当店のお客様から、演奏していない、とても古いバグパイプ(スコットランドのグレート・ハイランド・パイプス)があるので、修理してほしいというご依頼を受けました。
ちょうどそのころ、当店でお世話になっているドイツ在住のバグパイプ職人・薗田徹さんが一時帰国されるということで、当店で修理をお引き受けし、薗田さんに修理をしていただきました。
届いたバグパイプは革製のハードケースに入っており、お客様は知人からの購入時のまま、演奏することもなく鍵を紛失してしまい、ついに中身をご覧にならないまま、その処遇にお困りの様子でした。
中身の確認
まずはハードケースの鍵を破壊して、中身を確認。
薗田さんに写真を送って、修理する価値があるものなのかどうかを判断していただきます。
▲開封時
というのも、悪評高い南アジア製のバグパイプだった場合、修復しても演奏することができないほど粗悪なので、修理代金を損させてしまうおそれがあるからです。
▲内容品
黒檀製のチャンターに彫ってある工房の名前をインターネットで検索して、すでに廃業した工房による、1980年代頃のスコットランド製のきちんとした楽器であることが判明。
素材も良いものを使っていますし、ヴィンテージ品ということで、仮に演奏可能な状態でオークションや中古市場に出れば、それなりに良い値段がつくと判断して、お客様の許可をいただいて、修理をすることとなりました。
▲チャンター
リードはすべて葦の自然素材でした。
少しバグパイプの覚えがある私は、自分で組み立てて音を鳴らそうとしたのですが、バッグの空気漏れが激しく、まったく音が鳴らないばかりか、ホコリが逆流してきて、むせこんでしまったのでした……。
▲リード
修理開始
さて修理当日、まずはバッグカバーから袋本体を取り出します。
バッグは動物の皮ですが、状態はとても悪く、空気漏れが多数あるものと思われます。カビやホコリも心配ですから、バッグは交換します。
バッグと管をつないでいる部分の糸を切断して、管を取り出します。
▲古いバッグを確認
▲作業に使うカッター
また、バッグと管をつないでいる「テノン」の部分の糸が劣化して、ここでも空気漏れを起こしていました。そこで、カッターを使ってすべての糸を切断して、巻き直します。
この作業は見学していた私達スタッフも協力しました。
▲テノンの糸を除去
糸を取ると、テノンの木部に接着剤が付いていることがあるので、木部に傷がつかないように丁寧にそぎ取ります。
▲糸を取り去ったテノン
▲巻き直す
糸はワックスがついていないヘンプ(麻糸)で、最後にビーズワックスに糸を通して、糸がほどけないようにまとめます。
ワックスをつけると、管をはめ込んだときにフィット感がよくなり、空気漏れ防止になります。
▲ビーズワックス
管の接続部分は薄く作っているのですが、ここが強度的に弱く割れやすいために、上から銀やステンレスのリングをはめ込んでいます。
長期間演奏していなかったために木が痩せてリングが脱落していました。
これを、接着剤で固定します。
2つの剤を混ぜ合わせて作る接着剤です。
▲接着剤をつけて
▲リングを固定
次にそれらの部品を新しいバッグに取り付け、糸できつく縛って固定します。
▲人工バッグに交換
チャンターとドローンのリードはすべて交換しました。
もともとあったリードは葦製だったのですが、それは付属品として返却しました。
▲試奏
最後にリードの調整とチューニングを経て、演奏ができる状態に蘇りました。
こうして復活したバグパイプは、お客様のもとへ無事に戻りました。
▲全体写真
今回の修理内容は
- バッグの交換(革から人工素材に)
- リードの全交換(ドローンにはプラスチックリードを利用)
- 接続箇所の補修(糸を巻き直しました)
- マウント(ドローンにある金属リング)の接着
- 調律
をしました。
今回私はほぼ見ているだけでしたが、修理に必要な道具についても知ることができ、大変勉強になりました。
当店では、バグパイプやアイリッシュ・フルートなどの修理ご依頼を承ります。
まずは下記お問い合わせフォームよりご相談ください。