ライター:吉山雄貴
吹奏楽のための第2組曲
今回から2度にわたり、イギリスの作曲家グスターヴ・ホルスト(1874-1934)の作品について、おはなしします。
まえがきでも申しましたが、ホルストは私にとって、「惑星」でクラシックのみならず音楽そのもののたのしさを知らしめ、「サマセット狂詩曲」で民族音楽に目を向けさせた張本人であります。
さてこのホルスト。
90年代まで、日本ではいまひとつマイナーだったのに、2003年に「惑星」の一部をポピュラー音楽にアレンジしたものがヒットして以来、一気に「イギリスを代表する作曲家」の地位にのし上がったような印象を、私はもっております。
――そう、この曲ですとも。
残念なことにこの人物、クラシックの愛好者の間では今なお、「惑星」だけの一発屋のように見られているきらいが、多々あります。
日本においては、「江戸子守唄」を引用した「日本組曲」さえあまり知られていない、というこの悲しさよ。
彼が以前からきちんと評価されていたのは、どちらかというと吹奏楽の畑において、です。
特に2曲ある「吹奏楽のための組曲」は、吹奏楽では古典中の古典とされています。
どちらも、ホルストの主要な作品にかぞえられるはず。
そのうち第2組曲は、イングランドの、主に南部のハンプシャー州に伝わっていた民謡を用いています。
ちなみに第1組曲については、ホルストの完全オリジナル作品だとする記述と、イギリス民謡にもとづいているとする記述の、両方が見られました。
長さは、第1組曲・第2組曲とも、10分あまりです。
第2組曲はこの動画で、全曲を視聴できます。
- 第1曲:行進曲
- 第2曲:無言歌
- 第3曲:鍛冶屋の歌
- 第4曲:ダーガソン幻想曲
実のところ、イングランドの伝承曲には、5世紀にアングロ・サクソンがグレートブリテン島に上陸する以前から、先住のケルト系の人々の間で伝わっていたメロディに、英語の歌詞をつけたものが、少なからず存在するようです。
だがしかし、この組曲のうち2曲目の無言歌だけは、まごうことなきケルトの旋律。
なぜならこれだけ、原曲がコーンウォール民謡なんです。
――コーンウォール?
はい、あのコーンウォールです。
アングロ・サクソン来寇時、ウェールズやブルターニュと同じく、ブリトン人が逃げこんだ地です。
この曲、クラシックのCDのライナーノーツにはたいてい、「I love my love(恋人を愛す)という原題で、両親に結婚を反対され、精神病院に入れられた娘のことを歌った歌だ」、といったことが書かれています。
ですが第2曲の原曲には、もうひとつMaid in Bedlam(ベドラムの娘)という名もあります。
ベドラムとは、昔ロンドンに実在した精神病院のこと。
You Tubeでは、こちらの名前で検索したほうが、動画をみつけやすいです。
聴いてみてビックリ。
4番まである歌詞がすべて、次のフレーズでおわります。
I love my love because I know my love loves me
(あの人のこと愛してる。だって、分かってるんだもの。あの人もあたしのこと愛してるって)
精神病院はともかく、こりゃちょっとヤ○デレが過ぎるんじゃあありません?
これがMaid in Bedlam。
歌っているのはメイヴ。
かの有名な、ケルティック・ウーマンの初期のメンバーです。
収録アルバムはsilver sea。
Maid in Bedlamの他にも、The Last Rose Of Summerに、ゲール語版のDanny Boyと、収録曲がやたら充実しています。
「吹奏楽のための第2組曲」を、もっとよい音質で鑑賞するなら、このCDがだんぜんオススメ。
【HOLST / HANDEL / BACH】
The Cleveland Symphonic Winds
指揮:フレデリック・フェネル
録音年:1978年
レーベル:テラーク
第1番と第2番が両方とも録音されているほか、バロック音楽の有名な作品を吹奏楽に編曲したものが、若干おさめられています。
ところで、吹奏楽のCDはどういうわけか、総じて残響が低く抑えられがちです。
そのため、たとえ大編成の吹奏楽団が演奏していても、なんとなく迫力に欠ける聴きごたえになることが、ざらにあります。
であるところ、このディスクはあたかも映画音楽のサウンドトラックのように、目いっぱい残響をきかせています。
これによって、他の音源と比較しても、華やかさがまるで違うのです。