イングリッシュ・コンサート・フルートが、どのようにしてアイリッシュ・フルートになったか


出典 https://blog.mcneelamusic.com/

アイルランドの楽器メーカーMcNeelaが公開しているブログの中から、アイリッシュ・フルートの歴史について解説している記事を許可を得て翻訳しました。

原文:How English Concert Flutes Became Irish Traditional Flutes

イングリッシュ・コンサート・フルートが、どのようにしてアイリッシュ・フルートになったか

伝統的なアイルランド音楽の奏者が使っているフルートには、ある一定のタイプが多いことにお気づきになると思います。マット・モロイMatt Molloyが愛用しているフルートは、1861年にイングランドで製造されたPerfected by Boosey & Co.社のPratten Perfectedフルートです。Catherine McEvoyは、1820年代にイングランドで作られたRudall & Rose製のフルートを所有しています。Conal Ó Grádaは、1851年頃のRudall, Rose & Carte.社のスタイルをもとに作られた、Hammy Hamilton製のフルートを演奏しています。

これらは一見、伝統的なアイルランド音楽の世界にはそぐわない名前に思えるかもしれません。しかし、アイルランドの伝統的なフルートの音楽に少しでも関心のある方にこれらの名前を挙げれば、少なくとも「わかっているね」というようなうなずきを返されることでしょう。

初期のイングリッシュ・コンサート・フルートについてのお話


マット・モロイとPratten Perfected Flute
画像提供:Canley – Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2919984

この格式高いイングランドの名前たちは、どうして現代のアイルランド人音楽家たちの手に渡ることになったのでしょうか?

物語は、19世紀初頭のイングランドにさかのぼります。当時、すべてのクラシック・フルート奏者が選んでいたコンサート・フルートは、円錐形の管を持つ横笛で、主にアフリカン・ブラックウッド製でした。しかし、19世紀の中頃になると、後のアイルランド・フルートの音を形づくることになる大きな変化が、コンサート・フルートの世界に起こりました。ベーム・システム・フルートの登場です。1847年、全く新しい「ベーム・システム・フルート」がクラシック音楽の世界に登場しました。このフルートは、より大きな音量を得ると同時に音程を損なわないようにという、Theobald Boehmの願いから生み出されたものでした。

新しい円筒形の管

ベームは、従来の木製の円錐形ボア(管内形状)を銀製の円筒形ボアに置き換え、低音域の性能を向上させました。また、大きな音孔をカバーできるように指を置くプレートのシステムも開発しました。これらの大きな音孔は、最良の音色と大きな音量を得るために必要だったのです。ベーム・フルートはクラシック音楽家たちの間で人気を博し、やがて古い木製のシンプル・システム・フルートは徐々に主流の座を追われていきました。

アイルランドの民俗音楽家たち

その古い木製のコンサート・フルートは、次第にそれまで手が届かなかった庶民の手に渡っていきました。そして最終的には、当時のアイルランドの田舎に住む民俗音楽家たちのもとへと辿り着いたのです。

アイルランドの伝統音楽にとって、シンプル・システム・フルートはよく使われる調にぴったり合っており、木という材質のおかげで、力強く息づかいを感じさせる豊かな音色を生み出しました。こうしたシンプル・システム・フルートの改良型が、骨董品商や質屋を通して音楽家たちの手に渡っていく中で、一つの演奏スタイルが生まれました。それが、今日私たちが「アイルランド伝統フルート・スタイル」と呼んでいるものなのです。