ライター:松井ゆみ子
こどもの頃に聴いた歌が、ずっと忘れられずにいました。
呪文のような歌詞をいつのまにかまるごと覚え、こっそり口ずさんでいたものです。それがつい最近、ラジオから流れてきてびっくり。
ピーター、ポール&マリー(以下PPM)の「虹と共に消えた恋」。60年代に発表され日本でもヒットしていたのですね。シングル盤をリリースしたのは日本だけという記事を見かけました。興味深い。
この歌のオリジナルがアイルランドのトラディショナルソング“Siuil A Ruin”(シューラルン:中黒を入れづらいので割愛)だというのは最近知りました。似ているなぁとずっと思っていましたけど、PPMの呪文に似た歌詞がゲール語に聞こえなかったのですよね〜。
アイルランドにいるとゲール語を耳にする機会は少なくないので、まったくわからないなりにも「あ、ゲール語だ」と認識することは多少できるようになった気がしているのですが。PPMのは呪文にしか聞こえない、笑
ではここで、懐かしい「虹に消えた恋」を。
この曲をラジオで紹介していたのは、アイリッシュフルート奏者のMuireann Nic Amhlaoibh (ミュレーン・ニカウリー)。彼女のことは以前ここでも少し触れていますが、綴りもむずかしいけれど発音をカタカナにするのはさらに困難。今回またあらためて現地人に確認したらこうなったのですが。まちがっていたら教えてください。
彼女が番組で「ゲール語と英語の両方で歌われる伝統歌は珍しい」とコメントしていたのが気になって。macaronic言語とよばれるのも初めて知りましたし“Siuil A Ruin”がマカロニック民謡の代表格になっているのも新鮮な驚きでした。まだまだ知らないことだらけ。
“Siuil A Ruin”は19世紀から伝わるとされ、イギリス支配が強くなるなかでゲール語が衰退していったことを象徴しているようです。
歌詞が生まれた背景は明確でないものの、1798年にタラの丘で起きた戦いのあとに生まれた悲しい恋歌という説がしっくりきます。戦いに行った恋人を想う歌は、ラブソングであり反戦歌でもあると。この意思がアメリカに伝わり、静かな反戦歌を歌いつなぐPPMによって世界に広められたのですね。
彼らよりも少し前の世代、ピート・シーガーを中心に結成されたグループThe Weavers が発表したフォークソング“Buttermilk Hill”は“Siuil A Ruin”に酷似しています。ありがちなことですが、この歌は“Jonny has gone for a soldier”のタイトルでも知られていて、こちらはジェームス・テイラーが歌っているすてきなヴァージョンがあるので、まずはお聴きください。
そして聴き比べ。The Weavers の“Buttermilk Hill”を。
どれも戦いによる悲劇を静かに歌っている印象で、今まさに戦争が起きているなか、あらためてしみじみと聴き入ってしまいます。
そして今わたしがいちばん好きなヴァージョンの“Siuil A Ruin”。
ゲール語で歌うロックバンドSeo Linn (ショー・リン)は若手ですが、すでに10年選手。ゲール語のサマースクールで知り合った友人たちと結成し、英語曲でのヒットもありましたが、今はゲール語が中心の斬新なバンドです。
まずは彼らの“Siuil A Ruin”を。
こんな力強いヴァージョンは初めて聴きました。かっこいい!
スピーチはまるで史上のヒーロー、マイケル・コリンズ。
彼らからもまた、言葉がわからないなりに反戦のメッセージが伝わってくるのですが。
同じ歌が少しずつ形を変えながらも、共通したメッセージをこめて歌い継がれていくのが素晴らしい。海を越えて、世代も超えて。
最後に、たぶんいちばんオリジナルに近い形で歌っているエリザベス・クローニンのヴァージョンを。