フルートのチューニングについて知っておくべきすべて


出典 https://blog.mcneelamusic.com/

アイルランドの楽器メーカーMcNeelaが公開しているブログの中から「アイリッシュフルートのチューニング」についての記事を許可を得て翻訳しました。

原文:Everything You Need To Know About Flute Tuning

フルートのチューニングについて知っておくべきすべて

アイリッシュフルートのフルートチューニングのガイドです。この記事は、Fintan Valley著“A Complete Guide To Learning The Irish Flute”からの抜粋です。

チューニングの4つの側面

チューニングはフルート奏者ならではの悪夢ですが、その難しさは他の楽器奏者にも伝わるはずです。チューニングには4つ考えるべき点があります。

  1. 楽器個別のチューニング
  2. 固定したチューニング
  3. 個人のチューニング
  4. 他人と合わせること

最初の2点は、フルートそのもの音程が正しいかということです。個別の楽器の音程の良し悪しは楽器の品質次第です。ほとんどの場合は全く問題ないでしょうが、必要があれば電子チューナーで楽器に狂いがないかをチェックしましょう。

次に「固定したチューニング」とは、フルートの頭部管に詰めてあるヘッドコルクの位置により決まります。これも通常は出荷状態で調整されているので、動かさない方がよいでしょう。

「個人的なチューニング」とは、楽器をどう吹くかということです。最初のうちは難しいですが、奏者の耳が鍛えられるに従ってフルートと息との角度や距離によって音程が正確になるように調整できるようになります。

しかし、初心者の中には、これらの調整がうまくいかず、チューニングが狂ったまま吹き続けるという問題を抱える人もいます。これは奏者本人の「聴覚と動作の関係の欠如」という根本的な問題によるものかもしれません。

しかし、それ以上に考えられるのは、練習不足、不注意、あるいは思考不足によるものです。そのため、常に音を外しながら演奏する吹くことがありえるのです。というのもフルートには歌口の合わせ方、アンブシュアの形、息のスピードなど非常に多くの調整すべき要素があるからです。

人と音程を合わせる

基準に音程を合わせることは他人と一緒に演奏するときに最も重要ですが、まずはそれ以外の上記の3点に問題がないことを前提としています。

フルートは、固定ピッチ楽器(ピアノ、アコーディオン、コンサーティーナ、バグパイプ)に対応できるように、楽器の音程を変えることができます。

それはヴァイオリンも同じなのですが、ヴァイオリン奏者は、弦の張力を調節して簡単に音程を調整しますので、他人の楽器を調律してあげることもできます。しかしフルートは他の人のために楽器を調律してあげることはできません。なぜなら、人はそれぞれ口の形が違い、それによってチューニングも変わるからです。

フルートのチューニングは、楽器の全長を長くしたり短くしたりして歌口と指孔の距離を変えることにより行なわれます。「チューニング・スライド」があるフルートは、これを伸縮させることで簡単にチューニングができます。スライドを内側に縮めると音が高くなり、外側に伸ばすと音が低くなるのです。スライドがないフルートでは、頭部管と本体との継ぎ目部分を伸縮させることで調整することができます。

個人のチューニング

ステッキ・フルート(杖の外見の仕込み笛)のようにフルートが分割できない場合はチューニングができませんが、このような楽器は製造した時点では正確な音程となるように作られており、楽器が温まれば固定ピッチの楽器と合わせることができます。フルートが温まるまでは、吹く角度を変えることでチューニングを調整します。つまり歌口を手前に倒すとピッチが下がり、遠ざけると上がるのです。

通常、フルート奏者は演奏する前にA(ラ)の音を鳴らしてチューニングを合わせます。ただしその後、フルートが温まってきたら、チューニングをやり直す必要があります。一般に、A音はぴったりでも、他の音は必ずしも合わないことがあります。これは正常なことで、上記のようにフルートの歌口を少し回すことで補正する必要があります。この段階では、あまり深く考えない方が良いでしょう。なぜなら、上達するにつれて、あなたの耳が自動的に音程のずれを補正してくれるからです。

なぜチューニングが必要なのか?

