現代のアイルランドの伝統楽器「バウロン」の伝説 – ジョニー・リンゴ・マクドナー


出典 https://blog.mcneelamusic.com/

アイルランドの楽器メーカーMcNeelaが公開しているブログの中から革新的でエキサイティングなバウロン奏者の一人である「ジョニー・リンゴ・マクドナー」についての記事を許可を得て翻訳しました。

原文:Modern Day Traditional Irish Bodhrán Legend – Johnny Ringo McDonagh

現代のアイルランドの伝統楽器「バウロン」の伝説 – ジョニー・リンゴ・マクドナー

ジョニー’リンゴ’マクドナー Johnny ‘Ringo’ McDonaghは、アイルランド伝統音楽の世界で最も革新的でエキサイティングなバウロンbodhrán奏者の一人である。
この伝説的なバウロン奏者は現代のバウロン演奏の世界を築き、数え切れない世代のミュージシャンや楽器製作者にインスピレーションを与えたアイコン的存在となっている。

1951年にアイルランドのゴールウェイGalwayで生まれたジョニーは、1967年にバウロンを始めて以来、伝統的なアイルランド音楽で最も需要のある伴奏者の一人として名声を築いてきた。

リンゴ Ringoというニックネームの由来は?
1960年代に長髪のドラマーがいたら、他にどんなあだ名があると思う? ビートルズのリンゴ・スターは世界を代表するバンドのメンバーとして一世を風靡していた。彼と比べるのは当然のことである。ジョニー・マクドナーもまた、ビートルズと同じように伝説的なドラマーとなったのだから。

ロックンロール・バウロン

リンゴは、アルタンAltan、アーケイディArcady、メアリー・バーギンMary Bergin、アイリーン・アイヴァースEileen Ivers、シャロン・シャノンSharon Shannon、さらにはアイルランドを代表するロック・スター、フィル・ライノットPhil Lynnotなど、アイルランド音楽界のあらゆる人物と共演し、レコーディングしてきた。

『Beat of the Drum』は、1982年に大成功を収めたフィル・ライノットのソロ・シングル『Old Town』のB面(読者は「B面」を知っているかな?)に収められた、ブルースとアフロビーツのフュージョンをフィーチャーしたこの曲は、伝統的なアイリッシュ・ミュージックの枠にとらわれないリンゴの魅力を垣間見ることができるエキサイティングな作品だ。

彼の多くの成功と勝ち取ったものに関わらず、彼はおそらくスーパー・グループ「デ・ダナン」De Danannの初期のバウロン奏者として最も知られているだろう。

デ・ダナン

リンゴは、この伝説的なアイリッシュ・ミュージック・グループの創設メンバーのひとりだった。「アイルランド伝統音楽のローリング・ストーンズ」と評されたこともあるこのバンドは、1975年に高い評価を得たデビュー・アルバム『De Danann』をリリース。フィドルの若きフランキー・ギャヴィンFrankie Gavin、ブズーキのアレック・フィンAlec Finn、バンジョーのチャーリー・ピゴットCharlie Piggott、ヴォーカルのドロレス・ケーン(キーン)Dolores Keane、そしてリンゴがバウロンを担当し、その才能を結集させたデ・ダナンは、アイルランド音楽を世界の舞台へと押し上げることに成功した。

現在までに19枚のアルバムをリリースしているこの名グループは、伝統的なジグやリールから、ビートルズやクイーン、ポピュラーなクラシック曲のインストゥルメンタル・カヴァーまで、あらゆるジャンルを演奏してきた。リンゴは1988年までグループに在籍し、10枚のアルバムに参加している。

現在でも私のお気に入りの曲のひとつは、彼らの素晴らしいアルバム『Anthem』からのものだ。Ríl an Spidéal、直訳すると「スピダル・リール」。この曲は、バンドが結成当初、ゴールウェイ州スピダルのヒューズ・パブHughes’ Pubでアイリッシュ・ミュージックのセッションに参加していた頃のことにちなんでいる。このRíl an Spidéalは、フィドル奏者のチャーリー・レノンが作曲した美しい曲をフィーチャーしており、リンゴの繊細で味わい深い演奏スタイルが完璧に表現されている。

アイリッシュ・バウロン革命

ジョニー・リンゴ・マクドナーは、伝説的バウロン奏者トミー・ヘイズTommy Hayes自身から「バウロンで最も優れた奏者」と賞賛されている。確かに高評価ではあるが、これはリンゴのバウロン界への貢献を完全に正確に描いているわけではない。1970年代以降、リンゴはアイルランドの打楽器演奏の限界を押し広げ始めた数人の同世代の一人だったのだから。
アイリッシュ・バウロンの先駆的で画期的な探求は、現代のバウロン演奏の風景を永遠に変えた。70年代以前のバウロン演奏にはリズムのバリエーションが少なく、どちらかというと静的なものだった。今日存在する音色のバリエーションやメロディーの解釈は、「伝統的な」バウロンの伴奏ではほとんど取り上げられなかった。バウロンは、単に時間を刻むための楽器と見なされていたのだ。

しかし70年代から80年代にかけて何人かの新しいエキサイティングなバウロン奏者がこの楽器の能力をフルに発揮させようとし始めた。彼らは伝統的なストレート・タイムから離れ、シンコペーションを含むエキサイティングな新しいリズムを取り入れ始めた。

1991年にアーケイディArcadyとしてアルバムに収録されている曲は、リンゴがアイルランドのバウロン演奏に方向性を与えた完璧な例だ。伝統的な古いスタイルのバウロン演奏から離れすぎて、まったく新しいものと烙印を押されるようなことはないが、古いスタイルよりも繊細で複雑な要素を含んでいることは間違いない。

