ライター:松井ゆみ子
アイルランドの音楽番組は伝統音楽に限らず素晴らしいものが多く、家の居間が教室に早変わり。多くのミュージシャンの音楽とその背景、この国の歴史そのものを学ぶ機会になっています。
拙著「アイリッシュネスへの扉」で「うちにはテレビがない」と豪語していますが、実は引っ越し先にはテレビがあり、久しぶりに音楽番組と自国産のドラマを楽しんでいます。それでも番組をオンタイムで観ることは滅多になく、時間があるときにオンデマンドでまとめて鑑賞します。最近観た中で良かったのが国営ゲール語専門局TG4のドキュメンタリー番組“Port”。日本でもインターネットで観られると思いますので、ぜひご覧ください。
https://www.tg4.ie/en/player/categories/irish-music-series/?series=Port&genre=Ceol
番組のテーマは“music landscapes of Ireland and Scotland”で、プレゼンターはアイルランドのフルート奏者のミラン・ニ・アウリー Muireann Nic Amhlaibhとスコットランドのシンガー&マルチ楽器奏者のジュリー・ファウリスJulie Fowlis 。アルバムを共作したこともあるコンビで、番組のコンセプトも彼女たちが提案したのでは? と勝手に解釈。アイルランドとスコットランドの双方で相互のミュージシャンたちがともに演奏し、お互いの伝統音楽の根底に流れるものを再確認していくという興味深い構成です。ウェールズやブルターニュにも出かけて地元のミュージシャンたちとケルトの源流をさぐっていく回もあり、なかなか贅沢です。
アイルランドとスコットランドのミュージシャンが一緒に演奏することで、その違いも明確になります。スコットランドの音楽に疎いわたしは、彼らの音楽がときおり限りなく北欧の音楽に近いことに驚いたりもしました。
今年4月からシリーズ第三弾がスタート。初回を観たばかりなのですが、そこで個人的に大きな驚きがありました。ゲストプレゼンターのドーナル・オコナーDonal O’Connorに馴染みがなく、さっそくググってみたらカウンティ・ラウスLouth出身、現在ベルファストで活躍するフィドラーですが、幻の夫婦ユニットラ・ルーLa Lughの二人の息子でした! La Lughは1996年に“Brighid’s Kiss”という素晴らしいアルバムをリリースしています。まずは歌をお聴きください。
当時の話題盤で、わたしも即購入しました。しかしそのあとヴォーカルのエスナ・ニ・ウーラコンEithne Ni Uallachainが病気であることが発表され、まもなくして訃報を聞きました。まだ42歳の若さでした。2014年にトリビュートアルバム“Billinguaバイリングァ”が発表され、参加ミュージシャンにはメアリー・ブラック、カパケリーのカレン・マシーサンが名を連ねています。エスナはフルート奏者でもあり、その代役はモーリーン・がつとめたと聞きます。
エスナの夫であり、La Lughのメンバー、ジェリー・オコナーGerry O’Connerはフィドラーで(Four Men and A Dogなどに参加した同名のバンジョー奏者とは別人です)、息子ドーナルの師であったことはまちがいなさそう。久々にLa Lughの名前とともに、彼らの血を受け継いだ息子が演奏者として活躍していると知り、感慨を深めています。
テレビ番組“Port”は2シリーズが完結していて、どれも充実ですが、個人的なおすすめをまずご紹介します。オークニー諸島で収録されたもので、ホットハウス・フラワーズのリーアム・オメンリーが歌うシャンノースが圧巻です。
すぐに番組全部見られない、という方もいるかもなので、同曲が収録された別の映像をどうぞ。以前ここで書いたジョー・ヒーニーのチューンです。番組内で歌う場面では、共演している女性ミュージシャンたちの目がみんなハートになっていました。わたしも!
Liam Ó Maonlaí: Amhrán na hEascainne [Song of the Eel; Joe Heaney]