バンジョー:アフリカ起源のアメリカの楽器


出典 https://larkinthemorning.com/

Lark in the Morningに掲載されている「バンジョーの歴史」についての解説記事を、当店でおなじみの翻訳家・村上亮子さんの翻訳でお届けします。

原文:Banjo: American Instrument with African Roots – Lark in the Morning

バンジョー:アフリカ起源のアメリカの楽器

アリーナ・ラーソン

バンジョーのあの軽快な音を聞くと、「これぞアメリカ!」と思うかもしれません。初期のバンジョーのデザインは、西アフリカの楽器とヨーロッパの楽器を融合させたのもで、今日でもこの軽快な楽器は形も大きさも様々です。バンジョーはオールドタイム、ブルーグラス、ジャズから今日のポップスに至るまで、様々な音楽とかかわりがあります。バンジョーは世界中で高く評価されており、多くの文化がそれを独自の伝統に取り入れています。

その構造について言えば、典型的なバンジョーは5弦で(そのうちの1本は他の弦より短いドローン弦)、胴体は革を張った丸いフレームです(ドラム・ヘッドとよく似ています)。他にも4弦のウクレレ・バンジョー、6弦のギター・バンジョー、4コースのマンドリン・バンジョーなど、様々な型があります。バンジョーそのものが融合してできた楽器なのです。アコンティングakontingというガンビアのジョラJola人の楽器によく似ています。これはgourd-lute(瓢箪リュート)属の楽器で、少なくとも古代メソポタミアまで遡ることができます。同属の楽器は世界中にあります(中国の三弦、日本の三線、ペルシャのター等)。ですからバンジョーは画期的な発明ではないけれど、様々な伝統が混ざり合って発展したアメリカ史の生きた産物なのです。(こちらもお読みください)

最初にバンジョーが話題に上ったのは1700年代で、もっぱらアフリカ系アメリカ人に演奏されていました。奴隷にされたアフリカ人が西アフリカからカリブへ、そこから北アメリカ大陸へ、奴隷労働のプランテーションへと、この楽器をもたらしたのです。(こちらもお読みください)奴隷たちにとってバンジョーはプランテーションでの厳しい生活や日々の苦しい労働の中の安らぎであるだけでなく、祖国とのつながり、祖先や神々との精神的なつながりでもあったのです。

バンジョーのドラムのような本体や長さの違う弦は(例えばコラモロッコのシンティールのような)アフリカの楽器の伝統を引いていますが、平らな指板とチューニング・ペグはヨーロッパの楽器の特徴です(詳しくはこちら)。バンジョーが普通に買えるようになる前は、瓢箪の胴体、動物の革のヘッド、フレットのないネック、ガット弦を使った手作りでした。今日では多様な形のバンジョーがあり、演奏方法も様々ですが、すべてこの初期のバンジョーとの類似点を持っています。

バンジョーの形や様式が進化していくにつれ、アメリカ文化の中でますます広く使われるようになってきました。1820年代には白人の歌手が、しばしば奴隷をあざ笑うように顔を黒くしてバンジョーを弾きながら歌いました。これら初期の芸人はよく言っても文化に無頓着で、悪く言えばひどい人種差別ですが、これもバンジョーの歴史の一幕であり、1950年代まで続きました。このため多くの黒人のミュージシャンがバンジョーから遠ざかってしまったのは残念な結果です。顔面黒塗りの芸人の描きだしたネガティブなステレオタイプと一緒にされたくなかったのです(こちらもお読みください)。

バンジョーの需要が増えるにつれ、ガット弦でフレットのない楽器は、より標準化された工場生産の金属弦の楽器に変わっていきました。ジャンルを超えて採用され、デザインの点でさらに進化しました。木の共鳴器が付き、今日と同じようによりドラムのようなヘッドになりました。19世紀後半になるとフレットが付き、1849年には5弦バンジョーの特許が取られました。今でもフレットのない瓢箪を利用した型もありますが、一般的ではありません。

南北戦争のあと、バンジョーとフィドルがよく使われるようになり、特にアパラチア音楽をする人の間で人気が出てきました。彼らはヨーロッパの民謡やフィドル曲をバンジョーで演奏し、この頃には厳密なリズムというよりメロディーの美しさで知られるようになっていました。これが今日も演奏されるブルーグラスとオールドタイムのスタイルの基礎となっています。第一次世界大戦の頃、バンジョーは初期のジャズに見られ、特に4弦のバンジョーが、クリアで歯切れのいい音でビッグバンドの伴奏に使われました。大恐慌後、バンジョーは徐々にアコーステック・ギターやエレキ・ギターに取って代わられていきました。ギターのほうが安価で、エレキ・ギターは音も大きく、ロックンロールやブルースにマッチしたのです(こちらもお読みください)。

1900年代半ば、アール・スクラッグズがスリーフィンガー・”ロール“・ピッキング奏法を広め、それが今日のブルーグラスの特徴となり、クラシック・ギターのフィンガー・ピッキングによく似ています。スクラッグズ以前はクローハンマー(指を鳥の鉤爪のような形にして、中指の爪で弦(複数)を上から下に弾き、親指を「ハンマーのように」1本の弦を打つ)が一般的でした。この奏法は今日でもオールドタイム奏者の間では人気があります。一方、大西洋の反対側では、アイリッシュの音楽家が4弦のバンジョーを(マンドリンのように)ピックで弾くようになりました。ピックで弾くバンジョーはドローン弦のない、4弦のものが一般的です。この場合、ディキシーランド・ジャズで見られるのと同じように、たまにコードを弾くことがあっても、メロディーがメインになります。

今日バンジョーは世界中で聞くことができ、大きさ、形、弦の数、素材等様々ですが、その独特な音色は、どのようなアンサンブルにもリズミカルではつらつとした趣を加えます。バンジョーの演奏例は下のリンクから見ることができますが、一番いいのは自分でやってみることです。

フレットレス5弦ゴ―ド・バンジョー
Adam Hurt

Rhiannon Giddenns

フレットレス5弦バンジョー
Dom Flemons

Jake Blount

フレット付き4弦テナー・バンジョー
Páraic Mac Donnchadha

フレット付き5弦バンジョー
Béla Fleck

バンジョーの歴史
Tony Trischka Five-String Banjo Basics

Uncovering the History of the Banjo with Rhiannon Giddens