ライター:hatao
音楽を愛する気持ち、自分の手で音楽を奏でたいという気持ちには、健常者も障がい者も変わらないはずです。
しかし身体的な制約からその思いが叶わない方もいらっしゃいます。
以前に私の生徒さんで、生まれつきの身体的特徴や半身麻痺などの理由により、片手だけを使ってティン・ホイッスルを習いたいという方がいらっしゃいました。
当時の私には障がい者へのレッスンの知識経験がありませんでしたので、ティン・ホイッスルの上から3つ目までの指孔をテープで閉じて倍音を使って演奏することを提案したり、片手の三指で1オクターブ半の音域で演奏ができるテイバー・パイプや、指1本で演奏ができる柳の笛をご紹介したことがありました。
しかし全指が欠損した方は、私にも方法が思い浮かびません。
今回ご紹介する「二輪十音(にりんとおん、英文 Nirintone)」は、障がいのある方にとっても希望を与えてくれるかもしれません。
片手でも、全指が揃わなくても笛の演奏を楽しめる画期的な笛です。
開発者は佐賀県にお住まいの大坪武廣さん。
趣味で笛づくりをされている方です。
開発のコンセプトは「指遣いが苦手な方や困難な方、手や指が不自由な方でも楽器演奏を楽しむため」とのことです。
楽器の特徴は「指孔付きのスライド・ホイッスル」と言ってよいでしょう。
スライド・ホイッスルはトロンボーンのように筒の長さを伸縮して音程を変化させて演奏する楽器ですが、筒の長さと音程との関係を把握するのが難しいため、鳥の鳴き声のような効果音を得るために使われることが多く、曲を演奏する実用面では困難がありました。
二輪十音は2つの筒が組み合わさっています。
内側の筒にはティン・ホイッスルと同じく6つの指孔が空いており、外側の筒はその上をスライドしてその位置によって内側の指孔が順番に開閉します。
この2つの管があることによって指孔を直接指で閉じなくても、ある程度正確な音程でスライド・ホイッスルが演奏できる仕組みです(実用新案登録)。
高音を得るにはティン・ホイッスルと同じように息を強めに吹けば良く、リコーダーのサミングを必要としないため演奏が容易です。
3Dプリンターで製作したマウスピースはユニークな円形になっています。
この形により笛を指で支持しなくてもマウスピースを噛むことで、指が無い方でも楽器を支えることができます。
笛の裏面には演奏者に向かって平仮名で音名が書いてあり、スライドをどの位置に合わせれば何の音が鳴らせるかを確認しながら演奏ができるように配慮されています。
この楽器の面白い点は、スライドを完全に上げた状態にするとすべての指孔が開放されるので、指孔を指で押さえて演奏ができるようになっていることです。
例えば健常者の音楽講師が二輪十音の指孔を指で閉じてティン・ホイッスルと同じ運指で曲を聴かせて教えて、生徒が二輪十音でスライド・ホイッスルとして聴いたままに演奏することができます。
大坪さんによると販売予定はないとのことですが、このアイデアを利用すれば障がい者の方にも音楽を楽しむ道が拓ける予感がしています。
動画で詳しくご紹介していますので、ぜひご覧ください。