ライター:松井ゆみ子
Down in the Willow Garden”という曲を初めて聴き、「え、サリーガーデンの原曲?」 と思って調べてみたらアパラチアのバラッドでした。
ですが歌詞も似ている箇所があり興味津々。すでにご存知の方には「今頃?」とあきれられそうですが、本日のお題です。おつきあいいただけましたら幸い。
テレビで観たのはLankumのバージョン。ちなみに彼らは以前Lynchedと名乗っていました。オリジナルメンバーの名字のLynch(リンチ)をもじったらしいのですが、なかなかに過激。彼らもそう思ったのか、誰かにアドヴァイスされたのか、メジャーになるとともにLankumと改名。トラベラー出身のフォークシンガー、John Reilly(ジョン・レイリー)のバラッドからとった名だそう。いきなり出てきたグループという印象があって斜めに見ていたのですが、今やすっかりファン。女性シンガーRadie Peat(ラディ・ピート)が何より素晴らしいし、男性陣のバラッドもかっこいいです。サウンドもいろいろ冒険しているし、旬というだけでなくリスペクトしたいグループです。
* まずは彼らの「Down in the Willow Garden」を。
“Rose Connelly”のタイトルでも知られるこの曲は、アパラチアで起きた殺人事件にまつわるバラッドですが、北アイルランド、デリーのColeraine(コールレーン)という町に同名の歌があったことが記録されているのだそうです。しかし“Down in the Willow Garden”の歌詞はむしろ“The Wexford girl”に影響を受けていると分析されています。さらにこの”Wexford girl”は“The Knoxville girl”というタイトルで、アイルランド東部ウエックスフォードからアメリカのノックスヴィルに舞台を変えて歌われています。イングランドで起きた殺人事件を下敷きにしているそうですが、歌詞はどれも酷似。ここで聞きくらべをぜひ!
*「The Wexford Girl」
*「The Knoxville Girl」
趣がまったく異なりますね!
ルービンブラザーズはカントリーミュージックのカテゴリーで活躍したグループですが、ゴスペルにも傾倒していたので、こういったテーマの歌を取り上げたのだと思います。
そして「サリーガーデン」。イエイツは、いとこが住んでいたスライゴー南部バリーサディア(Ballysadare)をしばしば訪れており、そこで年老いた女性が口ずさんでいた歌に惹かれます。チューンは完璧ではなく、何度も繰り返される短いフレーズから“Down by the Salley Gardens”を書き上げたという逸話は有名ですが、元になったといわれる歌は“You Rambling Boys of Pleasure ”アンディ・アーヴァインの持ち歌として知られています。
彼の詩集「旅に倦むことなし」のなかで、自身が「大好きな歌。イエイツの詩よりもはるかにしっくりくる」と明言。確かに、「サリーガーデン」を歌うアンディの姿は描きにくいですよね。歌ったことあるのかしら??
*ではここでアンディの歌う「 You Rambling Boys of Pleasure」を。
恥ずかしながらわたしは、サリーガーデンのサリーの意味もつい最近知ったばかり。Salleyは柳のことで、屋根を葺く材料にするために植えられた場所がサリーガーデン。恋人たちが逢瀬するのに適した場所だったのだとか。
スライゴー郊外に住む知人の家にもサリーガーデンがあります。広大な庭には1000本以上の木々があり、まるで森。その一角が柳で、彼らは家の暖房に使っています。環境にやさしい燃料で地元新聞に大きく取り上げられていました。
風にそよぐ柳はロマンティックでもあり、幽霊話に向くような妖しさもあり、イエイツ好みの舞台だったにちがいありません。
同時にそれは万国共通の印象なのでしょう。だからこそ、同じような状況設定でラブソングと殺人事件を憂いたバラッドが生まれたわけで。
サリーガーデンからアパラチアまで想像の旅に出ることになるとは思いもよりませんでした。
最後に。日本で「サリーガーデン」を聴くなら、ぜひ奈加靖子さんのバージョンを。アイルランドの伝統歌を集めたCDブックを出版されたばかりで、そこに収録されていますので、ぜひ!