【私とケルト音楽】第八回:イーリアンパイプス奏者 野口明生さん 前編

インタビュアー:天野朋美

第八回は3歳からピアノを始め国立音楽大学を卒業、その後独学でケルト音楽を学びNHK朝の連続テレビ小説「マッサン」や作曲家の光田康典氏の作品に参加するなど大活躍のイーリアンパイプス奏者、野口明生(のぐちあきお)さんです。

前編ではケルト音楽との出会いや魅力をお聞きしました。

どうぞお楽しみください。

野口さんとケルト音楽の出会い

――ケルト音楽との出会いを教えてください。

野口:ケルト音楽は映画「タイタニック」で聴いたのが最初だと思います。

映画が上映された時、僕は中学生位だったんですが「なんだこの不思議な音楽は」と思いました。

その後高校、大学の時に出会った明星/Akeboshiというシンガーソングライターの方がケルトを取り入れた音楽をやっていて、そこでこういう響きの音楽がケルト音楽という名前だと知り、自分で調べ始めました。

それまではクラシックばかり聴いていました。

――小さい頃からずっとクラシックを聴かれていたとの事ですが、ご両親が音楽家なのですか?

野口:親は音楽はやっていなかったですね。

兄二人がピアノを習っていて、その延長線上に僕もいて「お前も習いに行くか」という流れになり、そのまま僕が長く続けて残っていただけという話です。

ケルト音楽は懐かしさと心躍る音楽が同居する唯一無二の音楽

――野口さんの思うケルト音楽の魅力を教えてください。

野口:一番最初に聴いたときに、懐かしさと心躍る音楽が同居する他には無い音楽のジャンルだなと思いました。

世界各国に色々な民謡がありますけど、なんだか心に響くというか…懐かしさを感じるという所が一番大きい魅力ですね。

日本とは全くもって離れている地域なのに不思議ですよね。

――ケルト音楽の演奏は誰かに習ったのですか?

野口:独学ですね。

僕がちゃんとケルト音楽をやろうと思ったのは大学の終わりぐらいの時期です。

その時hataoさんがアイリッシュフルートインフォメディアというホームページを運営していて、そこにホイッスルの奏法や装飾音の事が載っていて。

僕はその時ピアノばかりでリコーダーも吹けない程でしたから「こういう演奏の仕方をするんだ、笛って面白いな」と思い、ホームページの記事を読んだり演奏動画を見て勉強したんです。

hataoさんには直接習ったわけではないんですが、YouTubeで演奏をずっと聴いていたので先生のような存在ですね。

hataoさんはありとあらゆる笛を吹くことが出来る笛魔人のような方です(笑)。

色々な楽器を色々な奏法で演奏するので、とても面白いですし勉強になります。

――最初に手に入れたホイッスルと、お気に入りのモデルを教えてください。

野口:最初は国立音大の中に楽器店があって、そこでCD付きのWaltonのギネスモデルを手に入れました。

お気に入りのモデルはやっぱりコリン・ゴールディさんですかね。

もっと前だとオーヴァートンさんの音色なんですけど、それを受け継いだ笛なので。

僕の好きなミュージシャンのデイヴィ・スピラーンが吹いていたのがオーヴァートンで、その影響もあります。

惹かれるのは変化を付けて喜ばせるトラベラーズスタイル

――野口さんの好きなミュージシャンを教えてください。

野口:まずはケルト系で言うと、イーリアンパイプス奏者のデイヴィ・スピラーンです。

僕がイーリアンパイプスを始めたきっかけはデイヴィの音色だったので。

他のトラディショナルなプレイヤーには無い音色の使い方をしますし、一人だけ抜きんでていると思います。

トラッドの演奏者の方の多くはビブラートをあまり付けないなどドライめに弾く方が多いんですが、デイヴィは違う発想の仕方で演奏してるんです。

映画「嵐が丘」の演奏でもよくわかりますが、風音の入り方が独特なんです。

どの奏者もそれぞれ良さがあるのですが、多くの方がトラッドの中にはまりすぎているというかこういうものだという概念の中で演奏している感じがあります。

デイヴィはそこが無く独自の方向性を持っているんです。

あとはブラッキー・オコンネルですね。

ブラッキーもデイヴィもトラベラーズスタイルという演奏の括りになりまして、1回目、2回目と回数を重ねるたびにどんどんアレンジを変えていくスタイルです。

元々はジョニー・ドーランというアイルランドを旅しながら演奏した方がいて、パディ・キーナンもそうですが、そこから枝分かれして広がっています。

アイルランド音楽は何回も同じメロディーを繰り返すのですが、どんどん変化をつけてお客さんを喜ばせる、そういうスタイルが僕は好きです。

――ケルト系以外ではどんな音楽がお好きですか?

