ライター:hatao
こんにちは! ケルトの笛のhataoです。
先日当店のホームページのお問い合わせフォームから、このようなメールをいただきました。
要約します。
とても勉強になるサイトなのですが、ひとつ指摘をさせてください。
私は笛は演奏しないのですが、hatao様のティン・ホイッスルの運指は「上げ過ぎ」、「離し過ぎ」です。
管弦打鍵盤あらゆる楽器において、スムーズな動き、素早い反応、無駄な運動量を減らす等の観点から「指はできるだけ離さない」ことが鉄則です。
hatao様はド素人の指遣いで、恥ずかしくて動画を見ていられません。
せっかくの良いサイトなのに運指のせいで信頼性、信用性、説得力を損ねています。
hatao様は「毎日ティンホイッスルを吹いています」と書いていましたが、好きな曲やフレーズを好きなように吹くのは練習ではなく「遊び」です。
出来ない事を出来るようになるためにする、それが「練習」です。
また運指には「文化」という側面もあります。
音やフレーズが同じならどう吹いたって構わないというものでもありません。
hatao様の指遣いが良くなれば人から信頼され、物事が上手くいくと思います。
……私はこれまで人生の大半を笛にどっぷり浸かって生きてきましたが、このようなご指摘をいただいたのは初めてで、とても興味深く拝読しました。
今回はこの指摘が的を射ているのかどうか、読者の皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
まず私が「指を高く上げている」というご指摘については、半分は当たっており、半分は間違っています。
正確には私は平時は指を低く浮かせておき、必要のある時には高く上げています。
運指は最小の動作で行うのが望ましく、指を高く上げすぎると無駄な動きが多くなりスムーズな運指の妨げになるという点については異論がありません。
私は、待機している指を指孔から2cm程度上に指を浮かせるようにしており、生徒にもそのように指導しています。
一方で、アイルランドの伝統音楽の奏法には「指孔を叩いて音を区切る」という装飾技法があり、この場合は指をまっすぐに高く上げてから大きく振りかぶって、スナップを利かせて指孔を軽く叩きます(タップと呼ばれます)。
この「叩き」の動作は、指孔から2cmほど浮かせた通常の待機位置から始めても助走がないために速度が出ず、タイミングのよい「パリっとした」装飾音になりません。
そのため、生徒にもこの奏法の時には指をまっすぐ高く上げるように指導しています。
ともかく、私は指を高く上げていることに間違いはありません。
では実際に指を高く上げているのか、それはどのくらいなのか、私の映像で確認しましょう。
映像からは、確かに指の関節をまっすぐ伸ばして指孔から真上に指を高く上げている様子が見えます。
では指を高く上げている私は笛のド素人かどうか。
そこについては自分が言うものではないので評価を控えるとして、比較対象として世界の各種笛の名人がどのような運指をしているか確認いたしましょう。
これらは演奏が終わって笛から手を離そうと指を広げているシーンを都合よく切り取っているのではなく演奏中のシーンです。よろしけば動画もご確認ください。
ティン・ホイッスル (U.K人のMichael McGoldrickさん)
ティン・ホイッスル (アイルランド人のMary Berginさん)
スペインのバグパイプ (スペイン人のCarlos Núñezさん)
リコーダー (Lucie Horschさん)
中国の笛子 (中国人の张维良さん)
朝鮮のチョッテ (北朝鮮人のキム・チョンリさん)
https://youtu.be/ce3jWuYN_N8
篠笛 (望月美沙輔さん)
ねぷた囃子
能管 (一噌幸弘さん)
これらの奏者が「指を高く上げている」のは、否定しようのない事実のように私には見えるのですが、読者の皆様はどう思われますでしょうか。
なお、いずれもそのジャンルの中ではトップクラスの演奏家の動画ばかりを集めてみました。
客観的な事実をまとめると、この方々は指を高く上げており、世間の評価ではド素人ではない、ということになっています。
結論。
楽器の演奏において「指を上げすぎないほうがよい」のは常識です。
それを踏まえた上で名人が指を高く上げるのは、奏法上必要があるからです。
ある種の楽器や音楽においては「指を楽器から遠くに離さない」のは正しいのかもしれませんが、それがどんな楽器や奏法にも通用すると考えるのは空手の動き方で柔道が戦えると思っているようなものです。
これまで指の動かし方については確信を持って行っていましたが、今回は他ジャンルの奏者の運指を改めて観察することで、それが誤りではないことを確認することができました。
よって、これからも指を高く上げて演奏していこうと思います。
今回のご指摘と私の見解について、読者の皆様はどんな感想を持たれましたか?
「動画の奏者たちの指は全然高く上がっていないが、hataoだけが高く上げている」など、異論も受け付けいたします。
ぜひ当記事のコメント欄に記入したり、SNSのコメント欄などでご意見をお寄せください。異論反論も含めて、後編でご意見を掲載したいと思います。
シリーズ後編では、読者からのコメントとともに、各種の笛の世界では運指についてどのように考えられているのか、日本を代表する奏者の皆さんにもご意見をうかがってみましょう。
https://celtnofue.com/blog/archives/6300