【アイルランド組曲・スコットランド組曲 】オーケストラアレンジで聴くケルト・北欧の伝統音楽

ライター:吉山雄貴

アイルランド組曲・スコットランド組曲

伝統音楽をオーケストラアレンジで楽しもうという本連載。

トップバッターは、「アイルランド組曲」と「スコットランド組曲」という作品。

いずれも、作曲者はルロイ・アンダーソン(1908-1975)。

アメリカ合衆国の作曲家で、代表作は「ラッパ吹きの休日」、「シンコペーティッド・クロック」など。特に「そりすべり」なんか、名前は知らずとも、誰しも1度は聞いたことがあるんじゃないかな。

ちなみに組曲とは、歌なしで演奏する楽曲であって、複数の曲を合わせて1つの作品としたものをいいます。

有名どころは、J.S.バッハの管弦楽組曲。これの第3番に含まれるアリアを、後世の人物が編曲したのが、かの「G線上のアリア」であります。

「アイルランド組曲」は、アイルランド伝承曲6曲を、オーケストラ用に編曲した組曲です。長さは全体で、20分あまり。

下記の動画で、全曲を視聴できます。

6曲それぞれの名前はコチラ。

  • 第1曲:The Irish Washerwoman(アイルランドの洗濯女)
  • 第2曲:The Minstrel Boy(ミンストレル・ボーイ)
  • 第3曲:The Rakes Of Mallow(マローの道楽者)
  • 第4曲:The Wearing Of The Green(緑が野に)
  • 第5曲:The Last Rose Of Summer(夏の名残りのばら)
  • 第6曲:The Girl I Left Behind Me(去りにし娘)

いずれの曲名も、使用された伝承曲の名前そのままです。

カッコ内の日本語名は、国内で販売されるCDのジャケットに、よく書かれているもの。

さて、このうち4曲目のThe Wearing Of The Green。「緑が野に」という訳が定着しています。

しかし、これはおそらく誤り。

だってこの歌、こんなリフレインなんですぜ?

For the wearing of the green(緑の服を着たばっかりに)
For the wearing of the green(緑の服を着たばっかりに)
They’re hanging men and women (あいつら男も女も絞首刑にしやがるんだ)
For the wearing of the green(緑の服を着たばっかりに)

他にも、かなりカゲキな歌詞のオンパレード。

イングランドの残酷な赤をまとわなきゃならなくなったんだからな」とか、「アイルランドのはらからは、流された血をけして忘れまい」とか。

セント・パトリックス・デイ祝えないじゃん、ですって?

はい。そのことも歌ってます。

親切にも、カラオケ機器のように、音楽と連動して歌詞が表示される動画。

どうやらこの曲、18世紀末イギリスがフランス革命への対応に追われるのに乗じて、アイルランドで独立運動が盛り上がり、これが武力で鎮圧された、というできごとを歌っているようです。

なんでも、活動家たちがシンボルとして、緑色の上着やリボンなんかを身にまとったので、イングランド側がこれをきびしくとり締まった、とか。

ちっとも「緑が野に」なんて、のどかにうたた寝でもしたくなるような内容じゃないよう……。

以上、本当は怖い「アイルランド組曲」でした。

一方の「スコットランド組曲」は、あたかも「アイルランド組曲」の姉妹作のような作品。

スコットランド伝承曲4曲で構成されます。全体の長さは約10分。

残念ながら、You Tubeでこれを全曲きける動画は、みつかりませんでした。

どうもこの作品、「アイルランド組曲」と比べて、いちじるしく知名度が低いようです。なぜなのさ。

曲目はコチラ。

  • 第1曲:Bonnie Dundee
  • 第2曲:Turn Ye To Me
  • 第3曲:The Bluebells Of Scotland
  • 第4曲:The Campbells Are Coming

いちじるしく知名度が低いためか、確立した邦題はありません。

さて、1曲目のDundeeはスコットランド東部の地名で、Bonnie Dundeeとはその領主だったジョン・グレアムの愛称。

彼はイギリスの名誉革命(1688)でフランスに亡命したジェームズ2世の支持者、通称ジャコバイトの指導者でした。

そもそもこのジェームズ2世の家系、本来はスコットランドの王家で、エリザベス1世の死で王朝が途絶えたイングランドに、新たに招かれたのでした。

ジェームズ2世はイングランド王としての呼び名で、スコットランド王としてはジェームズ7世にあたります。

で、Bonnie Dundeeことジョン・グレアムは、名誉革命に反対して挙兵し、キリクランキーという場所でイングランド軍を破るも、自らは戦死します。

そして4曲目のThe Campbells Are Coming。

Campbellって誰かっていうと、アーガイル公ジョン・キャンベルのこと。

彼は、ジェームズ2世の子ジェームズ・ステュアートが王位を要求して1715年に反乱をおこした際、これの鎮圧に貢献した人物。

この楽曲は、そのときに作られたといいます。

Bonnie Dundeeに始まり、The Campbells Are Comingに終わるこの組曲。

私などは、なんらかの意図を感じてしまうのですが……、考えすぎか。

以上、本当は怖い「スコットランド組曲」でした。

それにしても、The Wearing Of The Greenといい、The Campbells Are Comingといい、なにかとヤバめな曲ばかりセレクトするルロイ・アンダーソン。

アイルランドやスコットランドにルーツがあるのかと思いしらべてみると、意外にもスウェーデン系移民の子孫だとのこと。

「マク○○」じゃなくて「○○ソン」だもんね。

ところで、私「アイルランド組曲」を収録しているCDは、これまでに何枚か見たことがあります。

一方、「スコットランド組曲」に関しては、ほとんど目にしません。

その「スコットランド組曲」を聴ける、私の知るかぎり唯一のCDが、コレです。

【L・アンダーソン管弦楽作品集 第4集】
BBCコンサート・オーケストラ
指揮:レナード・スラットキン
録音年:2007年
レーベル:ナクソス

ジャケットによれば、「スコットランド組曲」全曲を録音したのは、このディスクが世界初だとのこと。

どうりでYou Tubeに動画がないワケだ!

相方の「アイルランド組曲」も収録されています。

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