野口:たくさんあり過ぎて難しいのですが、久石譲さんやGLAYを聴いていました。

ピアノの音色に惹かれることが多いですね。

早いテンポの曲よりも心安らぐ方が好きなので、そういう理由からアイルランド音楽に惹かれるところもあると思います。

あと、これはケルト系以外と言っていいのか難しい所ですが、光田康典さんという作曲家の方のCREID/クリイドという曲にデイヴィのパイプが入っていて、それもよく聴いていました。

ドラゴンアッシュとか、日本のヒップホップも聴きましたよ。

ジャズとか他のジャンルも聴いてきましたが、自分に合うのはケルト音楽だと思っています。

気温・湿度に敏感なイーリアンパイプス

――実際にケルト圏には行きましたか?

野口:ちょうど3年前くらいに1週間程旅行を兼ねてアイルランドに行きました。

ダブリンからぐるりと国内を一周したのですが、皆さんから雨が酷いという情報を聞いて雨合羽を準備して行ったにもかかわらず、凄く晴れていました。

時期は夏でしたね。

日本みたいにジメジメしてなくてカラッとしていたので、びっくりするぐらいイーリアンパイプスが弾きやすかったです。

どんなにダメなリードを持って行っても多分弾けるくらい(笑)。

パイプは随所にそういうものが現れます。

大体室温は20℃、湿度60%くらいが演奏に適しているのですが、そんな条件は日本では春くらいしかないじゃないですか。

気温35℃とか湿度80%の日本の夏なんて弾けたもんじゃないです。

ある方が調べた事なのですが、例えば気温20℃の時に440Hzでリードを作るじゃないですか、それが21℃になると3.9セント上がるんです。

つまり441Hzに上がっちゃう。

それに湿度が加わるとまた変化してくるので、どんどんおかしくなっていくんです。

リード楽器の扱いは本当に大変ですね。

憧れのブラッキー・オコンネルとパブで共演

野口:クレア州のパブに行った時に「今日はミュージシャンの演奏はありますか?」と聞いたら「ブラッキー・オコンネルが演奏するよ!」と言われ、僕は彼の大ファンだったのでとても嬉しかったですね。

ちょうど楽器も持っていたので、ブラッキーから誘われて一緒にライブに出たんですよ。

その時は知らなかったのですが、僕のパイプを作ってくれている中津井眞さんが計らってくれて、先に話を通してくれていたんです。

夢のような体験でした。

(おわり)

イーリアンパイプス奏者の野口明生さんをゲストにお迎えした第8回「私とケルト音楽」、いかがでしたか?

次回は野口さんの音楽のお仕事についてお届けします。

【私とケルト音楽】第八回:イーリアンパイプス奏者 野口明生さん 後編

どうぞお楽しみに!

【Profile】

ゲスト:野口明生(のぐちあきお)
国立音大卒のピアニストであり、NHKドラマや光田康典氏の楽曲など様々な作品に参加するイーリアンパイプス奏者。
http://uilleannpipesjapan.web.fc2.com/
インタビュアー:天野朋美(あまのともみ)
ケルトを愛するシンガーソングライター、やまなし大使。
2019.11.9セカンドアルバム”Songs for Braves蕾の目覚めを信じて“をリリース
https://twitter.com/ToMu_1234

はじめよう!アイリッシュ・セッション

「世界で一番初心者に親切な曲集」を目指して開発した、これからアイルランド音楽を演奏したいと考えている方にぴったりの楽譜集「はじめよう!アイリッシュ・セッション」の付属音源に野口明生さんも参加しています!


はじめよう!アイリッシュ・セッション