出典 Brent and Amanda I, CC BY-SA 2.0
アイルランドの楽器メーカーMcNeelaが公開しているブログの中から、「ヴァイオリン(フィドル)の弓」について解説している記事を許可を得て翻訳しました。
原文:Everything You Need To Know About the Violin Bow
ヴァイオリンの弓について知っておくべきこと
ヴァイオリンの弓を選ぶことは、ヴァイオリン本体を選ぶことと同じく、初心者をひるませる作業と言えます。初心者にとっては「ただのヴァイオリンの弓」に見えるかもしれませんが、経験豊富なヴァイオリンやフィドルの奏者にとって、理想的な弓を見つけることは非常に重要な課題です。良いヴァイオリンには、それに見合う良い弓が欠かせません。
初心者で技術がまだ発展途上の方の場合、弓に対して大きな要求をすることは少ないかもしれません。この場合、次のレベルに進むためのサポートをしてくれる弓が最適と言えるでしょう。しかし、技術が向上するにつれて、弓に対する要求も高まっていきます。
それでは、ヴァイオリンの弓を選ぶ際にどのような点に注目すべきなのでしょうか?この記事を読み進めていただければ、最適な弓を選ぶためのすべての知識をお伝えいたします。
高品質な弓の特徴や、選択を左右する要素について学んでいただけます。また、後悔のない購入をするために注意すべきポイントについても解説いたします。
クラシックのヴァイオリン奏者であれ、伝統的なアイリッシュ音楽を演奏する方であれ、この文章を読み終えるころには、間違いなく弓選びのエキスパートになれることをお約束いたします。
理想的なヴァイオリンの弓を探すために
初心者の段階を超えた方にとって、弓を選ぶことはヴァイオリンやフィドルを選ぶこととは別の重要な作業となります。
まずは、弓の構造や各部分について知ることが大切です。この点については、「ヴァイオリンの構造ガイド」で詳しく学ぶことができます。
良い弓は、右手の延長のように感じられるべきものです。理想的な弓は、演奏スタイル、技術、そして個人の好みによって異なります。弓の音に影響を与える要素には、強度、形状、重量、柔軟性などが含まれます。これらの多くは、弓を構成する素材によって決まります。
出典 https://blog.mcneelamusic.com/
ヴァイオリンの弓は何で作られているのか
ヴァイオリンの弓は伝統的に木材で作られていますが、近年では合成素材が使われることも増えています。一般的に使用される主な素材は、ブラジルウッド、ペルナンブコPernambuco、カーボンファイバー、グラスファイバーの4種類です。
天然素材
ブラジルウッドは、パウブラジリアPaubrasiliaという木の軽く密度の低い外側部分(辺材)から採れる木材の総称です。これは、安価なブラジル産木材全般を指すこともあります。同じパウブラジリアの木から採れるペルナンブコも混同されがちですが、こちらは木の成長が遅く、密度が高い心材部分を指します。
ブラジルウッドは比較的安価で、主に初心者用の弓に使用されます。一方、ペルナンブコはヴァイオリンの弓用素材として最高峰とされ、強度がありながら軽量で、ヴァイオリン演奏に必要な幅広い動きを可能にします。ブラジルウッドはペルナンブコほどの硬さや反応性を持っていません。また、パウブラジリアの木は森林伐採によって絶滅の危機に瀕しており、供給が限られているのが現状です。
合成素材
カーボンファイバーは近年、弓作りにおいて人気が高まっている素材です。多くのヴァイオリン奏者やフィドル奏者がこの素材の弓を絶賛しています。ここでは「木材 vs カーボンファイバー」の熱い議論には触れませんが、カーボンファイバーの弓は、より安価でありながら音質を損なうことがありません。信じられない方は、ぜひ自分の耳で確かめてみてください。
カーボンファイバーの弓は、通常、木製の弓よりも頑丈で耐久性があります。また、カーボンファイバーは有機素材のように反りにくく、温度や湿度の変化にもほとんど影響を受けないという利点もあります。
もう一つの合成素材として、安価な弓に使われることが多いのがグラスファイバーです。この素材で作られた弓は、カーボンファイバーやペルナンブコ製の弓よりも品質がかなり劣りますが、耐久性はあります。このタイプの弓は、基本的に初心者や学生向けとして適しています。
弓の毛
ヴァイオリンの弓は伝統的に馬の毛を使用して作られていますが、近年では合成毛が使われることも増えています。それぞれに利点と欠点があります。
馬毛の利点
- 高品質の弓製作者が長年にわたり使用してきた素材で、優れた音を生み出します。
- 優れた音質を得やすいです。合成毛では、高品質のものでなければ天然毛と同じダイナミックレンジや深みのある音色を出すのは難しいです。
- 馬毛は一般的に反応性が高く、合成毛より広いダイナミックレンジを提供します。
馬毛の欠点
- 湿度など環境の変化に反応しやすく、毛が縮んだり伸びたりします。そのため、弓の毛を頻繁に緩めたり締めたりする必要があります。
- 馬毛は特に古くなると簡単に切れやすくなります。これは有機素材であるためです。
合成毛の利点
- 湿度の影響を受けず、天候に関係なく毛の長さが一定に保たれます。
- 非常に耐久性があり、切れたり摩耗するリスクがほとんどありません。
合成毛の欠点
- 馬毛に比べてはるかに多くのロジン(松脂)を必要とします。
- 多くの種類は馬毛の弓ほどの共鳴性や反応性、使用感を提供できません。ただし、新しい素材が開発され続けているため、この点は改善されつつあります。
出典 https://blog.mcneelamusic.com/
ロジン
フィドルの弦が弓で音を出すためには、弓の毛にロジンを塗る必要があります。ヴァイオリン用のロジンは粘着性があり、弓の毛が弦をしっかりつかむのを助けます。この効果により摩擦が増し、弓が弦に触れたときに出る音が良くなります。
ですから、どの素材の弓を選ぶにせよ、最高の音を引き出すためには、高品質なヴァイオリン用ロジンを忘れずにご用意ください。
重さとバランス
ヴァイオリンの弓の平均的な重さは約60グラムです。ただし、この重さよりわずかに軽いまたは重い弓でも美しい演奏が可能です。重さよりも、適切なバランスの方がはるかに重要です。弓を手に持って「しっくりくる」と感じられるなら、それがあなたに合った弓である可能性が高いです。
重さを確認するには、弓を45度の角度で持ち上げてみてください。その時の感触はどうでしょうか?