楽器が調律されていないと、不協和音によって不快な音になります。フルートの問題は他の固定調律楽器と比較して正しい音程を維持することができない点です。これは演奏者と木材の性質に関係しています。

木材は湿度や温度に反応し、寒ければ音程が低くなり、暖かければ音程が高くなります。このため、楽器の長さを調整することで変化を補正する必要があります。フルートに唇を当てたとき、唇は緩かったり固かったりしますが、しばらく演奏していると、唇の状態は少しずつ変化し、しばらくは安定した状態を保つことができます。

これらの要素はフルートのチューニングに影響します。奏者が頻繁に演奏を休んだり再開したりするのであれば、フルートと唇の関係も断続的に変化することになります。楽器を再び手に取るたびに音程を補正して吹かなければいけません。しかし、極端に楽器が冷えていない限りは、休憩後に音程を正しくするためには、 チューニング・スライドの抜き差しで調整する必要はなく、演奏中に歌口との息の角度を調整するだけで良いのです。フルートの音程が他の楽器と揃うまでは音量を少し抑えておくと、曲の終わりにはだいたい音程が戻ってきます。

音程を何に合わせるのか?

電子チューナーはチューニングを確認するのに便利ですが、電子チューナーを使わずに調律が固定されている楽器に合わせることもできます。

チューニングは、ほとんどの楽器でA音に合わせるのが普通です。ホイッスルでAの音を吹いてその音程を頭の中に入れておき、フルートを手にしてA音を吹いてみてください。フルートがホイッスルより高いか低いかが判断できるはずです。そしてフルートをチューニングし、もう一度ホイッスルと比較してみてください。

もし他の奏者と一緒にいるのであれば、アコーディオンコンサーティーナなどの調律が固定されている楽器を演奏している人にAを長く弾いてもらい、チューニング・スライドを動かしながらAを吹きます。グループのウォーミングアップが済んでみんなでしばらく演奏しているような状況なら、どの楽器の奏者からでも良いのでAの音をもらえば良いでしょう。

音程が合っているかどうかを聴く

チューニングを合わせるときは、相手にAの音を伸ばして弾いてもらい、それに合わせて演奏します。 チューニングが合っていれば、あなたの音は相手の音と完全に一致します。大きくずれている場合は、ピッチが近づくまでチューニング・スライドを大きく抜き差ししてください。その際に「うなり」という波が聞こえたのであれば若干スライドを動かす必要があります。あるべき音程から離れていくに従い「うなり」は速く脈打つようになり、行きすぎて音程が完全にずれると、「うなり」は不協和の中に消えていきます。逆にあるべき音程に近づいていくと「うなり」は次第に遅くなり、音程が合うと完全に消えてしまいます。

騒がしいセッションや、人々が落ち着かない様子で演奏を待って座っているときには「うなり」は分からないものです。そのようにうなりを放置したままで音程が外れていては良い音楽になり得ませんが、実は最高のセッションには、かすかな不協和音はあるべきもので、合っている音と外している音が入り混じって、セッションの音に大きなエッジとエネルギーを与えるのです。

グループに異なる音感を持つ年配の奏者がいるような一定の状況下では、完璧に揃った音程を目指そうとすると、その場のリズムや音楽の化学反応を壊してしまうことがあります。セッションは舞台パフォーマンスではありません。芸術的な表現と共同作業を同時に伴った社会的なイベントです。一方でステージ上での演奏は違います。セッションにおいて良しとされるものは沈黙の監視にさらされた拡大顕微鏡の下では適用されませんし(つまり聴衆が耳をそば立ててステージの音楽を聴いているコンサートの状況)、ほとんどのステージの状況において、チューニングは極めて重要です。

チューニングの練習は、できる限りAの音を聴かせてくれる人(必ずしも音楽家でなくても可)とともに、「うなり」の感覚や正しい音を知ることができるようにしましょう。