つま弾きバンジョー

ライター:松井ゆみ子

あれ? 三線かしら? と思った演奏が、意外やバンジョーでした。

アイルランドで高い評価を得ている女性シンガーソングライター、リサ・オニールの新作で、彼女自身が弾いています。映像を見てみると、やはりピックを使っていなかった。ひなびた音色です。

近年バンジョー人気は上がりっぱなし。伝統楽器のひとつとして定着した感じです。セシューンの練習会でも先生がバンジョーでチューンを教えてくれることが増えました。ケルトの笛屋さんでもバンジョーを売られていますし、日本でも人気が高まっているのかな?

さて、リサ・オニール。ギターでの弾き語りが基本スタイルですが、バンジョーを使っている映像を見る機会が増えています。カウンティ・キャヴァンCo.Cavan 出身のミュージシャンはなぜかとても少なく、彼女は今や代表格。独特の声と歌唱スタイルで、あっという間に不動のポジションを築きました。

長らくダブリン在住していたアイリッシュハープの優れた演奏者、村上淳志くんは、リサ・オニールのアルバム制作に参加しています。コンサートツアーにも同行していた時期があり、わたしはニューブリッジで観る機会がありました。ラッキー。

淳志くんと、くん付けはどうかと迷ったのですけど、なかよしなので。今、東京のわたしの実家を仕事場として使ってくれていて、新作をばんばんインスタにアップしていますので、ぜひ見てください。「アイリッシュハープ」のイメージを一新する演奏です。アイルランドでは、伝統音楽の「新曲づくり」をするミュージシャンが少なくありません。やはりアイリッシュハープ奏者のウナ・モナハンは、コンテンポラリーな楽曲づくりとアレンジで脚光を浴びています。

ではここでリサのつま弾きバンジョーとユニークな歌声を。

“Rock The Machine – Lisa O’Neill”

もうひとり、ちょっと気になっているイギリスの女性ミュージシャンも、ときどきバンジョーを使っているのでご紹介しちゃいます。トラッドではなく、なんといったらいいのかな「ヒッピーなアーティスト」という感じ。数年前にグラストンベリーのフェスティバルのテレビ中継で、メインステージではなく、新人あるいはブレーク前のミュージシャンを紹介するコーナーに登場したのが彼女のユニット“This is The Kit”でした。すごく好み、というわけではないのですけれど、なぜか気になる存在で。拠点をフランスに移したと聞いていますが、今もそうかな。まずはバンジョーとのコンビネーションを。

偶然ですが、リサもThis is The Kitも同じレコードレーベル(Rough Trade)からアルバムをリリースしていました。

ここで極め付け。女子とバンジョーは近年の新しい傾向かと思っていたのですが、こんな大先輩がいらしたのね。知らなかった。とても有名なのだそうです。まずは映像から。

マーガレット・バリー Margaret Barryはコークのトラベラーズ一家の出身。

この映像が伝えるように、彼女と姉妹は「ストリート・シンガーズ」とよばれていたそうです。バスキングの原点といっていいのかな。リサ・オニールが敬愛しているらしく、なるほど彼女の音楽のルーツはアメリカではなくアイルランドだったのか! と、あらためてリサの音楽に興味を持ち始めています。

アイルランドでバンジョーの第一人者といったら、キーラン・ハンラハンKieran Hanrahan。エニス出身のミュージシャンで、RTEラジオの人気番組「ケーリー・ハウス(Ceili House)」のプレゼンターを務めている超有名人です。

「ケーリー・ハウス」はアイルランド各地で行なわれているセシューンを紹介するライブ番組で、キーラン自らが出向いて行っての収録。パブでのセシューンから、サマースクールのイベントなど、シチュエーションも様々。伝統音楽が国中で、広く深く親しまれている様子が実感できる番組です。

わたしもスライゴーのフラー・キョールと、アキルのサマースクールでキーランを目撃。思わず「番組聴いてます!」と声をかけちゃいました。

「おー、サンキュー!」と手をふるキーラン、気さくなふつーのおじさんで、アイルランドらしいなーと、さらにファン度を高めました。

実はバンジョー、あまり好きな楽器ではなかったのです。じゃかじゃかうるさい印象で。でも「つま弾きスタイル」のバンジョーを聞く機会が増え、伝統音楽のチューンに案外合うことに気づいたのです。

つい先日、セシューンの練習会で、先生の弾くバンジョーにわたしの下手くそフィドルを合わせてもらったのですが、すごく新鮮でした。

先生が「ひとつ下のキーで演奏してみて。バンジョーとしっくり合うようになるから」と言われて試してみたら、あら不思議。とてもいい感じ。そのチューンに限ってのことなのか、常にそうなのか聞きそびれたので、また一緒に演奏してもらわなくちゃ。

この先生の影響もあり、わがクリフォニーの小さなヴィレッジでも、バンジョーを弾くひとが確実に増えております。