全半音階が演奏できる世界的にも珍しい10孔ホイッスルについて詳細に解説します。

弊社で販売しているアメリカ・コネチカット州の木管楽器メーカーMusique Morneauxのフル・クロマチック(全半音階)の10孔ティン・ホイッスルをご紹介します。

一般的なティン・ホイッスルは6つの指孔が開いたダイアトニック(七音音階)の楽器です。イリアン・パイプスやボタンアコーディオン、コンサーティーナなどアイルランド伝統音楽のいくつかの楽器はこのようなダイアトニック楽器で、これはピアノの白鍵だけが演奏できるイメージです。


Feadog ティン・ホイッスル D管(真鍮製)

しかし、たまに黒鍵(半音階)が必要になる場合があるでしょう。ティン・ホイッスルではこのような場合、指孔をすこし開く/閉じる方法(half holdingハーフ・ホールディング)やひとつ飛ばしで空いている指孔を閉じる方法(cross fingeringクロス・フィンガリング)によって半音階を発音します。

ティン・ホイッスルは半音階を演奏するように設計されていないので、いずれの方法でも正確な音程の半音を得ることは容易ではなく、演奏者の音感が良いことと、繊細の指先のコントロールができることが、良い音程で演奏ができる条件となります。しかしそれであっても運指のつながりには制約があり、素早い動きに対応するのは困難です。また、これらの運指法では、音量が弱く暗い音色になります。

この10 hole whistle(10孔ホイッスル)は、世界的にも大変めずらしい、全半音階に対応したホイッスルです。それぞれの半音に対応する指孔を開けています。追加された4つの指孔はすなわちD#️(右手小指)、F♮(右手親指)、G#️(Mark1では左手薬指、Mark2では小指)、C♮(左手親指)です。

これらの指孔を利用することで音量や音色の差がなく、また比較的スムーズな運指で半音階を演奏することができます。なお、B♭の指孔がありませんが、この半音はクロス・フィンガリングによって得ることができるため、省略しているようです。このようなホイッスルは、ほかに例を知りません。

この10ホール・ホイッスルにはMark1と2のタイプが製造されています。Mark1では左手の薬指で操作する指孔がダブル・ホールになっているのに対して、Mark2では左手小指用に指孔が設けられています。


▲左がMark1、右がMark2

運指についてですが、6孔のホイッスルに慣れている奏者は一見、指孔が多い分不便に感じられると思います。しかし右手小指をずっと閉じ続けて(Mark2の場合は左手小指も閉じ続けて)演奏すれば、通常の6孔のホイッスルと全く同じ感覚で演奏することができ、必要に応じて半音階の指孔を解放すれば良いことになりますので、多少の慣れと練習によって違和感なく対応できるかと思います。

もちろん10孔ホイッスルでも半分閉じやクロス・フィンガリングによって半音階を得ることはできるので、運指の選択肢がより多くなり、状況や好みによって3つの運指法から選択することができるということになります。

例えばスライド(ポルタメント)しながら音程を変えたいときは半分閉じで、素早く行き来したいときは対応する指孔でということです。

筆者(hatao)は10孔ホイッスルにはまだ慣れていませんが、派生音を出すたけでなく相当な練習をすればリコーダーやモダン・フルートのように全ての調で演奏することも可能だと感じました。クラシック音楽など12音すべてを使う必要があるジャンルを演奏するには選択肢として考えてもよいかと思いました。

なお半音階を演奏するならソプラノ・リコーダーを使うということもできます。確かにリコーダーでアイリッシュを演奏することは可能です。10孔ホイッスルとリコーダーとの違いは、音色、装飾音への反応の速さ(ホイッスルは指孔が小さいため速く反応する)、F♮とF#の運指の違いのためホイッスルのほうがニ長調(Dメジャー)が吹きやすいことなどの違いがあります。そのため、10孔ホイッスルはリコーダーでは代用できないホイッスルらしい演奏を保ったまま全半音階を得られる楽器とみなすことができるでしょう。

最後に、これをさらに改良したMark3製作の要望をメーカーに出しております。それは、小指の指孔をリコーダーと同じ低音のド♮に割り当てて、DとD#️のダブル・ホールにするという運指です。これが完成すれば、スコットランドのバグパイプのレパートリーやハ長調(Cメジャー)も演奏が可能となり、さらに可能性が広がりそうです。完成が楽しみですね。


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