再びブズーキの話をしよう8(番外、フィドル編):field 洲崎一彦


出典 Irish PUB field

ライター:field 洲崎一彦

あのう、、すーさん、セッションでフィドルを弾くの、どうかと思うんですけど。。。と、申し訳なさそうにウチのスタッフさんが言うのです。

「ヘタするとお客さまのご迷惑になるのではないかとハラハラします」

これ、キョーレツですね。私はここの経営者なのですから、この指摘はヒジョーにキビシイ。

さすがの私も少し考え込んでしまいます笑。が、とりあえず、今セッションに来てくれる人達からは何も苦情っぽいことは言われていないし、この頃、界隈で名手と呼ばれ始めていたフィドルのIさんも、

「フィドル始めたんですか?おもしろいでしょ?フィドル」

と、励ましとも思えるお言葉をかけてくえる(誰ですか?それは皮肉だったのですよなんて言うの笑)。

だから、私は冒頭のスタッフさんにこう返事をしました。

「わかった。もし、私がセッションでフィドル弾き始めた時に、明らかに帰っていくようなお客さまがおられたら、教えてくれ」

微妙な話なのです。スタッフさんはたぶん、もっとちゃんと練習してからセッションに参加したらどうですか?というような意味のことを言いたかったのでしょう。が、私はセッションの場を練習の場だと見なしていました。というのは、ひとりでフィドルを練習しても満足に何も弾けないので、セッションに参加して弾けそうな部分だけ弾くというやり方をしていたのです。それなら、ひとりでCDを聴きながら練習すればいいとお思いの方もおられるでしょうが、これをやるとすぐに止まってしまってCDがどんどん先に行ってしまうので、一気にやる気をなくしてしまう。セッションでも同じだろうと思われるでしょうが、セッションでは何故かこの様な絶望感に落ち込むことが無い。これは何故なのか、今でもよく分からないのですが。

こんな調子で私はすっかりセッションにはフィドルだけを握りしめて挑むようになり、どんなにギーコギーコとやり続けても幸いなことにお帰りになるお客さまは現れなかった。いや、イヤだなあと思っても我慢してくれていたお客さまは大勢いらっしゃったかもしれないですね。その方々には本当にお詫びとお礼を申し上げます。

はじめは、どうにもあのツルツルの指板がやっかいだった。そりゃ、チューニングはします。でもそれで合うのは開放弦の音だけ。指を置けばもうチューニングの意味もなくなる。このあたりから、そのうちに、チューニングにも鈍感になり音程にも鈍感になる。これは、努めて鈍感になるのです。鈍感にならないと弾けないではないですか!

すると、だんだん分かって来たのが、弓の方が難しいぞ。これです。セッションで繰り出されるダンスチューンは総じてテンポが速い。なので初めはそのひとつひとつの音を押さえる左指と指板に気を取られるのです。が、私はメロディの音を全部弾かない(弾けない)スタイルなので、移り変わりが早いと細かい音は間引いてしまうようになるのですね。すると、間引くというのを適切にやろうと思うと今度は弓が思い通りに動かなくてはならないのです。

そうです。弓の持ち方もまわりの皆さんを見て真似するしかない。今から思えばこの頃の私は弓の根元の方を親指と中指でつまんで持っていました。これは弓の圧が弦に思うようにかけられない。つまり、弓の重さだけが押しつける力になります。しかしそれではなんか不自由。なので、一時私は弓の先に鉛を巻いて弓の先を重くしたりしていました笑。

また、弓の毛はフィドルの弦の同じ部分を行ったり来たりさせなければならない。駒に近づくとキーキー言うし、遠ざかると指板の上になってしまってガクッと音量が落ちる。これがめっちゃ大変。ちゃんと習っていないというか訓練していませんから、どうしても弓の動きは右肩を中心とした円の弧を描く。弦に直角に直線の往復運動にならないわけです。

じゃあ、歯を食いしばって練習をするのか? いや、、、しなかった笑。

私は、私はメロディの音を全部弾かない(弾けない)、つまり、連続した音を弾いているわけではないので、常に連続した往復運動をしなくてもええやん、と気づくのです。弾きたい音だけ弾くのだから往復運動も一気にするのはまあだいたい2回か3回か。というか、少なければ少ない方が気分が楽です。そこで、苦し紛れにやってしまった技がありました。ギターで言う所のプリングオン・オフ、ハンマーリングオン・オフなどと言う指技。ギターのようにフレットの打ってある指板でなくても出来るのか!ついクセで、反射でやってしまったら出来た!

