ブズーキについて Part3

T. Yoshikawaさんによるブズーキ解説シリーズPart3では、ブズーキを購入する際に検討するべきポイントについて解説していただきました。

かなり本格的な内容になっていますので、購入を検討されている方は必見です!

楽器の選び方

ブズーキは、ギターのように明確に決まったモデルがないため、購入を検討する際には、いくつかの要素を検討することになります。

フラットトップとアーチトップ

フラットトップは、ギターのように表面板が平面(実際にはディッシュと呼ばれる球状の皿や、円柱状の皿の上で曲げ、僅かな曲率を付けている場合が多い)になっているもので、安価に作ることが可能です。

一方、アーチトップは、バイオリンのように、分厚い1枚の板から表面板にアーチを付けながら削り出したタイプです。

アーチを付けることで、剛性が高くなり、弦の強い力にも耐えられるようになりますが、材料費と製作コストがかかるため、値段は高くなります。

ボディ形状

ボディ形状には、大きく分けてティアドロップ型のものと、ギター型のものがあります。

ティアドロップ型最も一般的な形状です。

サイズは大まかに、横幅が340mm前後の小型のもの、370mm前後の中型のもの、410mm前後の程度の大型のものに分類されます。

ギター型のものはグズーキ(guzouki)やガズーキ(gazouki)とも呼ばれ、小型のティアドロップ型のものと比べると、空気の体積が増えるため、低音の共鳴周波数が下がり、レンジが広くなります。

テールピース型とピンブリッジ型

ブズーキには、テールピースに弦を引っ掛け、フローティングブリッジ(トップに接着されていないブリッジ)を用いるテールピース型と、ギターのように、接着されたブリッジにブリッジピンで弦を留めるピンブリッジ型の2種類があります。

テールピース型は伝統的なスタイルで、柔らかい独特の減衰感が得られることが特徴です。

これに対し、ピンブリッジ型は、サステインが豊富で、ブライトでぎらついたサウンドが特徴です。

イメージとしては、ギターに復弦を張ったようなサウンドになりがちです。

ヨーロッパの伝統音楽では、リズミカルな演奏が最も重視されるため、テールピース型が好まれる傾向にあります。

一方のピンブリッジ型は、セッションで目立ちたい音量重視のプレイヤーや、伝統音楽以外の音楽にブズーキサウンドを取り入れたいプレイヤーなどには特にオススメです。

ピンブリッジには、弦の輪を引っ掛けて固定するループエンド弦に対応したタイプと、ギター弦のようなボールエンド弦を引っ掛けるタイプの2種類があります。

ループエンド弦は、ブズーキ専用弦がセットで販売されていますが、種類が少ないこと、また、必ずしもメーカーの推奨するゲージ(弦の太さ)に対応しているとは限らないため、ループエンド型の購入を検討される前には、希望の弦が日本国内で入手可能かどうか、よく検討した方がいいでしょう。

ボールエンド型は、ギター用の弦をそのまま利用できるため、選択肢も多く便利です。

また、テールピース型でピックアップの後付けを将来的に希望される場合は、ジャックの径とテールピースの径が必ずしも一致するとは限らないため、場合によっては、穴を2つ開けることが必要になる場合があります。

見た目や構造上問題ないか、購入前に検討した方が良いでしょう。

テールピースとジャックの固定孔を一体にしたものをオーダーできる場合もあります。

ブレーシング

ブレーシング(力木)の役割は、楽器を弦の張力から守る補強する役割と、楽器の振動をコントロールする役割の2つがあります。

ブズーキのサウンドは、ボディ形状とこのブレーシングのパターンと削り方でかなり決定付けられます。

ピンブリッジ型では、弦がトップを引っ張り上げ、サウンドホール側に沈み込もうとする回転トルクに対応するため、XブレーシングやXブレーシングを応用したラティスブレーシングが一般的に用いられます。

一方のテールピース型でも、近年ギター製作者がブズーキを製作することが増えるにつれ、Xブレーシングが採用されることが増えていますが、Xブレーシングはトップの沈み込みに対処することを目的として開発されたパターンではないため、より沈み込み圧力に強いラダーブレーシングを採用する製作家も多くいます。

Xブレーシングは、トランポリンのようにトップが一体となって上下に動く振動モードが支配的で、比較的低域や中域が豊かです。

これに対し、ラダーブレーシングは、高域がはっきりとしているため、伝統音楽で重視されるリズミカルな演奏とよく合います。

バックのブレーシングには、主に、振動せずにトップの振動を跳ね返すスタイル (reflective back) と、振動することにより、中域にピークを加え、音色を豊かにするスタイル (live back, active back, responsive back) があります。

前者には、伝統的なラダーブレーシングが用いられ、後者ではXブレーシングなど、近年様々なパターンが試みられています。

バックが振動すると、その分エネルギーが失われることにもなるため、音量と音色はトレードオフの関係にあると言えます。

弦長(スケール)

