれど、暴動に巻き込まれて、アンチ英国の敵地ど真ん中にひとり置き去りにされてしまう、というシチュエーションスリラー(状況だけでゾッとするやつ)です。

でもなんで、アイルランドにそんながっつり敵地が存在してるのか、てかそもそも北アイルランドってアイルランドとは違うの?という疑問もあるかもしれません。

アイルランドの歴史についてはいろいろなところで長々書いてしまっているので、できるだけはしょって紹介しますね。

「アイルランド」が独立した国になった1922年(大正11年)なんです。

で、「どこ」から独立したかというと、それは「英国」からですね。

その時もアイルランドのみなさんが色々がんばったわけですが、最終的に双方が合意した内容が「アイルランドは独立していいけど、アイルランド島のうちの一部は英国が保持しときますよ」というところでした。

そこで怒るのは、アイルランド愛がだいぶ強い人たちです。

「ちょ待てよ!」と言いたくなるのは想像できますよね。

「アイルランド島の全域がアイルランドだろ」と声高に叫びますし、実際、ひと昔前はそうだったんですから、そう言うのは筋が通っています。

また、アイルランド人(便宜上そうくくっていますが、主流なのはカトリック教徒や、英語が第二言語な方々)は、英国の支配下時代に辛い思いをたくさんしています。そういう歴史もあるので、自分たちの島に英国支配地が残る、英国人(こちらも便宜上そうくくってますが、実際に英国から移住してきた人や、アイルランド出身だけどプロテスタントの人など)が残るなんてまっぴらごめんだね、と強行姿勢を取るようになります。

そして、その英国人や英国寄りな人たちがアイルランドにも残れるように、アイルランド島の北側だけ英国領のままにしておくことが、大正の時代に決まったわけです。(なんとなく、奪った奪われたみたいな椅子取りゲーム的な想像をしてしまいますが、これらは政治的な方法、選挙など投票で決まっています。つまり北アイルランド界隈に住んでいる人たちの過半数が、アイルランド側に併合されるのを支持しなかったということなんですね)

まあ「ちょっと思ってた結果とは違うかったけど、大部分が独立できたからよかったね!」というムードがしばらく続きました。

そのやや平和ムードが壊れたのが60年代後半と言われています。1969年に大きめの暴動が起こります。この暴動では多数の死者を出し、カトリックとプロテスタントの地区の境目にバリケードを築き、爆弾を投げ込むような、ちょっとびっくりするような暴動(戦い)になりました。

そして、そこからもっと、もっと武器を!と武装を強化していった過激な「アイルランド島全部をアイルランドにするんだ!」派(カトリック)と、相手がその気ならこっちは最新の(英国軍の)武器を使いまくってやり返してやるぜ、という「暴力組織は全部抹殺じゃい」派(プロテスタント)に分かれて、小競り合いが起こるようになります。

これが、この映画の歴史的な背景部分になるんですね。

ちなみに、こういう大きなくくりの敵対関係というのは歴史的にもよくあると思いますが、その被害のほとんどを引き受けざるを得ないのは「最前線に住んでいる人たち」です。

組織や軍の偉い人たちは、地図上でこの場所を叩けば…とか、この要所を落としてここから進軍すれば…なんて話を軽々しくしますが、その作戦に巻き込まれる住人や、それによって大事な人を失う最前線に住んでいるごく普通の人たちのことを微塵も考慮していません。

こういう大きな敵対関係にあるグループが争う場合の構図は、歴史的にもいつだってこんな感じになります。

カトリック側の組織

  • 過激な方法を続けると、軍を派遣されて皆殺しにされるかもしれないし慎重に行こうぜ派
  • そんな弱腰はあり得ない!爆弾上等、ガンガン行こうぜ派

プロテスタント側の組織

  • 抹殺じゃー、歯向かうやつは抹殺じゃ!派
  • あくまでもこちら側の住民に被害が及ばないよう、治安を維持するために話し合おう派

※ 映画に合わせて長い名称をつけましたが、要するに「過激派」と「穏健派」です。

そして当然ながら、そういった組織に怯え、目をつけられないように息を潜めて前線に暮らす住民たちがたくさんいるんです。

ついに映画の話に戻ってきました!

この映画の主人公は、最初に書いたように、家宅捜査(ある家に過激派が武器を隠してるらしいという通報があった)をする際に、現地警察だけだったら危ないので、群衆をなだめるために軍が整備してくださいね、という任務につくところから始まります。


▲家宅捜索に向かうシーン。これが前線の街の日常風景のようです…

が、そこで軍の制御が及ばない暴動が起こり、群衆によって本隊と引き剥がされた青年が、カトリックの過激組織がたくさんいるであろう地区のど真ん中にたったひとりで置き去りにされてしまうことになります。

そこから、先ほど挙げたカトリック、プロテンスタント過激派と穏健派、そしてそれに怯える住民たちと少しずつ関わっていきながら(観客目線で見ると、それぞれの派閥の人たちの暮らしぶりや主張が順番に体験できます)どうにか生還を目指す、というお話です。

また「最前線に暮らす怯えた人たち」はいつ被害に遭うかわからない恐怖だけでなく、家族がもしかしたら人を傷つける側に回るかもしれないという恐怖を抱えている姿も描かれています。

もちろん予備知識ゼロで見ても、とってもハラハラするアクション映画なんですが、それが現実世界の、それもたかだか50年程度前の時代を反映しているということを認識して見ると、ハラハラと共に色々な感情が込み上げてきくること請け合いです。

こういった辛い時代、戦いの時代を経て、平和を築いているわけで、そういった時代に逆戻りすることは絶対にいい選択肢じゃないということが体感できるという意味でも、お勉強になる映画だと思いますので、ちょいグロな描写もありますが、そういうのが気にならない方はぜひご覧ください!