これは、ギターで言うと左指を弦に引っかけたり打ちつけたりして、右手でその弦を弾かなくても音が出るというやつ。フィドルでもついギターの時の手癖でやってしまったら出来た。音が出た。これは、弓を動かす頻度のけっこうな節約になるぞ!と。

こんなことを、ああでもないこうでもないとやりながら、週2回のセッションが過ぎていくわけです。

そして、2年ほど経ったある日のセッション。あ。気がついたら1曲丸々弾いてた。。。私のフィドルはどこも途切れずに最後まで音を出していたのです。弓の場所はまだまだ不安定で押しつけ加減もばらばらなので音は相変わらずギコギコなのですが。また、たぶん、細かい音はすっ飛ばしていたのでしょうが途切れずに弾けた!

そして、そのうちに、こうして途切れずに弾ける曲が1曲、また1曲と増えていくのです。出ていた音はどんなだったか分かりません。が、弾いてる身になれば、途切れない!という感動の嵐ですね。特別に何か練習をしていたというのではありません。週2回のセッションに参加していただけです。それが、こういう具合になって行くのが面白くてしょうがない。

こうやって、最後までなんとか弾ける曲が増えていくと周りの音が一気に耳に飛び込んで来るようになります。そんな時に、私は元々自分の気に入ったフレーズ、あるいは弾けるフレーズしか弾いてなかったわけですから、それらのフレーズをつなぐ部分も弾けるようになったということになるのですが、気持ちの上でこの両者はどうしても比重が違います。1曲のメロディの中に大事な所と大事で無い所がくっきりと現れる。ここに周りの皆さんとのズレを感じるようになります。まわりの皆さんが、やけに律儀に1音1音しっかりと順番に音を出しているように聞こえる。これがすごく違和感を覚える感じになっていくのです。同時に、そうやって1音1音丁寧に弾けない自分という劣等感にもつながりますから、少々頭が混乱しました。

なので、少しは1音1音順番に弾く練習をしてみようとトライした事もあったのですが、これをやろうとすると止まってしまって弾けなくなってしまうのです。で、ちょっと気になって、バイオリンの初心者が最初にやるというのを聞いて「キラキラ星」を弾いてみようと思った。がーん。これが弾けない!いったい何が起こってたのか!アイリッシュチューンのreelやjigというようなリズムに乗ったもので無いと止まってしまうという現象。

スザキさんフィドル弾けるんですか?いや、アイリッシュ以外はドレミも弾けないねん〜みたいな事を面白がって発言していたわけですが、皆さんギャグだと思っておられたようなのですが、そのまま本当の話でした。

ほなまあこのままでええことにしようと、すぐに自分を甘やかす私の悪い所なのですが、今もキラキラ星は弾けません笑。

そんな流れで世の中はコロナ禍に突入しました。すぐに酒場は営業できなくなり、当パブも例外では無くまったく開けられなくなる。つまりセッションなんてもってのほか。私の週2回のフィドルを弾くペースが突然崩れるわけですね。こうなると、私はまったくフィドルを持つこともしなくなるという怠け者なのですね。

こんな時期に、ひとりの若いフィドラーと知り合うのですが、彼がことあるごとに私に伴奏してくれとしつこく言うてくる。内心、ええー? 今さらブズーキ弾けって言うの〜? てな感じで、ホコリをかぶっているブズーキケースを開けます。この若者が思いの他しつこくて、こういう事が何度も続く。

私としては、わかったわかった! そんならやったるわ! 泣いても知らんで! と、封印したはずのブズーキ・ハラヒレホソハラ奏法笑を何の遠慮もなく繰り出してやった! 

すると、この若者は面白い面白いと手を叩いて喜ぶ始末。なに? こんな伴奏イヤやないんか! 弾きにくいからイヤですけど、それよりも面白いじゃないですか!とか言いよる。

そのうちにコロナ禍もあけて、当パブも営業を再開し、セッションも週1回になったけど復活するわけです。すると、セッションでこの若者と肩を並べてフィドルを弾くという機会もやってくる。コロナで中断していたフィドルは、怖いもので手に持っただけで違和感がある。コロナ前に弾けてた曲もぜんぜん弾けない。うーん。やはり、週2回のあんないいかげんな取り組み方でも練習になってたんやなあと、練習嫌いの私は愕然とします。

が、ここは、せっかくセッションに戻って来たくれた人達もいるわけですから、涼しい顔をしてフィドルを弾かなければ格好がつかん。おまけに、隣にには前述のフィドラー君もいる。ちょっとは見栄も張らなければ面目丸つぶれになる。焦った!

そっからはもう力技ですね。以前は、あまり大きなギコギコ音で皆さんの邪魔をしてはいかんと思って控えめに塗っていた弓の松ヤニを思いっきり塗りたくる。好きなフレーズだけ思いっきりギコギコ弾いてやれ!と。

しめしめ、なんとなく誰からもにらまれずにセッションが進んで行くぞ。よしよし。このまま、何事もなくセッションが終われば、とりあえずは今日のところは助かったとしよう。などと、気を抜いた所で、隣のフィドラー君が運命の一言を放つのです。

「スザキさん、フィドルもブズーキと一緒ですね」

がーん!がーん!

1周回って振り出しに戻る、やん。。。。汗(す)