
出典 https://blog.mcneelamusic.com/
アイルランドの楽器メーカーMcNeelaが公開しているブログの中から、アイリッシュ・ブズーキ奏者におすすめのバラードについて解説している記事を許可を得て翻訳しました。
原文:The Top Five Irish Ballads for Irish Bouzouki Players
アイリッシュ・ブズーキ奏者のためのアイリッシュ・バラード トップ5
活気あふれるアイリッシュ・ダンスに合わせてかきならすのがお好きな方も、心に響くアイリッシュ・バラードを伴奏するのがお好きな方も、インスピレーションを与えてくれる優れたアイリッシュ・ブズーキ奏者には事欠きません。ドーナル・ラニーDonal Lunnyからアレック・フィンAlec Finn、アンディ・アーヴァインAndy Irvineに至るまで、これらの伝説的奏者たちはすべてをやり尽くしています。
私はよく、こうした名手たちの足跡をたどりたいけれど、どこから始めればよいかわからないというアイリッシュ・ブズーキやマンドリン奏者からの相談を受けます。
最近では、才能あふれるダオリ・ファレルDaoirí Farrellの演奏を聴いて、自分の声を鍛え、古い楽器を取り出し、アイルランド民謡の世界に飛び込みたいと思う方がますます増えています。ただし、多くの人は膨大なアイルランド民謡やバラードのレパートリーを前に、どこから始めればよいのか途方に暮れてしまいます。
そこで私は、現在アイルランド音楽のセッションでよく歌われている人気のアイリッシュ・バラードをまとめた便利なリストを用意しました。これは私自身のお気に入りでもありますが、歌いやすく伴奏しやすい曲でもあります。英語で歌われるので、アイルランド語を話さない方にも親しみやすいでしょう。
また、余計な問題を避けるために「政治的」なバラードは外しました。そして最も大切なのは、コード譜へのリンクも用意してあることです。安心して練習を始めていただけます。(訳者注:原文に掲載されているコード譜のリンク先の一部がエラーになっていますが、本記事でもそのまま掲載しています)
さあ、待つ必要はありません。始めましょう。すぐに私のお気に入りの曲を歌い、演奏できるようになるはずです。
――私の大切なアイリッシュ・バラードを称えて
Paddy’s Green Shamrock Shore
「Paddy’s Green Shamrock Shore」は、私が生涯を通じて愛してやまないアイリッシュ・バラードのひとつです。
この象徴的な歌は、アイルランドの音楽家Proinsias Ó Maonaighによる美しい「Gleanntáin Ghlas’ Ghaoth Dobhair」と同じ哀愁漂う旋律を持っています。
英語版は、1976年にスコットランドのフォークグループ「バトルフィールド・バンドBattlefield Band」がアルバム『Farewell to Nova Scotia』で録音したことで広まりました。
そして1978年、伝説的なアイルランドのギタリストでありフォーク歌手のポール・ブレイディPaul Bradyが、名盤『Welcome Here Kind Stranger』に収録したことで一気に有名になりました。以降は歴史そのものです。「Paddy’s Green Shamrock Shore」はアイルランド民謡の殿堂に刻まれる曲となりました。
この曲は、19世紀の大飢饉後のアイルランド移民の物語を語る数多くの歌のひとつです。多くの人々はアメリカで新しい生活を夢見て、愛する祖国を後にしました。いつか帰れると願いながら。しかし実際に戻った者は少なかったのです。
歌詞
We each of us drank a parting glass in case we might never meet more,And we drank a health to Old Ireland and Paddy’s Green Shamrock Shore…
If fortune it ever should favour me or I to have money in store
I’ll come back and I’ll wed the wee lassie I left on Paddy’s Green Shamrock Shore.
