アイルランド音楽の真髄 イリアンパイプスの魅力 (1)楽器のおはなし

アイルランド音楽で演奏される数ある楽器の中で、最も伝統を体現する楽器、それがイリアン・パイプスだ。今週日曜日、そのイリアン・パイプス奏者である内野貴文さんと私フルート奏者のhataoとのデュオ・コンサートを東京で開催するに向けて、今日から4回に分けて毎日、私のパイプス愛を語ってライブへの気分を高めていきます。コンサートまでぜひお楽しみに!

さて初回の今日は「イリアン・パイプス」について。この楽器を知らない方のために簡単に紹介すると、まずスペルはUilleann Pipesと書く。Uilleannというのはゲール語(アイルランド語)で「肘」という意味だそうだ。バグパイプというバッグ(袋)に空気を溜めて複数のパイプ(笛)を同時に演奏するカテゴリーの楽器なのだが、肘でふいごを吹いてバッグに空気を送る仕組みのためゲール語と英語の合体した名称になっている。

ここでバグパイプ全体に話を広げると、バグパイプというのはヨーロッパを中心に北アフリカや中東まで広く演奏されているが、最も原始的なスタイルは単純に皮袋に笛(ここではオーボエのようなダブルリードや、クラリネットのようなシングルリードのどちらもあるが、ホイッスルのようなエアリード系はたぶんない)を挿したものだ。バグパイプの袋は動物の皮で作られることが多いため、キリスト教文化圏では羊飼いの演奏する楽器というアイコンで讃美歌などに登場することがある。面白いことに、中国やモンゴルも動物を家畜としている文化だが、バグパイプは無いようだ。中国にはヒョウタンに3本の笛を挿すフルスという楽器はあるけれど、その話はまた別で。

で、このバグパイプ、その最も原始的なタイプは楽器として多くの制約がある。まず、一度吹き始めたら吹き終えるまで音を止めることができない。つまり休符が表現できない。そして舌が使えないので音をタンギングできない。つまり同じ音程の音を区切ることができない。そして音量の変化がない。つまり強弱が表現できない。そして多くのタイプは音を裏返して(オーヴァーブロウで)高音域を演奏できない。つまり音域が狭い。そして多くの場合、半音階が演奏できない。

こういった制約をさまざまなアイデアで改善したものが、イギリスのノーサンブリアン・スモールパイプスだったり、スペインのガイタだったり、アイルランドのイリアン・パイプスだったりする。なお、この制約をものともせず、1オクターブの音域での演奏を芸術まで高めたのはスコットランドのハイランド・パイプスだ。これはまたすごい音楽なので、機会を改めてご紹介したい。

この数あるバグパイプの中で今回はイリアン・パイプスを聴いていただく。イリアン・パイプスは、とてもユニークに進化発展した楽器である。まず、管楽器の音域を広げるためにはオーヴァーブロウをする必要があるのだが、管内の圧力を高めてリードを「ひっくりかえす」ためには管の先を閉じなくてはならない。イリアン・パイプスでは管の先を気密性の高いシート(たいていは皮の切れ端)でふさぐのだが、そのために座って演奏する。この管の先をしょっちゅう閉めたり開けたりするので、筒の先は指孔のようなものとして扱い、その操作はけっこう見応えがある。

続いて、ドローンはスイッチ式で切り替えが可能で、3本、それぞれオクターブ違いでD(レ)に設定されている。各地のバグパイプの中でも、ドローンの響きがとてもゴージャスで甘い音色がするのが特徴だ。

最もユニークで面白い機構はレギュレーターの存在である。これは伴奏のための管で。3管あるのだが、右手の手首で押すことができるキーが複数ついている。これを組み合わせていくつかの和音を奏でて、メロディに和声的、リズム的な伴奏を加える。これはソロ楽器として進化した証でもある。時に、右手の指先でキーを直接押してメロディや副旋律を奏でたりもすることがある。演奏の様子は見ていてとても面白く、レギュレーターの名人芸的な操作で有名な奏者もいたりする。

そんなパイプスを、ぜひコンサートで見てください。明日は、私のお気に入りの奏者を紹介します!

hatao & 内野貴文 フルート&パイプス無伴奏デュオ

【日時】

2023年11月26日(日) 演奏:14時~16時、その後セッション

【会場】

Studio Ode.Inc
東京都中央区日本橋人形町2丁目25−16 人形町ビル 3F

【料金】

2000円(要予約)、セッションのみの参加1000円

【内容】

無伴奏ユニゾンはアイルランド音楽の真髄、中でもイリアン・パイプスは数ある伝統楽器の中でも最もアイルランド音楽を体現しています。フルートとパイプによる伝統的なパイプ・チューンでの端正なユニゾンをお楽しみください。演奏後はセッションも予定しています。 (hatao談)

【ご予約】

こちらまでメールにてご予約ください。
hataoアットirishflute.info または
http://irishflute.info/contact.html

★ライブ特典!★

来場した方に、ライブで演奏する10セット23曲分の楽譜と私のソロ演奏のデータをダウンロードできるQRコードをプレゼントします。パイプのレパートリーを学びたい方はぜひ来場ください!必死のパッチ、やぶれかぶれの大サービスです。