ライター:吉山雄貴
前回に引きつづき、今回もグスターヴ・ホルストの作品をとり上げます。
ホルストは「惑星」ばかりが突出して有名ですが、主に活躍したのは、教会音楽など合唱曲の分野。
その他にも彼は、イギリスの伝統音楽をとり入れた作品を、かなりの数のこしています。
前回の「吹奏楽のための第2組曲」もその1つ。
これは、親友だった同じく作曲家の、レイフ・ヴォーン=ウィリアムズの影響です。
ヴォーン=ウィリアムズは、完全にそのテの作品の専門家。代表作「グリーンスリーヴズによる幻想曲」も、イングランドの民謡にもとづいています。
ホルストの数ある伝統音楽を用いた楽曲の中から、今回ご紹介するのが、Seven Scottish Airs。7分前後の、(クラシック音楽にしては)非常に短い曲です。
少なくとも日本においては、まったく無名な作品です。国内で生産されるCDに、これが収録された例を、私はただの1つも知りません。
ということはつまり、定着した作品名の邦訳も存在しない、ということ。
いちおう、直訳すれば「7つのスコットランドの歌曲」ですが、ウィキペディアだと「7つのスコットランド旋律」と訳されています。
たしかに歌っぽくない、むしろジグやストラススペイに近く感じられるメロディも、出てきます。
思うに、この作品は「知る人のみぞ知るマイナー曲」の立ち位置に甘んじているべき代物ではありません。
まずは何もおっしゃらず、お聴きねがいたい。
いかがでしたか?
実はこのSeven Scottish Airs、私にとって、あらゆるジャンルの音楽の作品の中でも、もっとも好きなもののうちの1つなんです。
理由は簡単。
メロディがどうしようもなく美しいから。
それはもう、何度きいてもため息が出るほど。
さてこの楽曲。
名前からも明らかなように、スコットランドの伝承曲7曲を使用しています。
順に、
- The Women are a’gane Wud
- My Love’s in Germany
- O How Could Ye Gang, Lassie
- Stu Mo Run
- We Will Take the Good Old Way
- O Gin I Were Where Gowdie Rins
- Auld Lang Syne
最後のAuld Lang Syneは、言わずと知れた「蛍の光」です。
原題は、「懐かしき昔」とか、「古いよしみ」といった意味。
これを締めにもってくるホルストの選曲センス、私は好きですよ。
特に印象的なのが、My Love’s in Germanyと、Stu Mo Run。
どちらもはじめて聴いたとき、なぜか強い郷愁におそわれ、胸がしめつけられる思いがしました。
個人的に、スコットランドの楽曲は、アイルランドやウェールズのものと比べても格段に、人の心に懐かしい記憶を呼びおこすことに長けているような気がいたします。
My Love’s in Germanyの動画。
Stu Mo Runの動画。
Seven Scottish Airsを聴けるCDは、私の知るかぎり、この1枚だけです。
- 【GUSTAV HOLST Orchestral Music】
-
London Festival Orchestra
指揮:Ross Pople
録音年:1995年
レーベル:アルテ・ノヴァ
このディスクにはSeven Scottish Airsのほかにも、ホルストの作品が数点、収められています。
特に興味を引くのが、Six Morris Dance Tunesという楽曲。
直訳すれば、「6つのモリス・ダンスの曲」。
こちらも「名は体を表す」で、モリス・ダンスで使われる音楽のうち、6曲を編曲したものとなります。
モリス・ダンス、ご存知でしょうか。
これはイングランドに伝わっていた舞踊で、白装束で手足や腰に鈴をつけた出で立ちの男たちによって舞われます。
そのあまりに強烈な異教色が災いしてか、案にたがえず一時は弾圧されました。
現在ものこっているのは、イングランド北部に辛うじて生き永らえたもののようです。
Six Morris Dance Tunesに含まれる6曲のうち、Country GardensとShepherds Heyの2つは、第3回でおはなししたパーシー・グレインジャーも、ピアノやオーケストラ用に編曲しています。