私の考えでは、この哀切な歌を表現するうえでポール・ブレイディの演奏に勝るものはありません。
以下の演奏では、マンドリンとハーモニカの名手アンディ・アーヴァイン本人が加わっています。
「Paddy’s Green Shamrock Shore」はポール・ブレイディのファンにとって確固たる人気曲となり、長い年月を経た今でもなお愛され続けています。
こちらは、アンディ・アーヴァインがマンドリンではなくアイリッシュ・ブズーキを演奏している、より新しい録音です。熱心な観客の参加もあり、一緒に歌ってもらえるのは常に良い兆しです。
もしこの曲をレパートリーに加えたい場合は、こちらからコード譜やアイリッシュ・ブズーキ用の楽譜をご覧いただけます。
Paddy’s Green Shamrock Shore Irish Bouzouki Chord Chart
The Lakes of Pontchartrain
アイルランド音楽セッションではよく演奏される人気曲ですが、実はこれはアメリカのフォークソングです。ボブ・ディランやプランクシティ、そしてポール・ブレイディ自身といった名だたる演奏家たちによって広まり、アイルランド音楽の伝統の中に自然に溶け込んでいきました。
旋律は1800年代のどこかで生まれたと考えられていますが、現在最も広く歌われている歌詞は、おそらくその後、南北戦争時代に書かれたものと思われます。
I stepped on board of a railroad car beneath the morning sun And I rode the roads ’til evening and I laid me down again All strangers here, no friends to me ’til a dark girl towards me came And I fell in love with a Creole girl from the Lakes of Pontchartrain.
歌の内容は、ニューオーリンズからジャクソンタウンへと向かう鉄道の旅を描いています。この鉄道は戦争直前に完成しましたが、その後ほとんど廃墟となりました。そのため、この曲が書かれた時期として最も可能性が高いのはこの時代だと考えられます。
「The Lakes of Pontchartrain」はアイリッシュ・ブズーキの伴奏に見事に合うため、ここで紹介しました。コード譜やブズーキ用のタブ譜はこちらからご覧いただけます。
Lakes of Pontchartrain Irish Bouzouki Chord Chart
そして再び名手ポール・ブレイディとアンディ・アーヴァインの手による演奏をご紹介します。
Do You Love an Apple?
この曲は、私の常連読者の方にはすでに馴染みがあるかもしれません。というのも、私自身のお気に入りだからです。
「Do You Love an Apple?」の起源はほとんど分かっていません。アイルランド、スコットランド、イングランドのフォーク音楽の伝統にさまざまなバージョンが存在しています。しかし、アイルランド音楽セッションで最もよく歌われるバージョンは、1975年にレコーディングを行ったザ・ボシー・バンドThe Bothy Bandによって広まりました。
以下でお聴きいただけるのは、若き日のトリーナ・ニー・ドーナルTríona Ní Dhomhnaillが歌い、伝説的なドーナル・ラニーがアイリッシュ・ブズーキで伴奏を務めている演奏です。今日、トリーナはアイルランド音楽界における最も影響力のある歌手の一人とみなされており、それも当然のことです。
00:48でのトリーナの、にやりとした表情をご覧になりましたか? 歌詞をなんとなくしか聴かない人はこれを純粋なラブソングと勘違いすることがありますが、注意深く耳を傾ければ、この曲がユーモアを込めたものであることに気づくでしょう。
Before I got married I wore a black shawl, but since I got married I wear bugger all… But still I love him, I can’t deny him, I’ll be with him wherever he goes.
