歴史と伝統を求めて:hatao

ライター:hatao

かれこれ25年アイルランド音楽を演奏してきました。昔は流行りのバンドを追いかけたり、最新の演奏技術を見て興奮していたりしたのですが、ここ最近はやたらと古いものが聴きたくなります。特に70年代〜90年代くらいの、フィドルやコンサーティーナだけの地味な録音はとても心地よいものです。無伴奏のパイプの音源なんて昔は退屈で聴けなかったのに、ブレない太いノリで淡々と演奏するさまに演奏家の信念や人生経験の蓄積を感じて最高です。

話は変わりますが、この夏は北海道から兵庫県まで車中泊をしながら10日くらいかけて帰ってきました。このようなスタイルの旅は初めてで、街ごとに食・建築・伝統文化・方言が地続きに変わっていく様子に日本の地域文化の多彩さを感じました。旅先ではSNSで僕に会いたい人を募集をして、お食事をしたり一緒に楽器の練習をしたり交流をしたのですが、彼らが皆、郷土に誇りを持っていることが印象に残りました。かつて貧しかった東北は、新幹線で首都圏と結ばれてからいっそう人口流出に拍車が掛かったそうです。それでも残っている人なのですから、郷土に強い思い入れがあるのは想像に難くありません。私は特に言葉に関心があるので、会う人々に方言について聞いたのですが、やはりというか、昔ながらの方言を話す人は減っているそうです。兵庫県に帰って、大阪出身の弊社のスタッフに「そういえば君は大阪出身なのに、大阪弁が全然出ないね」と聞いてみました。彼曰く大阪弁はお客様に怖い印象を与えてしまうので、店長という立場上あえて封じているとのことでした。大阪弁は怖いのでしょうか? そこで、「じゃあ、この文章を大阪アクセントで読んでみて」とけし掛けたところ、あやふやに。キミもしかして大阪弁喋られへんのか、などと私は鬱陶しく絡んでしまいました。

彼が言うには、方言が消えていくのは時代の自然な流れで、自分は大阪弁は好きだけど無くなるなら仕方がないのだそうです。歴史や伝統や地域文化の価値というのは、その当事者にはわからないものなのかもしれません。

ここで話が戻るのですが、私がアイルランドの伝統音楽に惹かれるのは、私が北海道出身であることと関係があると考えています。北海道は移民の土地で、せいぜい150年ほどの歴史しかありません。北海道の北広島、新十津川という地名にあるように、全国各地の人が集まって新天地を開拓したため、文化的には日本各地のミックス、そして当時のアメリカ洋式の建築も多く、景色は洋風で街は近代的です。大学進学で京都に出てさまざまな文化背景のクラスメートと出会い、自分の浮草のような寄る辺なさを恥ずかしく感じました。いま振り返ってみると、伝統的なものやローカルなものに力強さや憧れを感じるようになったのは京都に行ったことがきっかけです。今や私は日本でも特に古い信仰の土地である熊野に拠点を移し、畑を耕し味噌や梅干し作りをする極端に走っています。

そんな田舎暮らしで物足りないのはコミュニティと伝統文化の存在です。ここにはアイルランドのように地域住民が集まって盛り上がるような文化はありません。それ以前に日本の農村は人口減少が著しく、祭りができないどころか、コミュニティが消滅した集落も増えています。集落のかつての住民に出会ったおり、昭和まではここでも盆踊りがあって夜明けまで踊ったものだと聞くと、そのような時代をこの目で見ることができなかったことがつくづく惜しく感じます。先日は来日したスウェーデンの伝統音楽家と話す機会があり、このようなことはスウェーデンの各地でも起きていると言っていました。

彼のつぶやきに、心打たれました。
”If it dies out, you can’t find it anywhere…“

伝統的背景を求めていた若い私は皮肉にもアイルランドの伝統音楽に出会ってしまったのですが、それは日本では失われつつある生きた伝統文化がこの音楽にはまだ健全に育まれていることを感じ取ったからなのでしょう。

そんな自分ですが、この夏に会津と函館にある幕末の戦跡をめぐり、日本人が北海道に至るまでの経緯や黎明期の北海道の歴史を知ることで、日本の歴史と伝統が北海道人である自分にまで一本の糸でつながっていることをイメージすることができました。世界中で失われつつある伝統や地域文化に対して私はあまりに無力ですが、伝統とは人間を規定し進むべき道を示す重要なものだという思いを強くした旅でした。

イリアンパイパー内野貴文さんとの無伴奏デュオ

【日時】2023年11月26日(日) 演奏:14時〜16時、その後セッション

【会場】Studio Ode.Inc
東京都中央区日本橋人形町2丁目25−16 人形町ビル 3F

【料金】2000円(要予約)、セッションのみ1000円

【内容】イリアンパイプス奏者の内野さんとの初めてのコンサートです。

パイプとフルートのピタっと揃った無伴奏デュオを目指して今から準備をしています。

コンサート後にはセッションを開催しますので、楽器持参でお越しください。

【ご予約】こちらまでメールにてご予約ください。
hataoアットirishflute.info または
http://irishflute.info/contact.html