ティン・ホイッスルが使われる南アフリカの「クウェラ音楽」


出典 https://blog.mcneelamusic.com/

アイルランドの楽器メーカーMcNeelaが公開しているブログの中から、ティン・ホイッスルが使われる南アフリカ共和国の伝統音楽「クウェラ」についての記事を許可を得て翻訳しました。

原文:Kwela: An Introduction to the Penny Whistle Music Tradition of South Africa

ティン・ホイッスルが使われる南アフリカの「クウェラ音楽」

ティン・ホイッスルはアイルランドの伝統音楽と強く結びついているが、この小さくも多用途な楽器が人気を博している音楽文化は、それだけではない。

クウェラは、1950年代に発展した南アフリカ共和国の伝統的なティン・ホイッスル音楽である。ジャズ的な要素を含んだ独特のビートが特徴で、その明るいメロディー、アップビートなリズム、活気に満ちたサウンドは、世界中で人気を博している。

そこで今日は、アイルランドのティン・ホイッスルの世界から少し離れて、このエキサイティングな南部アフリカの音楽伝統に触れてみよう。

クウェラはマラビMarabi音楽から強い影響を受けており、それはアフリカのリズムと融合したジャズに根ざした、南アフリカ音楽の初期のスタイルである。クウェラはまた、マラウイ移民の音楽にも強い影響を受け、土地の音楽と組み合わされた。

やがて、この新しいアフリカン・ジャズのスタイルは、独自のジャンルへと進化し、ジンバブエ、ザンビア、マラウィへと広がり、アフリカだけでなく、世界中で人気を博している。

クウェラとは?

クウェラの音楽は主に、人々が酒を飲み、踊り、社交する地元のシービーンshebeen(闇酒場)で演奏されていた。クウェラという言葉はズールー語とコーサ語が語源で、直訳すると「登る」「乗る」「上げる」「乗り込む」という意味になる。

この言葉は地元の警察のバンに「乗る」という意味でもあり、口語では「クウェラ・クウェラ」と呼ばれていた。地元のバスキング・ミュージシャンたちは警察の嫌がらせに遭い、アパルトヘイト法の下でしばしば逮捕される危険にさらされていた。そのため、彼らはこの「クウェラ・クウェラ」をよく知っていたのだ。

以下のビデオで、ビッグ・ヴォイス・ジャック・ジュニア(史上最高のクウェラ・ティン・ホイッスル奏者の息子)が、この言葉の語源と意味について語っているのをご覧いただきたい。

1960年代後半になると、クウェラはムバッカンガmbaqangaという新しい都市型音楽によって影が薄くなった。しかし、近年、ワールド・ミュージックへの関心が高まり、クウェラは再び注目を集めている。

クウェラ音楽の特徴

アパルトヘイト、貧困、苦難を背景に発展した音楽であるにもかかわらず、クウェラ音楽は実に陽気である。

典型的なクウェラバンドは、2本以上のティン・ホイッスルにギター、ベース、ドラムを加えた編成である。サックスもこのラインナップの一部として人気の楽器となった。

典型的なクウェラ音楽は、繰り返しのコード進行(ベースとギターで演奏される標準的なI-IV-V-IまたはI-I-V7コード進行)と、その上でティン・ホイッスル数本が奏でるメロディラインから構成される。そして、ソロのティン・ホイッスル奏者がメロディーを即興で演奏する。

クウェラの音楽的特徴は以下の通り。

  • ティン・ホイッスルのメロディー
  • ギターの伴奏
  • シンプルなパーカッションではなく、フルドラムキット
  • スキッフルのようなリズム
  • アップビートなテンポとメロディ
  • 豊かな音楽的テクスチャー

下のビデオでビッグ・ヴォイス・ジャック・レロルBig Voice Jack Leroleの「ザ・ジャーニー」を聴いてみると、これらの特徴がよくわかるだろう。この曲は、2本の笛のハーモニーで始まり、主旋律のモチーフを確立し、その後、リズミカルなギター演奏、ベース、ドラムがバンドに加わる。

なぜティン・ホイッスルなのか?

なぜ、楽器としては地味なティン・ホイッスルが、この新しい音楽スタイルで脚光を浴びるようになったのか、不思議に思うかもしれない。

答えは簡単だ。この軽量の楽器は、手頃な価格で容易に入手でき、携帯が容易であった。そのため、クウェラ・ジャズ・スタイルの楽器として選ばれるようになったのだ。ティン・ホイッスルは明るく澄んだ音色と2オクターブの音域があり、ソロやアンサンブルに適している。

南アフリカの北部には古くから伝統的な笛があり、ミュージシャンはすぐにティン・ホイッスルに慣れ、マラビの影響を受けた新しいクウェラ・ミュージックに南アフリカの伝統的な民謡を取り入れることができた。

クウェラの人気ティン・ホイッスル奏者たち

クウェラが西洋の音楽家の目に留まると、多くのクウェラ笛奏者が南アフリカだけでなく近隣のアフリカ諸国でも名声を得るようになった。

彼らは、ティン・ホイッスルの音色とアフリカン・テイストを見事に融合させたユニークな音楽で名を馳せた。このシンプルな楽器に驚くほどの演奏技術と器用さを発揮しながら、生き生きとした新しい音を生み出し、エキサイティングな高みへと導いていったのだ。

最も人気があり、多くの演奏者を輩出したのは以下の通りだ。

西洋音楽におけるクウェラの影響

クウェラ・ミュージックは、長年にわたり欧米のミュージシャンの注目を集め、クウェラにインスパイアされた独自のレコーディングを発表してきた。その代表的なものが、1962年にバート・ケンプファート・オーケストラBert Kaempfert Orchestraが発表した「A Swingin’ Safari」と、1986年にポール・サイモンPaul Simonが発表した「Graceland」である。

Swingin’ Safariはティン・ホイッスルの音を(ただし、Bert Kaempfertはホイッスルをアレンジに取り入れるのではなく、この音をピッコロで再現した)、Gracelandはスキッフルを象徴するギター伴奏を特徴としている。

伝説的なビッグ・ヴォイス・ジャック・レロルBig Voice Jack Leroleは、スウィンギング・サファリをよりオーセンティックなサウンドに戻し、クウェラにインスパイアされたオリジナルのルーツとした独自のバージョンを録音している。