ノルウェー伝統ヴァイオリンによる天上の響きの快楽 Ganmal Granの音楽

北欧音楽バンドDrakskipのリーダーで、ノルウェーの伝統楽器ハーディングフェーレ奏者の野間友貴の新しいユニット、Gammal Granガンマルグランの3月発売のデビューアルバム「やがて樹になる – Spring in Serenity」が手に入った。

ハーディングフェーレはノルウェーの民族ヴァイオリンの一種で、共鳴弦による残響の長い音色が特徴だ。ここでは普段のように野間君と呼ばせてもらうが、彼の日本の北欧音楽における功績は大きい。

北欧音楽バンド Drakskip

北欧音楽がまだ今ほど知られていなかった2000年代、アイルランド音楽は今と変わらず人気だったが、彼は北欧音楽を「発見し」、学生時代に同級生らと彼らの北欧音楽を表現するバンドDrakskipドレクスキップ(以下ドレク)を結成、もともと市場もファンも少ないところから一躍人気バンドに登り詰めた。一時期の人気はトラッド系アーティストとは思えないほどで、女性ファンが踊りに行くとかファン・ミーティングがあるとか独特の振り付けや掛け声があるという噂だった。

その頃から、周りでは北欧音楽のイベントやワークショップが開催されるようになり、スウェーデン音楽の演奏を志す若者が育っていった。これらすべてが彼らだけの功績ではないものの、彼らのあとに道ができたことは確かだと言えよう。

そんな彼らは2011年に京都会館のワンマンライブで1000人を集客するコンサートを開催、フジロックやフィンランドのフェスティバルに出演するなど、一時期はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。どこまでも行ってしまいそうな彼らを、僕は数年間、指をくわえて遠目に見ていたのだが、メンバーの北欧音楽留学やそれぞれの事情を経て、現在バンドはゆるやかな活動にシフトしている。

絶頂期のドレクを、僕はきちんと評価することを避けてきた。告白すると、その人気や才能を羨やむ気持ちもなかったわけではない。CDに参加してもらったり、対バンしてもらったり、メンバーそれぞれとの関係は良かったのだが、若さと前進したい気持ちが先走り、熱にうかされているような危うさを感じていたのだ。野間君のほとばしる情熱に、メンバーの音楽性や技術が付いてゆかず、瞬発力だけで最短距離でゴールを目指して走っているように僕には見えた。

留学から帰国して何年かの時間が経って、野間君はデュオや単発ユニットなど、次に取り組むべき音楽を模索していたようだ。その時期は、トラッドもしくはそのスタイルに基づく音楽をしており、北欧音楽のワークショップを通じて伝統音楽の普及や後進の育成に力を入れてきた。その時期の彼をかつてのドレクファンは「変わってしまった」と評価する声もあったようだが、彼にとってはじっくりと足腰を鍛えている時間だったのだろう。

今回満を持してスタートしたガンマルグランのデビュー・アルバムを聴いて、野間君の天性の音楽性と、ここ数年間真摯に向き合ってきた北欧伝統音楽が豊かに結合し種子となり、発芽し、大地に根を張り、天に向かってぐんぐんと伸びてゆくような印象を受けた。公式ホームページもでき、今の彼が一番したい音楽、これから長く取り組んでゆきたい音楽が、地に足が着いた形で始まったのだと思う。野間君の新たな挑戦を心から応援したい。

新ユニット「ガンマルグラン」デビュー・アルバム

さて、「やがて樹になる – Spring in Serenity」について。gammal granとはノルウェー語で「古い松(トウヒ)」を意味する。ハーディングフェーレ、足踏みオルガンまたはピアノ、コントラバスによるトリオで、北欧伝統音楽のアレンジとオリジナル曲を演奏している。CDは9曲のうち2曲が伝承曲、残りが野間君のオリジナルだ。

曲の背景については詳しい解説がないため感想を割愛するが、アルバムを通じて受ける印象は光がキラキラと輝く清浄な世界観と、力強い北欧ダンス曲のリズム、瑞々しく希望と喜びに溢れた旋律だ。

ハーディングフェーレの残響、そしてオルガンの太くまっすぐな音色、それを下支えするウッドベースは絶妙の組み合わせだ。個人的には素のままのノルウェーの伝統音楽そのものは若干聴きにくく感じるのだが、伝統楽器を使っていることを忘れさせるほど聴き心地が良く、またそれぞれが溶け合っている。

3つの楽器がぞれぞれのパートを受け持ったり、変化したり、ユニゾンしたり、対話をするように音楽が紡がれるさまは聴くものを飽きさせず、それぞれの曲がしっかりとストーリーと結末をもって、アルバム全体が進行してゆく。

最後まで聴き終えたあとは、爽やかな印象を残してゆく。植物が命を輝かせる春の今にふさわしい音楽だ。

◆Gammal Gran「やがて樹になる – Spring in Serenity」は、こちらで送料・税込2,700円で販売中。

https://celtnofue.com/items/detail.html?id=940

◆Gammal Gran公式ホームページ

https://www.gammalgran.com/

ガンマルグラン CD発売記念コンサート

さて、私ごとだが、Gammal Granのアルバムリリース・ツアーにかかわらせていただくことになった。今週末の日曜日、兵庫県伊丹市にてhatao & namiとの対バン・コンサートである。namiさんも足踏みオルガンの演奏者であるので(今回はハープとピアノを演奏するが)、Gammal Granメンバーとの交流も楽しみだ。予約はまだ受付中。私達はケルト音楽に根ざしたオリジナル曲を演奏。ぜひ、それぞれの個性的な創作音楽を楽しんでいただきたい。

開催日時:2019年4月28日(日)13時30分開場、14:00開演
場所・会場:Always 伊丹店 伊丹市中央1丁目1ー2ー5 グランドハイツコーワB1
出演:Gammal Granガンマルグラン
   hatao & nami
料金:前売3000円、当日3500円

【Gammal Gran】
ノルウェーの伝統楽器ハーディングフェーレ(英名ハルダンゲルフィドル)、19世紀に活躍した足踏みオルガン、18世紀のコントラバス。古い木の楽器の響きを味わう3人によるインストバンド。

各々の個性が溶け合う美しい響きの中で、澄んだ空気と細やかな音たちの会話が心を踊らせる、過去と電大のハイブリットダンスミュージック。

Drakskipのリーダー&コンポーザーとして海外フェスからフジロックまでの活躍を導いた、北欧伝統音楽に精通するフィドル/作曲の野間友貴を中心に、中南米の音楽に精通し、国内外のジャンルを越えたアーティストから信頼を受ける鍵盤奏者の鈴木潤、コントラバス一本でポップスからジャズ、即興音楽にアートとのコラボレーションまで、ボーダーレスな感性を武器に活動を続ける岡田康孝、3名によって2017年結成。

公式サイト

野間友貴:ハルダンゲルフィドル(原語名:ハーディングフェーレ)
鈴木潤:足踏みオルガン、ピアノ
岡田康孝:コントラバス

【予約先】
こちらより件名を「4/28予約」として、お申し込みください

http://www.irishflute.info/contact.html