【疑問解決!】ファイフとピッコロの違いを笛職人のモルノーさんに聞いてみた。

当店でも人気のアイリッシュ・ピッコロ。アイリッシュ・フルートより1オクターブ高く、ティン・ホイッスルと同じ運指で演奏ができ、大きな音量と表現力を持つ横笛です。実はこの笛、メーカーであるジョセフ・モルノーさんはファイフとして販売しています。

ファイフとは鼓笛隊が演奏している横笛。ではファイフとピッコロの違いとは何でしょうか? 内径のデザイン? ピッチ? 長年の疑問に、モルノーさんが歴史的な経緯をまじえて解説してくれました。 (翻訳:hatao)

hatao:
アメリカの鼓笛隊の文化についてのメッセージ、大変興味深く拝見しました。アメリカの伝統について、お客様に知っていただくために、翻訳してブログに掲載したいと思います。

シンプルな質問ですが、ピッコロとファイフはどのように定義されているのでしょうか? 御社でもお客様から同じような質問をたくさん受けたことがあると思います。ピッコロはフルートが短くなったものだと一般的に認識されています。しかし御社のホームページで、David Munrow氏が、フルートとピッコロは別の出自であり、ピッコロの直接の前身はファイフであると指摘している文章を読みました。

※こちら
https://musiquemorneaux.com/contemporary-fifes/

先代のスウィートハートではD管の高音楽器としてピッコロとファイフとを販売していましたが、私が知る限り、彼はピッコロは円錐形のボアであるのに対し、ファイフは円筒形のボアであると定義していたようです。
また、CないしD管の短い楽器がピッコロで、Bb管がファイフであるという言説も見かけたことがあります。

御社では「ピッコロ」は販売していませんが、御社のファイフは円錐管を採用しています。D管で円筒形のボアのファイフは作らないのですか? これらの混乱について整理していただけませんか?

モルノーさん:
まずはファイフの成り立ちについてお話しましょう。

ヨーロッパの「中世」と呼ばれる時代、横笛は音色が弱く、さらにオクターブ間のイントネーション(音程)も悪く、あまり良いものではありませんでした。そのためルネッサンス期には、「フラウト・ドルチェ」と呼ばれるリコーダーが好まれました(現代では「ルネサンス・リコーダー」と呼ばれるものです)。当時のリコーダーは円錐管のボアが生み出す強い音色を備え、職人によりイントネーションが改善されました。

しかし、14世紀から15世紀にかけていくつかの戦争でドイツやスイスが活躍すると、ヨーロッパの国々はドイツやスイスから傭兵を雇うようになりました。これらの傭兵はランツクネヒトLandsknechteと呼ばれました。

ランツクネヒトは派手な服装を好み、当時、最も効果的で献身的な戦闘員として知られていました。 現在でもスイス人傭兵はバチカンの教皇庁衛兵として残っていますが、それを除いて傭兵は16世紀後半には衰退しました(ただし、18世紀にはイギリスがヘッセンHessianと呼ばれる傭兵を使用しました)。

ランツクネヒトは、雇われた王国のために行進するとき、ファイフ(短い横笛)と太鼓を持って行進しました。こうしてヨーロッパではドイツらしいものごと(スイス人はドイツ語の亜種を話すため、しばしば単にドイツ人ともみなされた)が流行し、上流階級の女性はランツクネヒトの軍服を模倣した服装を採用しはじめました。また、彼らを雇った国々はランツクネヒトの武器や戦闘方法を採用し、その一環としてファイフやドラムを使用するようになりました。

こうして突然に横笛が流行し、リコーダーの影が薄くなり、フルート職人がフルートを改良し始めると、リコーダー職人も流行に遅れないようにしようとしました。リコーダー製作者は、リコーダーのくちばしにかぶせるキャップを作り、側面に穴を開けて、演奏者が直接吹き込むようにしました。フルートのように横から吹くのではありません。このリコーダーは横にかまえて「ドイツ式に」演奏されました。現在ではほとんど見かけなくなったこのキャップ付きのリコーダーは、”Dolzflöte “と名付けられました。(訳者注:実際にはリコーダーの発音方式を採用していますが、横笛のフリをしてかっこよく見せたということですね)

いずれにせよ、横笛は「ジャーマン・フルート(ドイツの笛)」と呼ばれるようになり、19世紀初めになってもその名称がまだ使われていました。半音階的な演奏を容易にするためにキーが追加されましたが、これはイントネーションを改善するためにも用いられました。そしてついに、17世紀までにフルートに円錐形の内径が導入されました。

一方でファイフは、フルートの人気の火付け役となったにもかかわらず、相変わらず、けたたましい楽器のままでした。軍隊や民俗音楽では、変化は非常にゆっくりで、時には変化が受け入れられないこともあります。

「クラシック」と呼ばれるようになった芸術音楽の世界では、ジャーマン・フルートには多くの変化と改良がなされました。フルートの改良が進むにつれ、やがてファイフも「芸術音楽」の世界で改良され始め、フルートの上のデスカントや高音域用として合奏されるようになりました。

