ライター:松井ゆみ子
アイルランドでしか観られない、素晴らしいコンサートに行きました。
ギター&フィドルのシェイミー・オダウドのお父さんで著名フィドラーだったジョー・オダウドを偲んでのイベントで、ゆかりのあるミュージシャンが次々と登場。シェイミーの息子や娘たちをはじめ、ジョー・オダウドと演奏したことのあるフルート奏者やアコーディオン奏者たちが代わる代わるエピソードを語り、チューンを演奏していく和やかな構成。スライゴースタイル炸裂の素晴らしい演奏を堪能しました。
会場はスライゴータウンにあるHawk’s well theater、こじんまりしたホールですがラインアップが充実していて期待を裏切ることがありません。 この日の出演者で今やスライゴーフィドラーの代表格のひとりのフィリップ・ダフィは、まだこどもの時分にジョーの率いるセシューン会に参加したことがあると話し始めました。天井から裸電球が垂れ下がる薄暗い部屋で、ミュージシャンたちがその電球を囲んで演奏するシーンがあまりにシュールで衝撃だったそう。
ジョーはアメリカで暮らした時期もあり、海の向こうでも地元でも、多くのミュージシャンたちに影響を与えてきたことがコンサートを通じて実感できます。
終演後も会場のホールで延々とセシューンが続いていたはずで、ちょっと後ろ髪引かれたのですが、余韻を楽しみながら家路に着きました。
このコンサートのちょうどひと月後、わがクリフォニー・ヴィレッジでもすてきなイベントが開催されました。
拙著「アイリッシュネスへの扉」にも書いたのですが、イギリス首相をつとめたパーマーズトン子爵の定宿が今はパブになっていて、今のオーナーになる以前から伝統音楽の拠点でした。90年代にはクリフォニーにまつわる伝説的な神父オフラナガンの名前をつけたCCE支部になっていたのだそう。
残念ながらフェイドアウトしてしまったのは、ミュージシャンたちの高齢化も一因だったのでしょう。
同パブ、オドネルズは新オーナーになり、彼の念願でもあったセシューン会が実現。今後定期的に開催されるそうで、ようやくクリフォニーにまた音楽が戻ってきました。スライゴーミュージックといえばマイケル・コールマンで有名なSouth Sligoが取り上げられますが、ここNorth Sligoも忘れてもらっては困るのです。
ここはカウンティドニゴールとの県境でもあり、この日はドニゴール・フィドラーのパディ・マクメナミンPaddy McMenaminが参加。ロックンロールというかパンクというか、さすがドニゴール。今まで聴いたこともない圧倒的な演奏ですっかり大ファンに。詩人のシェイマス・ヒーニーを思わせる風貌もかっこいいです。チューニングが少し狂ってるのは楽器のせいなのかわざとなのか、そんなことも含めてすべてかっこいい。でもリズムはちゃんとドニゴール。
シニアミュージシャンが中心の演奏会で、リユニオンが大きな目的だったようですが、先輩たちの演奏を聴く貴重な機会になりました。
ビギナーもいるセシューンかなとフィドルを持って行ったのですが、混ざる余地なし・苦笑。不思議なのは、さほど速いと感じないテンポなのに、いざ弾いてみようとトライすると歯がたたない。
一緒に来ていた先輩パン職人のアンはホイッスルを持参。でも同じように「チューンを知っているし吹けるのに混ざれない」とぼやいていました(笑)。
きっとみんな、こんな風にほぞを噛みながら成長していくのね。
わたしは何よりまた楽器を手にとれたことが嬉しい。練習というか家でひとりで弾く時間も楽しいし、新しいチューンも覚えたい。ベテランたちのセシューンに混ざれなくても、身の丈にあった場所で加われたら幸せ。
ここクリフォニーのヴィレッジには歴史がつまっています。どこの地もそうなのでしょうけれど、それでもここはちょっと特別。今までは書物で得てきた知識ですが、この日は生き証人たちの話や演奏によって、さらにヴィレッジの中身を知ることができました。まだまだパッチワークの状態ですが。
会が終わったあと暖炉のかたわらで、新オーナー(セッション仲間)とマークと3人でおしゃべり。彼が描く構想は、わたしがこのヴィレッジにあったらいいなぁというパブの形でこれからが楽しみ。
そんなこんなで夜更けに帰宅して、はっ!と気づきました。フィドル忘れてきた……。こどもを置き去りにした親の気分。まだまだ先は長いようです。
パディ・マクメナミンの演奏をぜひ。
アルタンのマレードと演奏している映像も見つけました。彼女がかなり前のめりでパディの演奏に合わせているのがかっこよかったのですけど、あえてこちらを。薄っくらいパブでの映像ですが、彼の特異さが伝わるかと。