アイルランドとアメリカの緊密なつながりは、音楽的な逆流現象もおこしました。
アメリカの音楽はアイルランドに大きな影響を与えたのです。
この関わりをテーマにした、ヌーラ・オコーナー著『アイリッシュ・ソウルを求めて (the Roots o Rock)』によると、もともと伴奏をつける習慣のなかったアイルランド音楽に初めて和音による伴奏をつけるようになったのはアメリカなのだそうです。
20世紀初頭にアイルランド人コミュニティ向けに録音されたSPレコードで、当時ほかの音楽を伴奏していたピアノを伴奏に用い、より聴きやすい音楽に仕上げたのです。
また、アメリカで黒人音楽との融合から生まれたバンジョーや、ブルーグラス音楽では欠かせないマンドリンも、現在のアイルランド音楽では一般的な楽器になっています。
アメリカは多民族国家。
アイルランド音楽と同じくらい、あらゆる音楽が移民元の本国と同じくらい盛んに演奏されています。
アイルランド音楽に関しては、本国ではそれほど盛んでないのにアメリカで盛んな楽器としてハンマー・ダルシマーがあります。
ハンマー・ダルシマーと同類の楽器はヨーロッパ大陸はもちろん中国(揚琴)、インドやペルシャ(サントゥール)でも演奏されています。
アイルランド音楽ではほとんど見ることはありませんが、アメリカでは愛好家が多く、アイルランド音楽の演奏に用いられています。
マギー・サンソン Maggie Sansone、マルコム・ダルグリッシュ Malcolm Dalglish 、ケン・コロドナー Ken Kolodnerなどが有名です。
彼らは、アイルランド音楽だけに限定せず、アメリカのオールドタイム、イングランド音楽やフランス音楽など様々な伝統音楽を取り入れることが特徴です。
また、アメリカはフィドル音楽が非常に盛んで、ジャズ、ケイジャン、オールドタイム、ブルーグラスなどアメリカで発展した伝統音楽においてもフィドルが演奏されています。
そのため、ケルト系の音楽(アイルランド、スコットランドなど)をルーツにしながら、それらのアメリカの音楽や感性をもとに、伝統にとらわれない自由な発想で作曲し演奏するフィドル奏者が出てきています。
例えばフィドルのマーク・オコナー Mark O’Conner、ジェレミー・キッテル Jeremy Kittel、ハンネケ・カッセル Hanneke Cassel、バンジョーではアリソン・ブラウン Alison Brownが素晴らしい音楽を作っています。