スケールは、ナットからブリッジまでの距離(正確には、サドルでの補正値を考慮する必要があるため、ナットから12フレットまでの距離を2倍したもの)を指します。

同じ弦の種類であれば、弦長は長ければ長いほど、テンション(張力)が強くなり、フレットとフレットの間の距離は長くなります。

ブズーキでは630mm前後のショートスケールのものから、670mm前後のロングスケールのものまで、様々です。

手が小さい方は、ショートスケールのものの方が楽に弾けるかもしれません。

サウンドホール

サウンドホールの形状には、ギターのような丸型のものと、マンドリンのような楕円型のものがあります。

いずれも、内部の空気の共鳴周波数を決める役割を果たしています。

サイズは直径80mm程度のものから、92mm程度のものが一般的で、ギターと比較すると小さいことが多く、将来的にマグネティック・ピックアップの取り付けを希望される方は、サウンドホールの直径が合うかどうか、購入前によく検討した方がいいでしょう。

バインディングとパーフリング

ボディのバインディングは、トップやバックをサイドと内側のライニングに接合する役割を果たすものです。

ボディをぶつけた時に割れ止めとしての役割を果たす他、トップのサウンドにも影響を与える要素です。

パーフリングは主に装飾としての役割を果たすものです。

いずれも、手間がかかるため、安価なモデルには施されません。

ペグ

ペグは、小型のモデルの場合は、軽量化を図るため、マンドリンの4連式のものや、プラスチック製のボタンが用いられます。

比較的大きいモデルの場合は、ギター用のペグを用いることも一般的です。

ロトマチックタイプのものなどは、互換性のあるものが数多く販売されているため、楽器を購入した後でも、気に入らない場合は、別のものに取り換えることも可能です。

ネックジョイント

ブズーキには、ポルトガルギターのように、ネックヒールがボディの中に組み込まれたスルーネック方式、バイオリンのようにネックとボディを蟻溝で組んで接着したダブテイルジョイント、ほぞ継ぎをし、接着剤の代わりにボルトで固定するボルトオン方式があります。

それぞれに様々な特徴がありますが、各メーカーが様々な工夫を凝らしており、メリット、デメリットを一概に評価することはできません。

ジョイント位置はその方法によって異なりますが、14フレットから16フレットが一般的です。

ギターの場合、14フレットジョイントと12フレットジョイントではブリッジの位置が変わり、音に少なからず影響しますが、ブズーキの場合は決まったデザインはなく、どのジョイントでもスイートスポットにブリッジを置けるよう、比較的自由に設計できるため、ジョイント位置で音が変わることはあまりありません。

木材

トップ材には主に、ヨーロピアン・スプルース(ジャーマン・スプルース)シトカ・スプルースウェスタン・レッド・シダーが用いられます。

ヨーロピアン・スプルースは比重が高く、色白で、独特の温かさがあります。

良質な材は高価です。

シトカ・スプルースは最もパワーがあり、はっきりとした音が特徴です。

レッドシダーは、柔らかく比重が低いことから、パワーはないものの、温かい低音が特徴です。

また近年は、熱処理を施すことで、含水率と比重を落としたトリファイド材も用いられ始めており、新品でもビンテージ楽器のような長年弾き込んだサウンドが楽しめます。

バック材には、様々なものが用いられます。

最も代表的なのは、インディアン・ローズウッドとマホガニーで、ローズウッドではレンジが広いサウンドが特徴なのに対し、マホガニーは軽く、さわやかな音が特徴です。

いずれも年々希少になってきており、ローズウッドは数年前にワシントン条約CITESの付属書IIに掲載され、輸出入に手続きが必要になったことから、近年は代替材を用いることが増えています。

※その後CITESの規制は変更となり、完成した楽器や加工済みの部品に関しては輸出入の制限が撤廃されています。とはいえ、未加工の材料の輸出入は引き続き規制されていることから、これらの材を使用しないメーカーも多くなってきています。

ローズウッドの代替材としては、サステインが豊富なウェンジ(ウェンゲ)や、パドウクが製作家の間で人気が高まりつつあります。

また、サペリマホガニーに比較的見た目や音が似ていることから近年よく用いられており、他にも域に特徴のあるウォルナット(アメリカのクラロ・ウォルナットやヨーロピアン・ウォルナット)や、立ち上がりが良いメイプルなどもよく使用されます。

近年は地元材を積極的に使う取り組みも進んでおり、ヨーロッパではボッグオーク(Bog Oak, 埋もれ木)をサイド&バックや指板などに使う動きが見られる他、オーストラリアなどでは、タスマニアン・ブラックウッドやクイーンズランド・メイプルもよく用いられます。

木材の値段は材の希少性により変わりますが、高価な材を使っているからといって良い音になるとは限りません

希少な材では値段が高くても、安価な材と比較して質的に劣ることもありますし、個体差のある木材をどう組み合わせていくか、どのように楽器として組み上げるのかといった要素も非常に重要です。

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