「アイリッシュの演奏用に、オークションで19世紀の8キー・フルートを買っても良いですか?」という質問をいただいたので、フルート奏者のhataoが回答します。
質問:
アイリッシュの演奏用に、オークションで19世紀の8キー・フルートを買っても良いと思いますか? 状態は良好で、ピッチはA=440hz、イギリスの楽器だそうです。
回答:
オークションのページを拝見しました。アンティーク楽器の場合、(1)楽器そのもののコンディションが良いかどうか、(2)楽器が目的の音楽に適しているかどうかの二点を検討する必要があります。
(1)については、出品者が演奏者ではない場合、問題がないと言っていてもアテになりません。
出品者がその楽器で魅力的な演奏動画を投稿しているとか、管楽器を専門に扱っており修理スキルがあるのであれば別ですが、一見美しい楽器でも、演奏してみると空気漏れなど色々な不具合が出てくるかもしれません。
(2)については、19世紀のフルートはもともと当時のクラシック音楽用に製造されたものなので、現代のアイリッシュで求められるパワフルな演奏はしにくいと思われます。
19世紀のフルートと現代のアイリッシュ・フルートは構造としては同じなのですが、異なる楽器です。
現代の楽器は音量・音程などの点において進化しています。
例えば(オークションの)このデザインのフルートは構造上F#やC#の音程が低くなります。
そのため当時の運指法ではF♮やC♯キーを押さえて音程を高めて吹いていました。
現代のアイリッシュ・フルートではこれをする必要はありません。
音量においても、19世紀のフルートは現代のものより音量が小さく、室内楽のクラシックには向いていますが、パブの喧騒の中で響かせるには力不足です。
アイリッシュ・フルートの再生産が始まっていなかった1980年代まではアンティーク・フルートを使ってアイリッシュを演奏していましたがそれは他に方法がなかったためで、現代でもそれがベストだというわけではありません。
そのため室内楽的な編成で19世紀の音楽を演奏したいという古楽志向の目的でないのであれば、現代の楽器をお求めになることをお薦めします。
参考ー19世紀の音楽
(オークションの)写真を見る限りコルクの修理が必要ですし、ご自身で修理先をお探しになり、必要があればアイリッシュ向けに指孔を削って音程を改造するなど覚悟があれば、試しに購入してみるのも良いかもしれません。
値段は4万円ほどなのでキー付きとしては新品の8キー・フルートの1/10くらいの破格の値段です。
でも、私ならリスクがあるので手を出さないですね…。
以上、参考になりましたら幸いです!