思い出のライブについて語る1 Liffy Banks Trio

ライター:hatao

最近、映画「タイタニック」が25周年でリメイクされてちょっと話題になっているようですね。私は演奏会でホイッスルの紹介をする時に、「あのタイタニックの」と枕詞をつけることが多いのですが、大学生などの若い方は生まれる前だったりします。リヴァイバルであと数年使い続けられたらよいのですが。

メルマガがオールドメディアと揶揄されZ世代に冷笑されるのを横目に、今月の原稿ではそんなZ世代が悔しがりそうな、2000年代ころの思い出に残ったライブについて書いてみます。あの頃、ほんと良いミュージシャンがよく来日していました。

今回は2003年のリフィー・バンクス・トリオの来日コンサートです。Liffey Banks Trioとは、ダブリン市内を流れる河川のリフィー側の土手のトリオということなんでしょう。

メンバーはHarry Bradley(fl)、Tara Diamond(fl) 、Paul O’ Shaughnessy(fd)です。それぞれ名人プレーヤーですが、このメンバー同士での録音は私が知る限りないはずです。うち二人は北アイルランド出身(ハリーはベルファスト出身でタラはダウン出身)、ポールはダブリン出身と出身地域はばらばらですが、おそらくFrankie Kennedy Winter Schoolで講師をしていた間柄で、当時よくケネディスクールに通っていたKさんがオーガナイズして来日公演がまとまったのではないかと記憶しています。

Googleって古い情報は検索しても出てこなくなるのですね。全くネット上に記録が残っていないということはないのだと思いますが。なにしろ20年前の情報がヒットしても多くの人にはノイズになるからなのでしょう。大阪のバナナホールだか、どこだったか、とにかくホールでコンサートした時の録音をKさんから頂きまして、最近聴き直す機会がありました。

ハリーとポールは北部の音楽ということで尖ったノリの強烈なビートの音楽ですが、一方でタラの演奏はむしろクレア寄りのリラックスした音楽で、同じアイルランド音楽とは言えどレパートリーもリズムもテンポも違うこの3人でライブを成立させるのは、なかなか大変だったかと思います(どうしてもタラが2人に合わせる感じになります)。

その中でソロで曲を披露するシーンがあり、タラのソロの番でうっかり曲を忘れてしまうのです。“I burried my wife and danced on the top of her”という凄いタイトルのジグなのですが、よく似た曲があってそちらばかり出てきて、舞台上でかなり慌てます。緊迫した空気になり周りが助け舟を出したいところですが、タラがその曲で使おうとしていたのはC管のフルート。キーが合いません。それで曲を変えて演奏するのですが、これがまた良いのです。災い転じて福となす、です。

その後もアイルランドで3人揃って活動している様子は聞こえないのですが、せめてハリーとポールでアルバムを作ってくれていたらと思ったりもしました。

最後に、このライブでノリが異なる3人の「糊」の役割を果たしていたのはブズーキの赤澤淳さんです。ぴったり寄り添った絶妙な伴奏のおかげで音楽に統一感と方向性が生まれていました。いや、一番すごかったのは彼かもしれませんね。