(結婚する前は黒いショールを身にまとっていたけれど、結婚してからは何も身につけていない…それでも彼を愛している、彼を否定できない、彼がどこへ行こうとも一緒にいるわ)
さて、常連の読者の皆さんはすでにこう思っていることでしょう。「なぜこの曲をバレンタインデーのラブソングのリストに入れるのか?」と。
実際、この曲のバージョンによっては、歌われる「彼」が土曜の夜に酔っ払って帰ってくるどころか、もっとひどいことをしている場合もあります。ですが、トリーナの歌うバージョンはずっと穏やかで、全体としてはやはり愛情のこもった可愛らしいものです。
遊び心ある歌詞とシンプルで覚えやすいメロディを持つこの曲は、どんなアイルランド音楽セッションでもぴったりの盛り上げ曲になります。コード譜はこちらからご覧いただけます。
Do You Love an Apple Chord Chart
Raggle Taggle Gypsy
「Raggle Taggle Gypsy」もまた、もともとは他のフォーク音楽の伝統から生まれた曲です。
今回はスコットランドが起源ですが、今では広く「アイルランド」のバラードとして受け入れられています。
有名な民謡収集家フランシス・チャイルドFrancis Childが『The Gypsy Laddie』というタイトルで記録し、自身の著作『English and Scottish Popular Ballads』に収めています。この歌は18世紀初頭にさかのぼるとされ、古いスコットランドの旋律に基づいています。
現在よく知られているバージョンのひとつは、アイルランドのスーパーグループ「プランクシティ」が1973年のデビューアルバムに収録したもので、これによりアイルランド民謡の伝統の中で確固たる地位を築くこととなりました。
「Raggle Taggle Gypsy」は、ある女性が夫や贅沢な暮らしを捨てて、美しい放浪者に従い旅に出る物語を歌っています。この歌のスキャンダラスな主人公が誰なのかについては様々な憶測がありますが、真実は誰にも分かっていません。ただし、歌詞から明らかなのは、彼女が新しい人生に大きな幸せを見出しているということです。
What care I for my house and my land? What care I for my money-o? I’d rather have a kiss from the gypsy’s lips I’m away with the raggle taggle gypsy-o!
このドラマチックな曲のコード譜はこちらからご覧いただけます。
The Raggle Taggle Gypsy Chord Chart
The Rocky Road to Dublin
「The Rocky Road to Dublin」は、しばしば下品な酒場歌として不当に片付けられてしまいますが、実際にはアイルランド西部の故郷を離れ、リヴァプールで一旗揚げようと旅に出たアイルランド人の物語、そしてその道中に待ち受ける数々の冒険を描いた力強いバラードです。あの速いテンポの歌詞を歌いこなすのは決して簡単ではありません。
One two three four five Hunt the Hare and turn her down the rocky road And all the way to Dublin, Whack fol lol le rah!
この曲は19世紀にアイルランドの詩人D.K.ギャヴァンDK Gavanによって書かれましたが、現在では「ダブリナーズThe Dubliners」と最も深く結び付けられています。特にルーク・ケリーLuke Kellyのしゃがれた声と濃いダブリン訛りとが、この歌の代名詞となっています。
ルーク・ケリーは5弦バンジョーで自ら歌に伴奏することでよく知られていましたが、このアレンジではジム・マッキャンJim McCannのギター伴奏が中心となり、他の楽器がメロディを担っています。
特にバーニー・マッケンナBarney McKennaのバンジョー演奏は、歌声を邪魔することなく、しかししっかりとメロディを支える名人芸です。
この曲のコード譜はこちらからご覧いただけます。
Rocky Road to Dublin Chord Chart
アイルランドのお気に入りフォークソング
「The Rocky Road to Dublin」に触れる以上、ダブリナーズ以来ダブリン音楽シーンから現れた最高のフォークグループのひとつ、ランカム(Lankum)に言及しないわけにはいきません。
2019年、RTÉは「アイルランドで最も愛されるフォークソング」を決定する全国キャンペーンを行いました。「The Rocky Road to Dublin」も最終候補に残りましたが、優勝は逃し(優勝したのは「Raglan Road」でした)、その代わりにランカムによる素晴らしい演奏が生まれたのです。
このバージョンでは、シュルティボックスによる雰囲気のあるドローン以外に楽器伴奏は含まれていませんが、グループによる四声のハーモニーは、新たなコード進行のアイデアを掻き立ててくれることでしょう。