モダンなバウロン演奏スタイルの開拓

リンゴは今日広く使われている革新的なテクニックを開発し始めた。リムショット(バウロンの木製の縁を叩くこと)をポピュラーなバウロン演奏に取り入れたのも、ブラシ・ビーターbrush beaters.の使用も彼の功績である。彼はまた、打楽器演奏のリズム要素だけでなく、バウロンの音色も探求し始めた。

例えば左手でバウロンの皮に力を入れ音色を変えながら演奏する。このように手を置くことで、バウロンの音を変化させ音程を上げたり下げたりすることができた。

この奏法はまたバウロンをミュートして音量を下げることもできた。バウロンは単に時間を合わせるために使われる大音量のドラムという評判があった。リンゴ自身の言葉を借りれば「二日酔いのときに叩くにはひどいもの」だった。

しかしリンゴは演奏時の音量を調整することで、この貧相で悪評高いドラムを他の楽器とうまく調和させグループでの音楽制作に理想的なものにした。その結果アイルランド音楽の伝統にもっとオープンに受け入れられるようになった。

この画期的な開発がなければ、バウロンが今日のように愛される楽器になることはなかったかもしれない。リンゴによる音色のバリエーションの発展はそれ以来数え切れないほどのバウロン奏者だけでなく楽器製作者自身にも影響を与えている。


出典 https://blog.mcneelamusic.com/

クロスバーとの決別

伝統的なバウロンには太鼓の後部にクロスバーがあり、奏者はこのクロスバーで太鼓を支えていた。リンゴに触発された多くのバウロン奏者が太鼓の皮に手を当てるようになると、より大きな可動性が求められるようになった。完全なクロスバーは人気を失い続け、バウロンの製作と職人技術を進化させることを余儀なくされました。クロスバーはTバーとなり、奏者を支える手の動きがより自由になった。今日ほとんどのTバーは取り外し可能で、奏者が好きなだけ動かしたり支えたりできるようになっている。

やがてクロスバーのないバウロンを作るようになったバウロン・メーカーもある。どちらが正しいとか間違っているとかいうことはなく、すべては個々の奏者の好みによる。

私のウェーブ・バウロンWave Bodhránは、現代のバウロン演奏におけるこのような特殊な傾向にインスパイアされたものだ。リムが波打っているようにデザインした。このカットアウトは、手の届きやすさと動きの自由度を最大化しており、バウロンの全音域を探求するのに最適だ。

音色の向上

バウロンのテーピングは今日では広く受け入れられている改造テクニックだ。今でもテーピングされていないバウロンから得られるサウンドの幅を好む人もいるが、今日のほとんどのバウロン奏者や製作者は、打面の縁の周りの皮を黒い電気テープでテーピングすることを選ぶ。

テーピングはバウロンの音を減衰させ、不要な倍音を減らし、倍音を改善する。テーピングは楽器の響きを良くしより豊かな音色を生み出すということについては、ほとんどの人が同意するだろう。

最初にテーピングを始めたバウロン製作者の一人がシェイマス・オケーンSeamus O’Kaneだ。シェイマスは誰からこの革新的なテクニックを学んだのだろうか? 他でもない、ジョニー・リンゴ・マクドナー自身からだ。
シェイマスは1970年代以降ドラムのリムにテーピングを施し始め、この新しい革新的なテクニックをバウロンのデザインに取り入れた。モダンなバウロン演奏のニューウェーブはとても人気があり、この新しいテーピングドラムヘッドは、バウロンメーカーとプレイヤーの両方にとって標準となった。

バウロンそのものの簡単な説明と、リンゴの楽器へのアプローチは下記の動画で見ることができる。

伝統的な楽器

モダンなバウロンのパイオニアでありながら、リンゴの演奏は古い時代のバウロンに忠実な部分もある。例えば彼の楽器の選択は驚く人もいるかもしれない。現代のバウロンは、一般的に以前のものより小さくて深い。このような小型のドラムはより低音で、一般的に音域が広い。

しかしリンゴは昔ながらの広くて浅いバウロンに忠実である。彼が演奏する楽器は通常、直径18インチから20インチの大型ドラムで、厚い山羊革の細いフレームが特徴だ。このような幅の広いドラムは、皮に手を添えなくてもさまざまな音色を出せる。そのため彼の特徴的なケリー・スタイル(リンゴは特徴的な手首の曲げ方で演奏する)と相まって、音楽的・音色的探求のための完璧なキャンバスを提供してくれる。

ドイツのメーカー、クリスチャン・ヘドヴィチャックChristian Hedwitschak製作のTrHED bodhránで、素晴らしいブライアン・マグラーBrian McGrathのバンジョーと一緒に演奏しているところをご覧いただきたい。彼の象徴的なリムショットから始まるのを聴くことができる!

ヘドウィルチャック自身も、TrHEDはパワフルで野獣のような楽器で、間違った使い方をすると危険だと述べているのが興味深い。

このドラムは経験の浅いプレイヤーには向かない、とはっきり言わなければならない。正しい使い方をすれば、ブルドンのような低音、クリスピーでドライなアタック、そして土臭く、ほとんど催眠術のようなサウンドを持つ素晴らしい楽器になる!
― クリスチャン・ヘドヴィチャック

しかし楽器の真のマスターであるリンゴは、常に完全にコントロールしていることがはっきりとわかる。それぞれのビートと音色は注意深く考慮されている。彼がバンジョーから目を離すことはほとんどなく、すべての音を完璧に追いかけ、わずかな変化やしゃっくりをキャッチする準備ができているのがわかる。