バンジョー奏者の大倉さんに「バンジョー」の構造について解説していただきました。
テナーバンジョー
アイリッシュで使われるバンジョーはテナーバンジョーと呼ばれる物で、通常のバンジョーとは異なり弦が4本しかありません(図1)。
同じく4弦バンジョーにはプレクトラムバンジョーがありますが、プレクトラムバンジョーが普通のバンジョーと同じ長さのネックを持つのに対してテナーバンジョーはネックが短いのが特徴です。
その他の構造はブルーグラス等で用いられる通常のバンジョーと違いはありません。
大きな音量とよく通る音色による存在感でアンサンブルに牧歌的な雰囲気をもたらすバンジョーですが、元々はアイリッシュで使われていた楽器ではなくアメリカで発展した楽器です。
▲図1. バンジョー(左)とテナーバンジョー(右)
太鼓状の胴に棹を持つ楽器は世界中に見られますが、バンジョーの場合は奴隷貿易によりアメリカに持ち込まれた西アフリカのAkontingという楽器を西洋音楽向けに真似て作られた物とされています。
それまでの撥弦楽器より大きな音量が得られるバンジョーは当時の最新の楽器でした。
実は1854年の2度目の黒船来航時に日本に持ち込まれており、ペリー主催のパーティーで披露されたショーで用いられた様子が「米利堅船燕席歌舞図」に残っています。
当時の音楽を再現する「1854年黒船再現プロジェクト」にはJohn John Festivalの皆さんも参加歴があります。
バンジョーは20世紀初頭には最盛期を迎え、この時期には音量を求めてさまざまな楽器がバンジョー化されました。
アイリッシュで使われるテナーバンジョーもそうして生まれた楽器です。
アイリッシュへのテナーバンジョーの導入はアメリカのアイルランド移民によるバンド、フラナガン・ブラザーズが大きな役割を果たした言われています。
フラナガン・ブラザーズはマイケル・コールマンと同じく最も早い時期に録音を残したミュージシャンですが、こちらはいかにも当時のショーバンドという色合いでちょっと今の感覚からすると取っ付き難い雰囲気かもしれません。
しかし所々で披露されるトラッドに乗っ取った演奏ではアイルランド音楽における奏法の原型を聞く事ができます。
▲The Lietrum Thrush/Fermoy Lasses
楽器の選び方-各部説明-
バンジョーは部品が多く独特でカタログを読むのも一苦労です。
ここでは楽器各部の説明と楽器選びで特に重要になる点を紹介します。
ネックとポット
▲図2. ネックとポット
ネックはギターやマンドリンと特に変わる事はありませんが胴体一式の事をポットと呼ぶのはバンジョー独特の用語です。
ネックの各部
▲図3. ペグヘッドと指板
チューニングマシン(ペグ)が付いている部分をペグヘッド、ヘッドストック等と呼びます。
バンジョーでは単にヘッドと言うと後述する太鼓の皮を指す事が多いのです。
押弦する面は指板(フレットボード、フィンガーボード)と呼びます。
▲図4. ネック各部
各部(図4)の役割は下記の通りです。
チューニングマシン(ペグ)
バンジョーではペグボタン(つまみ)がストリングポスト(糸巻)の延長線上にあるプラネタリ―ギアタイプが本格とされます(チューニング精度は下がるのですが…)。
ナット
開放時の弦高を確保します。弦の乗る溝が切られています。
材質は牛骨が主流です。
ポジションマーク
押弦位置を把握するための目印です。省略される事もあります。
サイドポジションマーク
指板を覗き込まずにネックサイドに付けられるポジションマークです。
省略される事もあります。
ポットの各部
ポットは太鼓の様ですが現代的なバンジョーでは太鼓よりずっと多くの部品から構成されています。
ポットの各部は木部に施された装飾以外すべて分解でき、また現在製造されているバンジョーは部品が共通仕様になっているので交換してカスタマイズする事ができます。
▲図5. ポット詳細(1)
▲図6. ポット詳細(2)
▲図7. ポット詳細(3)
ヘッド
太鼓の皮です。
古くは子牛の皮(カーフスキン)、現在はプラスチック(PET)が主流です。
ブリッジ
ヘッドの上に立てられ、弦を受け止めます。
フィドルの駒と同じく固定されていません。
テールピース
弦を固定します。様々なタイプがあり、ほとんどのタイプはブリッジをヘッドに押し付ける力を調節する役割を持ちます。
テンションフープ
ヘッドを均一に締め付けるためのフープです。
テンションフック(ブラケット)
テンションフープを固定し、ヘッドを締め付けます。
ブラケットシュー
テンションフックをリムに固定します。
フランジの形式(後述)によっては無い物もあります。
アームレスト
腕がヘッドに付いてミュートされてしまうのを防ぎます。
省略される事があります。
リム
ポットの中心的な部品で、あらゆる構成部品を受け止めるシャーシのような物です。通常は11インチで、一回り大きい12インチの物もあります。
トーンリング
ヘッドの振動を受け止める部品で、振動の邪魔をしない様に細い縁でヘッドと接する様な構造をしたリングです。
安価な物では省略されますが、リムを加工してトーンリングの様な一体構造を持たせている場合は便宜上ウッドトーンリングと呼ばれる事があります。
コーディネーターロッド
ネックをリムに固定する他、リムが歪む力に対抗する役割を持ちます。
1本に省略される事があります。
フランジ
リムとリゾネーターの橋渡しをするとされますがリゾネーターは別の部品で固定されているので具体的にどの様な役割をしているのかはよく分かりません。
ブラケットシューが無くフランジがテンションフックを受け止める役割を持つタイプもあります。
リゾネーター
リム背面に取り付け共鳴胴を構成する反響版です。
装飾
各部に施される装飾の例です。
インレイ
ペグヘッドの図柄やポジションマーク等、楽器表面に埋め込まれた細工。
キャップ
リム下縁のような積層した木材の断面が見える場所を隠すための化粧板。
バインディング
指板やリム等に施される樹脂や木材による縁取り。
カービング
木部やアームレストへの彫刻。
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