ライター:松井ゆみ子
スライゴー・ミュージシャンのレジェンドたちが集結する素晴らしいコンサートを見てきました。ここに引っ越してきてよかった!と心底思う瞬間。
イルン(イーリアン)・パイプスの名手レナード・バリーはケリー北部出身ですが、ロンドンやキルケニー、ダブリンなどを経由して現在はスライゴー在住。新作アルバム「Littoral(沿岸)」をリリースしたばかり。
プロデューサーは長年の音楽仲間、フルート奏者のマイケル・マクゴールドリック。マンチェスター出身ですが、しばしばアイルランドを訪れていて、レナードは彼と一緒にフラーやウィリークランシーサマースクール時のミルタウンマルベイを訪れていたそう。Capercaillie ( 日本ではカパケリーですが、ここではケーパケリー)やUsher’s Island (ウッシャーズ・アイランド)に在籍していたことで日本でもご存知の方は多いと思います。
コンサートにはマイケルの他、アルバムにも参加しているアンディ・モロウ(フィドル)、おなじみのシェイミー・オダウド(ギター&ブズーキ)。
アンディとシェイミーはレナードの前作「New Road 」以来の、いわば固定メンバー。バンドとしてのNew Roadにはハーモニカ&コンサーティーナのリック・エッピンが加わります。こういうフレキシビリティがアイルランド流。
スライゴーのコンサートはゲストにダーヴィッシュのメンバー、マイケル・ホルムス(ブズーキ)とNo Crowsのアナ・ヒューストン(チェロ)が加わって総勢6名の豪華メンバー。
アルバム「Littoral」は最初、地味な印象だったのですが、繰り返し聴くたびにじわじわと良さが伝わってくる聴き応えのある作品です。
上質なセッションをつめこんだアルバムで「ああ、これは実際に演奏するライブを見なくちゃ」と思わずにはいられない、そんなアルバム。
ここで、レナードをご紹介するための映像をひとつ。
スライゴータウンの名物パブ、シュート・ザ・クロウにて。
エレガントでしょう? 速いチューンもありますけれど「どうだ!」と挑むような感じではなく、どこか優雅なんですよね。フィドルはスライゴースタイルを継承するデクラン・ファロン、ギターはレナードと二人三脚の多いシェーン・マッガワン。シェイミー・オダウドにバトンタッチされるのは、ライヴで歌が必要とされるとき。かな?
Usher’s Islandにはアンディ・アーヴァインがいるし、レナードもクセの強いシンガー、リサ・オニールやデリー・ファレル(大島豊先生絶賛!)との共演経験を素晴らしかったとコメントしていて、ふたりとも歌にこだわっている印象。
そして4月26日、スライゴーのすてきな会場Hawk’s Wellでのコンサートの話に戻します。
ステージの顔ぶれは先に書きましたけれど、客席の半分とまでは言わないにせよ、顔見知りの多さにびっくり・笑
名店Lyon’s Cafe (ライオンズ・カフェ)のシェフに「音楽好きだったの知らなかった!」と声をかけたら「レナード、顔なじみだし」って。そうよね、この町でごはん食べるならLyon’sがいちばんだもんね。
陶芸教室の先生&ハードロックバンドのギタリストは、いちばん前の席にいた。バーで顔合わせたら「きみの作品はまだ窯に入れてないからね」って、ここで言わんでも。
わたしの下手くそフィドルを仲間に入れてくれる親切なセッション仲間たちもたくさん。
著名ミュージシャンたちも多く見かけました。豪勢な顔ぶれなのに、どこか町内会的な親しさとあたたかさ。そこで繰り広げられる演奏の素晴らしさといったら!
レナードがイルンパイプスを演奏し始めたのは15歳あたりで、比較的遅いスタートだったと聞きます。ティン・ホイッスルの経験はあったそうで、そこは要かな。
おじさんがくれたウォークマンにボシーバンドのカセットテープが入っていて、そこで初めてイルンパイプスで演奏されている”The Pipe in the Hob”を聞いて、パイプスを始めるに至ったのだそう。
今回のツアーでウエストポートの会場マット・モロイズで、ケヴィン・バークとマット・モロイのふたりを見つけて「ほとんどシュールだった」とコメントしていましたけど、すてきだよね。それこそが「トラッド=受け継がれていくもの」だと思う。