こうした高音の横笛はイタリア語でピッコロ・フラウト“piccolo flauto”つまり「小さな笛」として知られるようになり、やがて単にピッコロpiccoloと呼ばれるようになりました。これに対して14世紀から16世紀にかけてのファイフは、やや長めの楽器でした。


出典 https://www.frick.org/exhibitions/past/1968/sixteenth

フルートとファイフの違いについてお話しましょう。フルートは低音域を強調するために内径が広くなっていますが、ファイフは内径が小さく作られています。そのため、第1音域やオクターブは非常に貧弱ですが、第2、第3オクターブが強調され、甲高い音が強烈になる効果がありました。パレードや式典では、フルートとファイフが組み合わされることもあり、例えば高音域のG、アルトのD、テナーのGというコンソート(合奏)を見ることもありますが、これは標準的なものではありません。

フランスやオランダの多くの絵画には、長めのファイフが描かれています。多くの美術書では、このシーンではフルートが演奏されているとされています。しかしこれはG管のような低い音程であるものの、非常に狭いボア(内径)であるためフルートではなく、ファイフなのです。

18世紀には、ほとんどの軍楽隊が、儀式用の低い音程のファイフと、野営や戦闘中の任務用の高い音程のファイフの2本を携帯していました。もうひとつの現象は、17世紀にはファイフが短く作られるようになり、音程が高くなりました。

18世紀になると、アイルランド、スコットランド、イングランド、アメリカなどのイギリス関係国では一般的にC管のファイフが使われ(当時は標準的なピッチがなかったので、正確なピッチはかなり異なりますが)、フランス、ドイツ、スイス、スペインなどの国々では、D管、時にはD♯管のファイフが一般的でした。

今日、ヨーロッパでは軍用や民俗用のファイフやピッコロはD#が主流です。スイスのバーゼルBasel市では、ファスナハトFasnacht(スイス最大の祭典)で演奏するファイフはシンプルなキー付きピッコロですが、19世紀のある時期まではキーなしのファイフが使われていました。

スカンジナビア諸国やロシア(とプロイセン)では、18世紀にはファイフ・コンソートが(ファイフの合奏)まだ行われていましたが、ブラスバンドに譲り、静かに姿を消しました。

イギリスやアメリカでは、ファイフの音程は再びB、そしてBbと低くなっていきました。その理由のひとつは、ほとんどがBbで演奏していたブラスバンドと一緒に演奏できるように統合するためでした。

20世紀初頭にはBbが標準の音程となり、ニューヨークやニュージャージーではファイフ、ドラム、ビューグル(金管楽器)を演奏する軍団が多くなりました。ニューイングランドでは、ファイフとドラムの伝統を厳しく守りました。しかし、それとは別に、ファイフと金管楽器、ドラム、グロッケンシュピール(鉄琴)、バトントワリングなどを含む大合奏のコンペティションを開催する別の組織もありました。

ファイフの内径が円錐形になろうとファイフであることに変わりはなく、ガリシア(スペイン北西部)では18世紀後半にはすでに円錐形の内径とチューナブルボディの実験が行われていたそうです。よって、音程やボアの形状がファイフであることを定義するのではありません。

当工房が「ピッコロ・ファイフ」と呼ぶ高音のファイフは、単に「高音ファイフ」または「小型ファイフ」をよりきれいに言い表したものです。当工房のファイフは2本継ぎであるため、チューニングが可能です。


18世紀のファイフとドラム:出典 https://www.heinzhistorycenter.org/blog/fort-pitt-museum/fife-and-drum


軍隊のファイフ奏者:出典 https://www.militaryheritage.com/sound.htm

これらの動画も参考になるでしょう。

1 – Colonial Williamsburg

当工房ではこのファイフを製作販売しています。

2- Middlesex County Fifes and Drums

こちらも製作しています。

3- Basler “fifers”

バーゼルのファイフ奏者の動画。これは作っていません!

4- A quartet of fifers and a flute player

こちらのファイフも製作しています。

5 – The Ancient Mariners fifes and drums.

このファイフも作ったことがあります。

6 – The Ancient Mariners again in 1994.

彼らの遊びは、海賊役が逃げて捕まえられて…というのを繰り返すことなので、地面に押さえつけるシーンは無視してください。ファイフとドラムの楽隊が登場します。ファイフ奏者がスコットランド軍の青と白のストライプを付けているのにお気づきでしょうか。

7 – Westbrook Junior Colonials

若者のための鼓笛隊のひとつです。

8 – Charles W Dickerson

私のお気に入り!ファイフとドラムとビューグル。1900年から30年の間にニューヨークで人気でした。

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結論では、ファイフとピッコロの区別はボアの形状や音程によるものではなく、第二倍音や第三倍音をメインで演奏するためにデザインされた笛ということのようです。またピッコロは「芸術音楽」でのフルートとの合奏を想定としているのに対して、ファイフはマーチングなど野外での大音量の演奏を想定している呼称のようです。

なお、モルノ―さんの作るファイフ(ピッコロ)は低音域もきれいに発音ができ、とても音程が良いです。

数量限定で入荷しましたので、ぜひこちらからご購入ください!


Musique Morneaux アイリッシュ・ピッコロ D管