ブズーキについて Part1

ブズーキの歴史や種類、派生楽器などについてT. Yoshikawaさんに解説していただきました。

ブズーキの歴史、発展、種類

ブズーキの起源は、17世紀のイギリスのシターンに遡ることができます。

エリザベス朝のイギリスでは、シターンは王侯貴族の間だけではなく、一般庶民の間でも親しまれていた楽器で、当時の様子を伝える様々な絵画が残っています。


▲シターンを弾く女性 (1677 by Pieter van Slingeland)

当時のシターンの弦長は460mm~540mm程度のものが一般的でした。

当時はまだ巻き弦を作る技術が十分に発達しておらず、低い音を出せる弦を作れなかったため、ウクレレのように、低音弦側にオクターブ上の弦を張るチューニング (Re-entrant Tuning) が用いられていたようです。

17世紀末頃にはシターン人気は下火になったものの、ドイツではヴァルトツィター (Waldzither) として人気を博し、生き残りました。

18世紀中頃になると、イギリスで、前世紀のシターンよりもしっかりとした作りのイングリッシュ・シターンが登場し、イギリスだけでなく、フランスなどの大陸側でも演奏されるようになりました。

また、ポルトガルでも同じような楽器が登場し、今日でもポルトガルギターやファド・ギターとして親しまれています (但し、ポルトガルギターがイングリッシュ・シターンから派生した楽器であるのかどうかなど、その詳しい起源はわかっていません)。

このポルトガルギターのデザインの様々な要素、特にネックヒールをボディの中に組み込んだスルーネックや、ブレーシング構造、独特のティアドロップ型のボディなどは、後にステファン・ソーベルなどの現代の製作家に大きな影響を与えることになります。

一方、東ヨーロッパでは当時、サズ (saz) や、タンブリツァ (Tamburitza) など、ロングネックの弦楽器が親しまれ、ギリシャでは20世紀になると、イタリアのマンドリンの製作法を応用したギリシャブズーキが作られるようになります。

このブズーキをアイルランドに持ち帰ったのが、スウィニーズ・メンのジョニー・モイニハンでした。

その後モイニハンのバンド仲間だったアンディ・アーヴァインのフラットを訪れたドーナル・ラニーは、彼のギリシャブズーキを自宅に持ち帰り、左利き用に弦を張り替えて演奏し始めます。

当時のギリシャブズーキは非常に弾きにくかったそうで、1970年にドーナル・ラニーはピーター・アブネット (Peter Abnett) に製作を依頼。

ギリシャブズーキのようなネックが長く、ギターやシターンのようにフラットバック構造を採用した楽器が誕生し、今日のブズーキの原形となったのでした。

現代のモダンブズーキの発展を語る上で欠かせないもう1人の人物が、イングランドの製作家、ステファン・ソーベル(Stefan Sobell)です。

時は1973年。

当時、アンプを使わないクラブでポルトガルギターを演奏していたソーベルは、ギターの音色には満足していたものの、常に音量不足を感じていました。

そんな中で彼は、ある日手に取ったマーティン社のアーチトップギター (Martin C-1) の遠達性に着目。

ポルトガルギターとアーチトップギターの構造を参考にしつつ、様々な音域に対応できるように、ポルトガルギターより少し弦長を伸ばしたシターンを製作し始めました。

当時彼が製作していたシターンの弦長は530mm-610mmと、現在の一般的なブズーキよりは短く、4コースのものをオクターブ・マンドリン、5コースのものをシターンと彼は呼んでいました。

このオクターブ・マンドリンは、現在主にケルティック音楽やヨーロッパの幅広いフォーク音楽で演奏されるマンドリンの原形となります。

ソーベルはその後もシターンだけに留まらず、弦長が650mm前後の4コースのブズーキや5コースのブズーキ (シターン) も製作して人気を博します。

また、マーティン・シンプソンのギターを製作したことでも彼は一躍世界的に有名になり、ブズーキファンの間でも、彼の楽器は高く評価されることになります。

ブズーキから派生した様々な楽器

ソーベルのブズーキやシターンは、ケルティック音楽の世界だけでなく、アレ・メッレルによってスウェーデンにも持ち込まれます。

アレは後に地元スウェーデンの製作家Christer Ådinと共に、ソーベルの基本的なデザインを参考にしつつも、スウェーデンの音楽に合わせた独自の楽器の開発を模索。

ナイロン弦とスチール弦の組み合わせや、弦の特定の位置にカポを装着できるピンポイント・カポの導入などがその特徴で、今日北欧音楽で一般的によく用いられるスタイルの楽器へと独自の発展を遂げました。

一方、ソーベルがシターン製作の元にしたポルトガルギターですが、70年代以降のケルティック・ムーヴメントの影響を受けたスペインのガリシア地方 (ポルトガル北部は元々ガリシア王国という同じ1つの文化圏でした) では、ブズーキとポルトガルギターを融合させたようなデザインの楽器も生まれ、パンチョ・アルバレス (Pancho Álvarez、カルロス・ヌニェスのバンドのギタリストとして有名) などが、アイリッシュ・ブズーキと共に愛用しています。

また、フォークミュージックの発展と共に、ブズーキでは表現しにくいような、低音がよく鳴り、サステインが豊富でぎらついた、12弦ギターのようなラウドなサウンドを求めて、ギターのボディに復弦を張ったギターブズーキ (ガズーキ、グズーキ) も登場しています。

名称について

ブズーキ、オクターブ・マンドリン、シターンなど、ブズーキに関連した楽器には様々な名前が付けられています。

どれにどのような呼称を用いるかについては、様々な観点から議論が行われており、製作者によってもかなりばらつきがありますが、

ブズーキ:弦長600mm以上の4コースの複弦楽器
オクターブ・マンドリン:弦長530mm~560mmのショートスケールの4コースの複弦楽器
シターン:弦長530mm~560mmのショートスケールの5コースの複弦楽器

という点では、ほぼコンセンサスが得られています。

これらの楽器の派生形として、弦長600mm以上の5コースの楽器は、音楽のジャンルによって、5コース(10弦)ブズーキや、ラージ・シターンなどとも呼ばれています。

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