アイルランド音楽の真髄 イリアンパイプスの魅力 (4)パイプ・チューンとは

今週末の日曜日に東京人形町で開催される、パイプスとフルートのデュオ・コンサートに向けて毎日ブログを投稿しています。

今日はいよいよパイプスの独特なレパートリー「パイプ・チューンpipe tune」について。

パイプスにはアイルランド音楽の他の楽器よりも長い伝統があるため、より多くの古い曲が伝わっています。中には、ゴールド・リングThe Gold Ring(金の指輪)という曲のように、妖精にまつわる曲もあります。

この曲について、伝説的パイパー、シェイマス・エニス Seamus Enisはこのように語っています。

これは、あるバグパイプ奏者の物語だ。

彼は勇気を持って、妖精たちの素晴らしい音楽を聞くために、夜に妖精の住む小さな丘(フェアリー・ラス fairy rath)の近くで隠れて過ごした。通常、妖精たちは夜通し音楽を奏で、日の出になると丘に戻って眠りにつくのが習わしである。その夜の祭りが終わると、バグパイプ奏者は隠れていた場所から出てその場所を調べると、妖精が落とした小さな金の指輪を見つけた。

翌日の夕方、彼は再び丘に戻り、同じ場所に隠れて再び小さな妖精たちの音楽を聞くことになったが、今回は金の指輪を失った妖精のバグパイプ奏者が嘆き悲しむ声が聞こえた。妖精は指輪を取り戻すためならどんな願いでもかなえると泣きながら言った。それに応じて、男は隠れていた場所から出てきて指輪を返し、どのようにしてそれを見つけたかを説明した。妖精は約束通り願いを叶えると言った。「この前聞いたジグ」、と男が言った。すると、妖精のバグパイプ奏者は即座にその願いをかなえ、男はその曲が演奏できるようになった。それ以来その出来事を記念して「ゴールド・リング」と呼ばれる曲となったのだ。

― 出典:http://forums.chiffandfipple.com/viewtopic.php?p=984204

今回のコンサートでは、このゴールド・リングの、セッションでは全く演奏される機会のない珍しい、シェイマス・エニスのヴァージョンを演奏します。

他にもパイプ・チューンと言われる曲は数々ありますが、それらには共通の特徴があります。それは、パイプスのD(レ)のドローンの音の上で演奏されると、とても良い響きがするということ。パイプスのチャンター(メロディ管)の音程は、平均律ではなく純正律でチューニングされており、ドローンの音に対して完全に調和します。

このドローンの音程はDで固定されているために、Em調やBm調やA調ではうまく響きません。これらの調のときはドローンを止めて演奏することが多いです。そのためパイプ・チューンと呼ばれるレパートリーはD調やG調という、ドローンと完全に調和する調となっています。パイプ・チューンは、この響きを楽しむことができる贅沢な曲なのです。

また、パイプス独特の装飾音を盛り込むことができ、その技術で聴衆を魅了する曲が多いことも特徴です。

今回のコンサートでは、ウィリー・クランシーやシェイマス・エニスという歴史的な偉大なパイプ奏者の、ふだんのコンサートではなかなか演奏されないパイプ・チューンを演奏します。

さて、今日まで4回に分けてブログを執筆してきましたが、これまでパイプスに馴染みがなかった読者の方も、だんだんパイプスが聴きたくなってきたのではないでしょうか?

実は私がアイリッシュを聴き始めたころ、一番敬遠していたのがパイプスだったのです。フィドルやフルートに比べて音色に馴染みがないし、音色や強弱の変化がつけられないのは楽器として欠陥なんじゃないか、音楽が単調になるんじゃないかって思っていたのです。特に聴くのが難しかったのはパイプス・ソロの録音です。それが大きな誤解だったことに気づくには少し時間がかかりました。
その後パイプスの伝統やレパートリーにふれ、パイプスこそがアイルランド音楽の真髄であり、その真価は無伴奏の時にこそ発揮されることを知り、それ以降はむしろ60分間パイプスだけのソロ・アルバムを好んで聴くようになりました。この連載シリーズでパイプスの魅力が少しでもアイルランド音楽ファンの皆さんに伝われば幸いです。

さあ、明日のコンサートではどんな曲が奏でられるのか?
どんなパイプ話が聞けるのか、楽しみになってきましたね?

このブログを書き始めてからだんだんと予約が入ってきましたが、まだお席少々残っています。次にこのコラボがいつできるかはわかりませんので、ぜひご来場ください。たぶん当日でも大丈夫ですが、席を確保したいのでしたら予約をおすすめします。

hatao & 内野貴文 フルート&パイプス無伴奏デュオ

【日時】

2023年11月26日(日) 演奏:14時~16時、その後セッション

【会場】

Studio Ode.Inc
東京都中央区日本橋人形町2丁目25−16 人形町ビル 3F

【料金】

2000円(要予約)、セッションのみの参加1000円

【内容】

無伴奏ユニゾンはアイルランド音楽の真髄、中でもイリアン・パイプスは数ある伝統楽器の中でも最もアイルランド音楽を体現しています。フルートとパイプによる伝統的なパイプ・チューンでの端正なユニゾンをお楽しみください。演奏後はセッションも予定しています。 (hatao談)

【ご予約】

こちらまでメールにてご予約ください。
hataoアットirishflute.info または
http://irishflute.info/contact.html

★ライブ特典!★

来場した方に、ライブで演奏する10セット23曲分の楽譜と私のソロ演奏のデータをダウンロードできるQRコードをプレゼントします。パイプのレパートリーを学びたい方はぜひ来場ください!必死のパッチ、やぶれかぶれの大サービスです。