良い弓は手に自然に馴染み、毛箱(フロッグ)から先端までバランスが良く均等な重さを感じられるものです。また、弦に吸い付くような感覚が最初から最後まで続くべきです。
弓の重さとバランスは、弓ごとに独自の特徴を持っています。軽い弓は特定の弓使いがしやすく、重い弓はより大きな音を生むことができます。
形状
ヴァイオリンの弓のスティック部分は、伝統的に「丸形」と「八角形」の2つの形状があります。主な違いは、八角形のスティックの方が硬く、丸形の弓の方が柔軟性がある点です。
一部のバイオリニストや製作者の中には、「丸形の弓の方がよりコントロールしやすい」と主張する人もいますが、最終的には個人の好みによるところが大きいです。
弓の硬さが音色や音の質にどのような影響を与えるのか、引き続きご説明します。
柔軟性
柔軟性とは、弓が張力に対してどのように反応するかを測る指標です。弓を締めたときにも、ある程度のしなりが残っているべきです。また、演奏中に少し跳ねる感覚があると、さまざまな発音法や装飾音が演奏しやすくなります。
弓が硬すぎるとコントロールが難しく感じられる場合があります。一方、柔らかすぎる弓はぐらつきやすく、ヴァイオリンで豊かな音を奏でることが難しくなります。
ご自身の演奏スタイルや技術に合った、適切なバランスを持つ弓を見つけることが重要です。
音
ヴァイオリンを始めたばかりの方は、弓によって楽器の音が異なることに驚くことがよくあります。
柔軟性の高い弓は、通常、滑らかで豊かな音を生み出します。ただし、スティックが柔らかすぎる場合、音がぼやけて輪郭が不明瞭になることがあります。
一方、硬い弓は、より明るくクリアな音を奏でる傾向があります。しかし、硬すぎる弓は時に荒々しく尖った音を出してしまうことがありますので注意が必要です。
理想的には、滑らかで広がりのある音と、明瞭さや素早い反応を兼ね備えた弓を選ぶのが良いでしょう。
また、弓とヴァイオリンの相性も重要です。異なる弓は、それぞれのヴァイオリンに異なる反応を示しますので、ご自身の楽器に最適な音を奏で、演奏スタイルを引き立てる弓を探しましょう。
さらに、演奏する音楽のスタイルによって、求める音色が変わる場合もあります。例えば、アイリッシュ音楽では、ゆったりとした曲では豊かで表現力のある音色を、速い曲では明るくクリアな音色を出せる弓が好まれることが多いです。
出典 https://blog.mcneelamusic.com/
注意すべきポイント
ヴァイオリンを購入する際と同様に、フィドルやヴァイオリンの弓を購入する際にも注意すべきいくつかのポイントがあります。これらの「赤信号」を見逃さないことで、購入時の落とし穴を回避することができます。
弓の毛が緩く、ネジがスムーズに回るべきです。毛が長すぎないかを確認することも重要です。過度な締め付けや経年劣化によって、毛が伸びてしまうことがあります。確認方法としては、弓を完全に緩めた状態にしてみてください。もし毛がハンモックのようにたるんでいる場合、それは長すぎる状態です。
特に木製の弓の場合、スティックにひび割れや損傷がないか確認してください。過度に締め付けられた馬毛は、木製の弓を歪めたり、最悪の場合は破損させることがあります。
弓自体が完全に直線であることも重要です。つまり、フロッグ(毛箱)と先端が一直線に並んでいるべきです。しかしながら、弓は反り(弧)を保っていなければなりません。弓を手に持ち、スティック部分を前に向けて覗いてみてください。もし弓が片側に曲がっていたり、木が歪んでいる場合は避けた方が無難です。これらの問題は、メンテナンスが不十分な木製の弓で起こりやすいです。
どの弓が自分に合っているのか?
楽器の購入や長期的な投資をする際には、じっくりと比較検討することをおすすめします。信頼できる経験豊富なメーカーから、高品質な弓が数多く提供されています。
当店のオンラインストアでは、推奨するヴァイオリンやフィドル用の弓を多数取り揃えております。McNeela Instrumentsでは、すべてのレベルの演奏者に適した弓を提供しており、特に伝統的なアイリッシュ音楽を演奏するのに最適です。
初心者の方には、当店のMcNeela Hexagonal BowまたはMcNeela Black Carbon Fibre Bowをおすすめしています。これらはさまざまなサイズでご用意していますので、どなたにもお使いいただけます。
中級者の方には、Premium Carbon Fibre Bowがおすすめです。この弓には美しいスネークウッド製のフロッグと真珠貝のインレイが施されており、美しい音色を奏でることができます。
上級者で、演奏への価値ある投資をお考えの方には、最高級のJ.P Bernard Silver Mounted Bowを強くおすすめします。この優美な弓は、最高品質の素材で作られており、スティックにはペルナンブコ材が使用され、エボニー製のフロッグとシルバーの巻き線が施されています。