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クラン・コラ Cran Coille:ケルト・北欧音楽の森 Issue No.326
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Editor : hatao
July 2021
ケルトの笛屋さん発行
アイリッシュ・カーニバルのお知らせ:hatao
※本イベントは終了いたしました
https://celtnofue.com/blog/archives/8258
小さな動揺と不思議な映像?:field 洲崎一彦
先日、久しぶりに、アイリッシュ関連の野外のイベントを見て来ました。午後から夜にかけて、とあるお寺の境内を借り切ってアイルランド音楽のセッションライブがあり、まわりには有志の出店が数店舗出るというイベントです。この出店に、わがfield=野原屋も参加することになり屋台形式で「ギネスビール」と「カレーパン」を販売したのでした。具体的な出店作業はスタッフに任せていましたので、私はちらりとその様子をのぞきに行ったという次第です。
このイベントは本来は宝ヶ池公園というもっと広い会場での実施が予定されていたのですが、度重なる緊急事態の延長によって実施が延期されたことで会場がこのお寺に変更されました。しかし、大小のお寺と住宅が入り組んだ京都のとある町内の一角で、近づいて行くにつれどこからかアイリッシュのメロディが聞こえてくるという何とも言えないのんびりとした雰囲気が非常に心地よい絶好のロケーションだったと思います。
そして、私は前回の原稿で吐露したように、音楽脳がリセットされて、アイリッシュと言えどもその聞こえ方、とらえ方がもはや1年前とは大きく違ってしまっている事を再認識する事になるのですね。
私は演奏するという立場でこの場所に来たのではありませんでした。でも、正面のテントの下では見知った人達がセッションライブを繰り広げているわけです。正面のT君がけっこう離れているにもかかわらず私を見つけて手を振ってくれた。こちらもそれに気づいて手を振り返して近づいて行くと、彼はギターを弾くようなジェスチャーを私に返してくる。
ん?これがね、とっさに私は何のことかまったく判らなかったのです。が、この時、私はブズーキのAさんの背後まで近寄っていたので、はっと気づいた次第で。つまり、T君は私に楽器(ブズーキ)を持ってセッションの輪に入りなよ!と誘ってくれていたのですね。そこで私はT君に両手を広げてオーマイガッドのジェスチャーを返して、ああ、ここには、いつものセッションの仲間たちが集まっているのだ、という事をやっとリアルに認識するのです。
でもしかし。ん? あれ? あれ??もしかしたら、私はこの中に例えば楽器を抱えて混じっていても不思議では無いということなの? え?え? そこだけがどうもリアルではないドキドキするような感じ。
そして、すぐ前のAさんの隣には、あれあれ、fieldの最年少ちゅーちゅースタッフのK君がすずしい顔でフィドルを弾いているではありませんか。そして、さっきのT君との一連のやりとりでの自分の中に生まれた微妙な違和感をごまかすかのように、私はK君の頭をこづいて、お前、屋台の手伝いせえよ!と軽く威嚇したわけです。が、これが偶然にも曲が終わって音楽が途切れたのと同時だったのです。つまり、私の軽い威嚇の声は意外なほどあたりに響き渡ってしまったわけです。
演奏陣の面々はほぼ皆さん存じ上げている人達なのですが、その人々に一瞬ぴりっと緊張感が走ったのを確実に感じました。あ。という感じです。K君をいじった後はその奥のKさんに挨拶をしようと思っていたのですが、この、あ、によって私は気が付いたらその場から後ずさりで離れていて、目線を遠くに向けてしまったのです。そして、その視線の先に、つまり正面のT君の後方に、これまた久しぶりの知人であるD君をみつけて、あ、そうだ、彼に挨拶をしようとぐるっとまわってT君の背後に回りました。
ようやくT君の背後に来た時にT君はぐるっと回れ右をして私に握手を求めて来るではありませんか。彼はさっきのやりとりで私の微妙な動揺を見逃さなかったのですね。これは予想もしない奇襲です。恐らく私は目を泳がせながら彼の握手に応えた。すると今度はその隣に陣取っていたS女史が自分の奏でていたフィドルを肩からおろして私に渡そうとする。これには目の前がクラクラしました。S女史と言えば今や国内のアイリッシュフィドル奏者の中では名手に数えられる1人です。その女史が、自分の店のセッションで店のスタッフにスザキさんはフィドル弾かない方がいいえですよ、といつも苦言を呈されている私に自分の楽器を差し出す!? 肉を切らせて骨を断つに通じるこの恐るべき波状攻撃に私はたじたじとふらつきながらやっとのことでD君のもとにたどり着いてD君に挨拶をするとともに、気が付くと背後にのぞくお寺の御内陣に手を合わせ合掌をしているのでした。こうなったら、神様仏様に手を合わせる以外にもはや助かる道など無いではありませんか。
このようにして、私は微妙な動揺を抑えながら野原屋の屋台まで戻って行くわけですが、気が付くと、お客さんも思った以上に大勢おいでになっている。皆さんマスクをしていますから、知っている人もいたかもしれませんがぱっと見た感じでは判らなかった。というか、fieldでもアイリッシュのライブやイベントを何年も普通に実施して来たわけですから、なんとなく、アイリッシュ関係のイベントに来られる人々の一定の雰囲気は把握しているつもりでいます。しかし、私が思っていたような雰囲気の人達は案外少なく、アウトドアメーカーのロゴの入った上着やリュックを背負ってソロで来ている人たちが目立つ。ん?つまりそれって夏フェスのいでたちですよね。
今年は、各地で夏フェスも中止に追い込まれています。それで、夏フェスファンの人々が今回のイベントを見つけて足を運んでくれたという事なのでしょうか。もし、そうなら、これはすごく新鮮なことです。
そして、少しまだ動揺したままの私は、それら夏フェス姿の人達に目を転じた瞬間に、恐らく、普段はロックバンド等に興じているであろう彼らの耳にアイリッシュがどうのように届いているのだろうと思いをはせたその時、これはまあ錯覚だとは思うのですが、彼らの耳に届くアイリッシュ音楽の姿が見えたと言いましょうか、共感したと言いましょうか。
あ。アイリッシュはこんな感じに聞こえる音楽なんや!と、何やらすごく新しい映像を見たような気持ちになりました。
午後の、大小のお寺と住宅が入り組んだ京都のとある町内の一角。イベント開始の直前には急に風が吹いて大粒の雨が降った。これはある意味夏フェスでは当たり前の風景で、それで、アウトドアメーカーのパーカーなどが夏フェスの定番ファッションになった。そして、大粒の雨もすぐに止んで、気持ちのいい夕方になり、出店がいろいろなものを売り始め、そこにアイリッシュ音楽が染み入るように漂い始める。
この、夢心地のようなとろーんとした雰囲気。誰でも楽器を持って入ってくださいね、という和気あいあいセッションとも違う。ガシガシと殺気みなぎるセッションとも違う。この、急に時間がゆっくりと流れ出すような雰囲気を、速いテンポのアイリッシュのダンス音楽がそれを作り出している手品のような不思議。微妙な緊張と動揺の中でこんな風景を見た、久しぶりのアイリッシュ体験でありました。
いやはや、やはりわたくし、音楽の聞こえ方が変わってしまったのですかね。(す)
メアリー・バーギンのようにホイッスルを吹くには:村上亮子翻訳
https://celtnofue.com/blog/archives/8267
編集後記
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クラン・コラ:アイルランド音楽の森(月1回刊)
発行元:ケルトの笛屋さん
Editor :hatao
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